このタイトルを見て「ビスコンティ!」と歓声を上げる方も(特に女性)多いのではないでしょうか?
あるいは作曲家ワーグナーを連想する方もいらっしゃるでしょうね。
もともと【ラグナログ】に【神々の黄昏】という意味はありません。
ワーグナーが楽曲『ニーベルンゲンの指輪』の最終章に『神々の黄昏』と翻訳されたため、今ではラグナログ=神々の黄昏とも考えられているそうです。
北欧神話とラグナログ
ラグナログという言葉は北欧神話に登場します。
古北欧語と言われる古ノルド語は8世紀から14世紀にかけてスカンディナビア半島の住民達が使った言葉と言われています。
この古ノルド語で【神々の黄昏】や【神々の運命】を意味する言葉が【ラグナログ】で、神々と巨人の戦いの中でも最大級のもので、しかも最後の戦いを意味するそうです。
では、その【ラグナログ】とは一体どんなものだったのでしょうか?
本家の北欧神話を紐解いてみましょう。
北欧神話の最高神はオーディンと呼ばれ、戦争と死の神でもあり、吟遊詩人をサポートするパトロンでもあったようです。
力もあるが、知性も備えていた神ということで、文武両道というわけですね。
ところが、そんなオーディンこそが最終戦争=ラグナログを誰よりも恐れていたのでした。
自分の命が危うくなるということを心配していたのかも知れませんね。
神も死ぬらしいです。
日本神話でもギリシャ神話でも神は死にますからね。
ラグナロクはヘイムダルの吹く角笛で始まります。
そのラグナログの準備として【エインヘリヤル】という戦死した人間を徴兵しました。
エインヘリヤルには戦死した勇者という意味があって、生きているとき勇敢な兵士だった者は死しても勇敢だと思われていたのでしょう。
オーディンは【目を付けた勇者をエインヘリヤルにするため】に人間界に争いを起こしたこともあるとか。
要するにエインヘリヤルにするために【目を付けた人間を死なせる】ように仕向けたんですね。
本末転倒というか、勝手すぎると言うか…まあ、ギリシャ神話でもこういうことはありましたし、そこが神たる所以なのでしょう。
ラグナロクの時系列
ラグナロクとはどのような争いだったのでしょうか。
ラグナロクを時系列でまとめるとこうなります。
①オーディンの陰謀
まずは最高神オーディンの陰謀から始まりました。
前述したように彼は自分の意に適う戦士を集めようと、わざと人間達の間に戦いを起こし、人間界を混乱させました。
結果としてオーディンのもくろみ通り、大勢の死者が出たのです。
②バルドルの死
そして、オーディンの息子バルドルの死です。
このバルドルはなかなかの美青年で優れた息子だったと言われています。
多分感受性も豊かだったのでしょう、彼が不吉な夢を見たと言うので、神々が不安に思うようになったということです。
そんな息子を心配した母フリッグがオーディンに頼み込み、バルドルはほぼ不死身になりました。
ほぼと言うことは弱点があると言うことです。
その弱点を突いたのが弟のヘズでした。
しかし、弟は自分一人の考えで兄を殺したのではなく、邪神ロキにそそのかされ、つい出来心で兄をてにかけてしまったのでした。
③バルドル復活を願うも失敗
全く持って惜しい息子バルドルが復活=生き返るための許可を得ようとオーディンは息子の一人ヘルモーズを冥界へ遣わしました。
死人を生き返らせるという難しい願いを聞いていた冥界の女王ヘルは条件を出します。
「では、全ての者が泣いたら兄を復活させてあげましょう」というなかなか厳しい条件でした。
大勢の人が泣きましたが、ただ一人魔女セックは泣きませんでした。
そのせいでバルドル復活の願いは叶わなかったのです。
実はロキが魔女セックに化けていたのです。
④邪神ロキ(発端)の捕縛
バルドル復活を邪魔したロキ。
怒った神々はロキを捕まえ、拷問にかけました。
毒蛇を使ったそうです。
さすがに苦痛の悲鳴を上げるロキ。
そのせいで大地震を引き起こしました。
④天変地異
ロキの引き起こした大地震、それは自然に影響を与えました。
冬が3度続き、太陽と月がオオカミに飲みこまれてしまったため、世界は暗闇に包まれてしまいました。
これは日蝕ではないかと思いますが、当時は日蝕という概念が無かったので、オオカミに食べられたと考えられていたようです。
⑤人間界の混乱
オーディンの策略で疑心暗鬼になった人間は親や兄弟の間でも殺し合いが始まり、全世界が戦場と化してしまいました。
最高神のやることとは言え、人間にとってはとんでもない悲劇です。
ここで筆者はトロイ戦争を連想します。
ゼウスと言い、オーディンと言い、人間を道具にしか考えてないんだなとガッカリしますね。
⑥最終戦争=ラグナロク勃発
人間界も神界も混乱し、秩序もルールも無くなった世界で、遂に神々と巨人が激突します。
巨人は神々と対立していた一族でした。
戦いのきっかけとなった邪神ロキは捕縛されて鎖につながれていましたが、混乱に乗じて逃亡し、死者を乗せた船ナグルファルに乗ってオーディンの元へ襲来します。
魔狼フェンリルは大きくその口を開けて世界を飲みこもうとします。
そして海底を取り巻く大蛇ヨルムンガンドも大地へと上陸し、神々へと立ち向かうのでした。
さらに、この混乱を機に炎の巨人ムスッペルたちも一丸となって攻撃をしかけてきたのです。
ついに巨人と神々との最終決戦=ラグナログが始まってしまったのでした。
神族 vs 巨人族
以下に神対巨人の個人戦を説明します。
オーディン vs フェンリル
フェンリルはロキと女巨人アングルボザとの間に生まれた3兄弟の長男。
狼の巨人です。
最高神として、司令官として真っ先に戦場を駆けたオーディンは巨人フェンリルに飲みこまれて負けました。
死んだということでしょう。
その後、父オーディンを殺された息子ヴィーダルが敵討ちとばかりフェンリルを倒しました。
トール vs ヨルムンガンド
ヨルムンガンドはロキの3兄弟の次男、つまりフェンリルの弟にあたります。
ヨルムンガンドは人間界ミズガルズを取り巻くほど巨大な蛇といわれています。
一方、トールは最高神であるオーディンと女巨人ヨルズとの間に生まれたいわばハーフ。
そのため、凄まじい怪力で雷を操るミョルニルという大槌をもつ神です。
大槌(ミョルニル)で大蛇ヨルムンガンドを倒したトールでしたが、ヨルムンガンドに噛まれたところから毒が体内に回ったため、結局は両者死亡で相打ちとなりました。
ヘイムダル vs ロキ
ヘイムダルは、優れた視力と聴力をもち、アースガルズに巨人族が侵入してこないように見張る番人です。
一方、ロキはもともと巨人族に生まれましたが、オーディンとの兄弟の契りにより一時は神族に迎えられたが、ロキのもつ悪知恵により神族の敵となりました。
このロキの悪知恵と邪神ぶりは日本神話のスサノオを彷彿させるものであり、トリックスターの元祖ともいわれています。
この戦い以前より、何かにつけて張り合うライバルだったと言われる二人は、このラグナロクでケリを付けるべく最終決戦に挑みました。
だが結局勝敗は決まらず、相討ちで終わりました。
フレイ vs スルト
フレイは元はヴァン神族であったが、後に妹フレイヤと共にアース神族に加わりました。
豊穣と富を司る美男神として知られています。
一方、スルトは灼熱の国ムスペルへイムに住むムスッペルと呼ばれる巨人族の首領です。
スルトの巨大な黒い体と「太陽のように輝く剣」と呼ばれる炎の剣は強力です。
女巨人と結婚するために、ひとりでに巨人を倒すという「フレイの宝剣」を手放したフレイに勝てる見込みは全然ありませんでした。
それでもフレイは鹿の角で応戦したのですが、敗北しました。
勝者となったスルトは大地に火を放ったと言われています。
ラグナログで、多くの神々と巨人が滅び、戦火で焼き尽くされた大地は、海の底へ沈んでしまったのでした。
様々な作品に登場する「ラグナロク」
私が最初に「ラグナロク」という言葉を知ったのは、たがみよしひさ著の『滅日』という漫画だったと記憶しています。もちろんゲームにもラグナロクは度々登場しましたが、その意味を知らずにやっていました。
ラグナロクといえば、オンラインゲームに『ラグナロクオンライン』というものがありました。
ラグナロクオンライン
ラグナロクオンラインはグラビティという韓国のゲーム会社によって製作されたMMORPG(多人数同時参加型)ゲームです。
日本のオンラインゲームの出発点とも言われており、かわいいイラストが人気で2002年から15年間も親しまれてきたゲームですが、実は出発点は『ウルティマオンライン』じゃないの?って思うのは私だけでしょうか?
私のオンラインゲームの出発点は『ディアブロ』と『ウルティマオンライン』でしたので。
多くの国でサービス終了となり、日本でもいつサービス終了になるかヒヤヒヤしていたファンも多かったといいます。
台湾・中国などでもサービス終了となっています。
モンスト(モンスターストライク)
人気のスマホゲームにもラグナロクが登場します。
『死滅喚びたる終焉の戦火』と題して新爆絶ラグナロクがやってきました。
火の爆絶クエストなのでノブナガX(織田信長X)やニラカナ(ニライカナイ)が適正になるのでは?という予想もされていますが、やはりラグナロクというのだからオーディンに活躍してもらいたいものです。
モンストでは火属性のラグナロクに対し、優位な水属性のオーディンですから期待せずにはいられません。
北欧神話を知るユーザーにとってはオーディンが適正キャラになる可能性があると考えている方が多いようです。
モンストでは獣神化したオーディンは、実際の北欧神話でラグナロクとは切っても切れない関係なのですから。
追記:喜多川阿弥
ラグナロクに「神々の黄昏」という意味はない~戦争と世界の終焉~ まとめ
ルキノ・ビスコンティ監督には上映時間の長さと超豪華な衣装や舞台設定、全編ロケ撮影ということで有名な『ルートヴィヒ2世~神々の黄昏』という作品があります。
ワーグナーを寵愛し、白鳥の城と言われるノイシュバインシュタイン城を建築し、国の財政を破綻させたヨーロッパ一の美形国王バイエルンのルートヴィヒ2世を主人公にした映画です。
傾きつつある自国の様子から目をそらせ、己の世界にのみ惑溺した退廃的な国王は自分の【黄昏】を知っていたのかも知れない…
だからこその現実逃避だったではないかと思います。
国民にとっては甚だ無責任な国王であったとしても。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。