神話には運命を定める神が登場します。
ギリシャ神話でもモイラという女神が運命を定め、人間だけではなくオリンポス神までもが振り回されていました。
北欧神話にも運命を定める女神がいます。
ノルン(複数形はノルニル)と言い、一人ではなくアース親族にもヴァン親族にもいたそうです。
最高神オーディンでさえ逆らえない運命を定める女神達を紹介します。
運命の女神
種族: ノルン(神族、巨人族、妖精族など)
地域: ウルズの泉(アースガルズ)
別名: 運命の女神など
北欧神話において神と人間の運命を定める女神の総称は【ノルン】と呼ばれています。
様々な種族に多くのノルンがいますが、特に有名なのがアースガルドに住んでいる3姉妹【ウルズ】【ヴェルザンディ】【スクルド】でした。
彼女たちは神聖なウルズの泉のほとりに住み、9つの世界を貫くという世界樹ユグドラシルが枯れないように水やりをして管理しているそうです。
ユグドラシル自体が世界を支えているのですから、それを世話することは即世界の運命を握っているということになりますね。
ウルズの泉
アースガルドやミッドガルドなど9つの世界にまたがる世界樹ユグドラシル。
その根のほとりに湧いているのがこの泉です。
そばの館にノルン3姉妹が住み、泉の水をユグドラシルにかけ、世界樹を世話しているのです。
最高神オーディンは泉のほとりに置かれた賢者の椅子に座って語ることを習慣にしていたので、この場所は神々の集会場(井戸端会議の場所)でもあったわけですね。
運命の3姉妹
北欧神話において【運命】はとても重要なキーワードになっています。
神々が死んでしまう最終戦争(ラグナロク)は始めから予言されており、オーディンでさえその運命から逃れることはできないのです。
神も人間も誰もが持つ運命を決め、それを告げる女神がノルンです。
ノルンと言うよりウルズ、ヴェルザンディ、スクルドという名前の方がなじみ深い人もいるかも知れませんね。
この3人はアースガルドに住むノルンの3姉妹で、長女ウルズは【なった】の意味ですから【過去】を表し、ヴェルザンディは【なる】【起こる】の意味を持っているので【現在】を表すと言われ、スクルドは【~でなければならない】の意味から派生して【これから起こること=未来】を表すとされます。
そしてその意味の通り、それぞれが過去、現在、未来を司るとされているのです。
その他にもウルズは【編むもの、織姫】という意味があるので【運命】【宿命】を象徴するとされています。
こじつけの理由がイマイチ筆者には謎です。
ヴェルザンディは【生成するもの】という意味から【存在】を象徴し、スクルドは【義務】や【税】という意味から【必然】を象徴しているとも言われているそうです。
確かに税は必ず納めなければならない義務ではありますね。
3人のうち、スクルドは実は戦乙女ヴァルキューレであるという説もあり、馬に跨り天空を駆け回り、戦場で戦死者を決めていると言われています。
要するに、死なせる兵士を彼女は選択しているのです。
ノルンは、ある時は糸を紡ぐ機織りの姿で現れ、ある時は木片にルーン文字を刻んで運命のくじを引いているようです。
人間は誰もが生まれる前に必ずノルンの元へ行き、運命と寿命を定められてしまうのです。
ノルンの予言から逃れることは絶対に不可能で、オーディンたちでさえ、ノルンの定めには従わなくてはならなかったのでした。
このノルンですが、良いノルンと悪いノルンがいて、良い方は幸運を運んでくれ、悪いノルンは病気や飢え貧困などの不幸を与えたと言われています。
このように様々な性質のノルンがいる中で、最も有名だったのがウルズ、ヴェルザンディ、スクルドの3姉妹だったのです。
予言されていた3姉妹
9つの世界を貫くという世界樹ユグドラシルは3本の根を3つの世界に伸ばし、そのうちの1本が神々の国アースガルドに伸びています。
その根元にあるウルズの泉のほとりに、ウルズ、ヴェルザンディ、スクルドの3姉妹が住んでいることは紹介しましたね。
このウルズの泉(長女ウルズにちなむ)は神々の世界の中でも一番美しい場所とされ、現世に存在する全ての水の源となっているそうです。
滾々と湧いてくる神聖な泉の水に身を浸すと、誰もが卵の殻の中の薄皮のように色白になると言われています。
美白効果が強い成分が入っているようですね。
ユグドラシルは世界樹の名にふさわしい大樹で、大きく広げた枝で全世界を包みこんでいる樹です。
しかし、鹿や竜などがいい食料としていつも齧っているせいか樹勢が弱り、枯れそうになっていました。
それを世話していたのが、ノルンの3姉妹です。
実はこの3姉妹の登場は神々の世界にとっては良くないことでした。
3姉妹がやってくる以前のアースガルドは穏やかで明るい日々が続き【金の時代】と呼ばれていました。
神々も平和と歓楽の日々を満喫していたのです。
しかしどんな物事にも終わりは来ます。
黄金時代はいつまでも続くわけではありませんでした。
金の時代の終わりと、巨人の国の3人の強力な女たち、つまりノルンと呼ばれる運命の女神が登場することが予言されていたのです。
この予言に則り、ウルズ、ヴェルザンディ、スクルドは巨人族であるとも考えられ、彼女達がやって来た日以降、アースガルドの黄金時代は終わり、約束された終末(ラグナログ)が近づいてきていることを痛感するようになりました。
神々の運命と終わり=神々の世界の終わりをノルニルは定めることができたのです。
彼女たちノルニルの出現、彼女たちが世話をするユグドラシルは常時強敵によって命の危険にさらされている、この二つのイメージを考え合わせると、平和で明るい神々の世界にやがて恐ろしく邪悪なものが近づいてくるということを意味していると言われているのです。
予言者であり巫女
神々の世界の終末を定めるノルンですが、一方で優れた人間が生まれるとその場所を訪れ、その子の運命と寿命を定めたと言います。
ノルンが栄光ある人生を約束した優秀な人間は、英雄として人間界で大活躍することになりました。
一例ですが、オーディンの子孫に当たると言われるヘルギには、優れた君主となる運命を定めた上で【運命の糸】を撚り合わせ、彼を強力に庇護したと言われています。
エンタメ世界のノルン
運命を定める能力のせいか、ゲームでは主人公を助けるアドバイザーのような設定で登場するようです。
また、予言者や巫女などストーリーに関わる重要な存在として扱われるパターンもあるようですね。
『マクベス』 シェイクスピア
ゲームではありませんが、シェイクスピアの古典悲劇『マクベス』の冒頭に登場し、主人公の心に迷いを吹き込む醜い3人の魔女は、ここで紹介したノルン3姉妹がベースになっているという説があります。
このノルンの3人は世界各地の古典からマンガにまで登場し、物語に謎や深みを与えてくれるキャラクターではないでしょうか。
3姉妹というと語呂が良いのか、いろいろな神話に登場しますね。
ギリシャ神話のゴルゴンの3姉妹は有名ですが、他にもミステリーなら横溝正史の犬神家の松竹梅3姉妹、獄門島の月雪花3姉妹。
ドラマ化もされた大ヒットマンガ『スケバン刑事』における主人公サキの最大最強のライバル海槌麗巳も3姉妹の長女です。
筆者の発想のせいか、こう並べるといいキャラが少ないような…。
ノルン(ウルズ・ヴェルザンディ・スクルド)~運命の女神と予言者~ まとめ
3人というのは中国古代の鼎に見られるように安定の形です。
しかし1人欠けて、2つとなると対立したり、不安定な状態になるという、言わば表裏一体の形ではないかと思うのです。
この表裏一体の形というのは実は人間にも当てはまるような気がします。
ということはノルン達は人間の【ある姿】を象徴しているのではないかとも思うのですが、いかがでしょうか?
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。