パリスに対する筆者のイメージはトロイア戦争を引き起こす原因となった【頭カラッポの自己中美形】に尽きます。
神の業により、欲望を抑えきれなかったとか釈明はしていますが、この男さえ現実を厳しく理解していたら、栄華を誇ったトロイアは滅ばなかったし、彼の両親、兄妹達の悲惨な運命もなかったと思うと、どうしても好きになれない人物なのです。
トロイアの王子から孤児へ
パリス(アレクサンドロスとも言いますが、あのアレキサンダー大王と同じ名前ということにも筆者は納得いきません)はトロイア王プリアモスと王妃ヘカベーの間に産まれました。
しかし、母ヘカベーは妊娠中不吉な夢を見たのです。
それは今自分のおなかにいる胎児がトロイアを焼き滅ばすという夢でした。
気に病んだヘカベーは夫を説得し、産まれたばかりの赤ん坊を山に捨てたのです。
しかし、赤ん坊を不憫に思った羊飼いが拾い上げ、育て上げたのでした。
オイディプスの例といい、こんな境遇で育った子どもは後に故郷に災厄をもたらすことになっているようですね。
何も知らず、羊飼いの子として山野を駆け巡り自由に成長したパリス。
やがて、出自が判明し、プリアモスも今さら大丈夫だろうとパリスを王子として王宮に迎え入れたのでした。
運命の時が近づいていました。
争いの女神エリスの一計「黄金のリンゴ」
トロイア戦争の原因はいろいろありますが、一番人間にとって「マジ!?」と思われるのはゼウスが「増えた人間を減らそう、それには戦争がいい、よし、戦争おこしちゃえ」と思ったという説でしょう。
人間を生み出したはずの神がそれを言うか?ですよね。
ギリシャ神話で一般的に知られているのが【パリスの審判】です。
その昔、人間の英雄ペレウスと海の女神テティスの結婚式がゼウス主催で賑やかに行われました。
ところがお祝い事には不向きとされ、招待されなかった争いの女神エリス(そりゃあ、呼びませんよね)が腹を立てて一計を案じました。
【一番美しい女神へ】と記して、黄金のリンゴを宴会の席へ投げこんだのです。
すると自分の美貌に自信のあるヘラ、アテナ、アフロディーテの3女神が「私こそ一番」とリンゴを取りあって争いを始めました。
思い通りに運んでいると思ったとはわかりませんが、ゼウスは「では、誰かに判断してもらおう」と提案したのです。
この誰かが、トロイア王子パリスでした。
一番美しい女神を争った「パリスの審判」
3女神はそれぞれ贈り物(この場合は賄賂)でパリスを誘惑します。
オリンポス女王ヘラは《世界の王としての権力と栄光をあげる》と、アテナは《これからのおまえの戦いに全て勝利させてあげる》と言って青年の気を引こうとします。
しかし、羊飼いとしてある意味純粋に育ったパリスは、権力や戦争などには興味がなかったのです。
3女神の残りアフロディーテは《おまえに世界一の美女を与えよう》と提案し、パリスはそれに飛びつきました。
アフロディーテが言った《世界一の美女》が独身女性だったら何の問題もありませんでした。
しかし、アフロディーテはスパルタ王妃ヘレネこそ、おまえの妻としてパリスに教唆したのです。
→アフロディーテ~芸術家をも魅了したケストスを持つ愛の女神~
トロイア戦争の原因となった略奪婚
トロイア王子としてスパルタを訪問したパリスは、スパルタ王メネラオスに歓待されます。
しかし、その隣のヘレネに一瞬で心奪われ、メネラオスが他国に出向いて留守の間にヘレネと共にトロイアへ駆け落ちしてしまったのです。
ヘレネ自身については別章で紹介しますが、彼女も年の離れた夫より、若くハンサムな異国の青年に心動いたのではないかと思います。
→ヘレネ~トロイア戦争の原因!テュンダレオスの掟とパリスの審判~
神のみ業によって、このようなことをしてしまった-と反省したという説はありますが。
本人同士にとっては《命がけの真実の愛》かもしれませんが、トロイア王子がスパルタ王妃を略奪したというのも現実でした。
妻を奪われ、面目丸つぶれのメラネオスは同盟国に招集をかけ、ヘレネを奪還するためトロイア攻撃を呼びかけました。
ここに【トロイア戦争】というスパルタを中心としたギリシアとトロイアを中心としたアジアの戦いが始まります。
略奪愛の哀れな結末
名目はヘレネを取り戻すことですが、実際は豊かなトロイアの収奪だったという説もあります。
シュリーマンによるトロイア発掘で出土した豪華な宝飾品などを見ると、この時期のトロイアは非常に資源も豊かな恵まれた土地であったことがわかりますね。
さて、自分の欲望に忠実なパリスはヘレネといちゃつく暇もなく、戦場に立つことになります。
彼よりも勇者として名高いのは兄のヘクトルでした。
知略に優れ、勇気もある長男は次代のトロイア王としてプリアモスも期待していたのですが、《弟の愚かな行いにより始まった戦い》で非業の死を遂げました。
ヘクトルを倒したのはアキレウス。
兄の敵であるアキレウスをアフロディーテの助けでパリスは討ち取ることができましたが、彼の活躍はここまででした。
自分が蒔いた種を最後まで刈り取ることをせず、途中で亡くなったのです。
パリス ~トロイア戦争を引き起こした原因とは~ まとめ
顔だけの男は役立たず-という言葉はこの男のためにあるんじゃないかと思います。
ヘカベーの予知夢は現実のものとなってしまいます。
トロイア滅亡時の女たちの悲惨な運命を思うとき、赤ん坊の時に山で死んでいたら良かったのに…
と思うトロイアに同情的な方は、筆者以外にもきっとたくさんいるんじゃないでしょうか。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。