今回紹介するのはインド神話でも人気のあるラーマです。
バラ色の瞳を持つと言われる彼はヴィシュヌの7番目の化身です。
ヴィシュヌは化身が進むにされて、勇猛さ(暴力的)がレベルアップしているような気がしますが、ラーマもまたまたかなりの暴れん坊でした。
【ラーマチャンドラ】【バララーマ】などの別名も持っています。
ラーマとは?
古代インドの有名な叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公であり、最高神ヴィシュヌの化身とされるラーマ。
武術に優れた勇者でもあります。
彼はコーサラ国王ダシャラタの子として産まれました。
ダシャラタは子どもに恵まれなかったそうですから、元気で勇猛なラーマを得て、さぞかし嬉しかったことでしょう。
成長したラーマは暴虐の王として忌み嫌われていた羅刹王ラーヴァナに戦いを挑み、見事に打ち破ったと言います。
ラーマはいかにも英雄的な勇敢な正義漢という描写がありますが、別の顔もあり、愛する妻シーターへの複雑な思い(愛と疑惑)に苦悩する日々を送ったそうです。
インドラの弓と神の矢
勇者ラーマには優れた武器がありました。
【インドラの弓】と【神の矢】です。
いずれも優秀な武器で、戦いではこれを使って獅子奮迅の活躍を見せたそうです。
ラーマがクンバカルナと戦った時にはインドラの矢を用いて討ち取ったとされています。
文武両道正義の王子
元々ヴィシュヌは羅刹王ラーヴァナを倒すためにラーマとして化身したのでした。
人間のラーマには、ヴィシュヌだった頃の神としての記憶はなく、子ども時代には父王に「僕に月を取ってちょうだい」などと他愛もないことを言っていたそうです。
この辺は一般の子どもと変わりありませんね。
親に愛され健やかに成長したラーマ少年は、学問と武術に秀でた健康でたくましい青年となりました。
父王にとっては自慢の息子だったでしょうね。
その武術の腕を聞きつけた聖仙に「森に悪魔が棲んでいるので何とか退治してほしい」と頼まれたこともありました。
力は強くても若さが心配になったのか、止めようとする父をよそに、その頼みを聞き入れたラーマとは魔物に立ち向かうと、見事に勝利したのでした。
聖者たちは大変喜び、お礼にと神々の矢を収めた風の神の矢筒、強力な槍など、多くの武器と魔法を授けたそうです。
美しき妻シーター
当時ジャナカ王という王の元には絶世の美女と呼び声の高いシーターという娘がいました。
彼女の美貌にひかれた求婚者達が引きも切らず押し掛けたのでジャナカ王は一つの試験を課すことにしていました。
それは【王家に代々伝わるシヴァの弓に弦を張れたなら、シーターを嫁にやろう】というものでした。
美しい娘への大勢の求婚者に対する過酷な試験というのはインド神話だけではなく、ギリシャ神話にも北欧神話にも散見されるエピソードですね。
誰一人として弦を張ることはおろか、弓を引きことすらできませんでした。
ところが、ここで登場するのがラーマです。
主役の面目躍如とばかり、シヴァ神の弓を引いてみせました。
一説には、弓を真っ二つに折ってしまったとも言われます。
いずれにしても、ラーマが人並み外れた(人ではありませんが)筋肉を持っていたという証拠となるエピソードだと思われます。
望み通り、美しい妻シーターと結婚できたラーマは幸せ一杯の新婚生活に入りました。
ところが、ラーマの穏やかな日々は長くは続きませんでした。
自分の異母兄妹の母(義母)に疎まれてしまい、14年間も古郷を追われることになったのです。
羅刹王ラーヴァナ
故郷を追われて追放生活を過ごす中、愛妻シーターがラーヴァナという羅刹の王に奪われてしまったのです。
ラーヴァナは10の頭と20の腕、そして銅色の目、月のように輝く歯を持つ怪物です。
ここでやっとヴィシュヌ化身の理由が出て来ましたね。
この羅刹王ラーヴァナを倒すためにラーマは生まれたのですから、やっと本領発揮というわけです。
ラーマは異母弟ラクシュマナや猿の勇士ハヌマーンなどの助力を得て羅刹王ラーヴァナの本拠地ランカー島に侵攻します。
そこでラーヴァナとの一騎討ちになり、激闘の末、倒したのでした。
ラーヴァナを倒したことで、愛妻の奪還とヴィシュヌの目的の両方を果たしたことになります。
妻への複雑な感情 ~愛と憎しみ~
愛妻シーターを取り戻して、万万歳…のはずですが、彼女と再会したラーマの反応は意外なものだったようです。
シーターは連れ去られて以来、ラーヴァナの後宮に入れられていたのです。
美しい彼女をラーヴァナがほおっておくはずがない、きっと弄ばれてしまったのだろう…シーターはもはや貞節を失ったのではないかと疑惑にさいなまれるようになったのでした。
「自分は汚されていない」と身の潔白を訴えるシーター。
ラーマは一度は信じましたが、やはり疑心悪鬼となり、妻を責めました。
彼女は自ら夫の元を去ったそうです。
このシーターを疑うエピソードについては、ラーマーヤナ成立時には存在せず、後世になってから追加されたという説もあります。
妻の不貞を疑う夫というのは日本神話にもありますが、明らかに浮気(不倫)したのがわかっていながら、妻ヘレネの帰還を受け入れたギリシャのメラネーオスは鈍感なのか、ある意味大物だったのかも知れません。
ちなみに【非暴力主義】で有名な【インド独立の父ガンディー】は逝去の際、「おお、ラーマよ」という言葉を発したと言われています。
単なる勇猛だけの神ならガンディーが名を呼ぶことはないと思われますから、本当のラーマは妻の貞節を気に病む神経質な男ではなく【インドの人々が尊ぶ英雄】だったのではないでしょうか?
エンタメ世界のラーマ
天空の城 ラピュタ
筆者としては気になるのはラーマよりシーターなのですね。
ジブリの名作映画『天空の城 ラピュタ』のヒロインがシータというのはご存じですね。
空から降ってきた彼女は古い王家のただ一人の生き残りです。
この設定がシーターと通じるものがあるような気がしませんか?
その他にも敵であるムスカ大佐がラピュタから地上への攻撃を称して「インドラの矢」と言っています。
ラピュタはラーマーヤナにヒントを得た、あるいはインスパイアしているのではないかなと思います。
『Fate』シリーズ
また伝説の英雄や史上の英雄が戦う人気ゲーム『Fate』シリーズには、インド神話からも多くのキャラが登場しているのですが、ラーマがモデルとなったキャラも当然登場しています。
呪いをかけられたしまったため、彼は愛妻シーターと絶対再会できないという非情な設定になっています。
ゲームにしては辛い展開ですね。
女神転生シリーズ
女神転生シリーズでもラーマは登場します。
全体万能スキルの「ブラフマーストラ」を持つラーマは相手の耐性を無視して多段攻撃をするというかなり強力な悪魔として描かれています。
ブラフマーストラは、同じくインド神話に登場するブラフマーが持つ武器で、どんな敵でも必ず討ち滅ぼすことができる最強の投擲武器といわれています。
こうしてみると、やはりラーマは文武両道、万能で強く描かれていることがわかりますね。
追記:喜多川阿弥
ラーマ~インドラの矢を使うラーマーヤナの主人公~ まとめ
最高神ヴィシュヌの化身ですから、勇猛で正義の人ラーマは美しい妻を得て幸せに暮らしましたとさ…で終わっても良かったはずです。
しかし、そうはなりませんでした。
愛するが故に妻シーターへの複雑な思いに苦悩するという、単純ではない、陰を帯びたヒーローという人間くささがラーマ人気の理由ではないでしょうか?
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。