ヤクシャ

ヤクシャやヤクシニーと聞いてもピンと来る人はあまりいないのではないでしょうか?
では【夜叉】なら見たこと、聞いたことがありませんか?
インド神話に登場する悪魔ヤクシャは仏教に入ると【夜叉】と表記されるようになりました。
ちょっと昔なら残酷な行動をする人物を「夜叉のような」と表現することもありました。

さて、そんなヤクシャはどんな存在だったのでしょう。

ヤクシャ&ヤクシニー

インドでは有名な古典『リグ・ヴェーダ』では中性語として記載されており、古い概念だったと思われます。
創造神ブラフマーが作り出したともされますが、ヤクシャは人間のような姿で表現されることが多いようです。
誕生したのは天地創造が始まったばかりの頃と言われ、世界の創造途中だったので、生まれたばかりのヤクシャ達は食べる物がなく、皆飢えを訴えるようになったのです。
その飢えは深刻化し、遂には自分達を作り出した親であるブラフマーまで喰おうとする者も出て来る有様でした。

ヤクシャさすがのブラフマーも自分が喰われようとする事態に恐怖を感じたのか、自分自身を守るためにヤクシャ達に「父を食べてはいけない」と諭し、注意しました。
この時ブラフマーの言葉を聞き入れ、食欲を抑え、おとなしくなった者達がヤクシャでした。
つまり、創造神であるブラフマーの命令に従った素直な神々というわけです。

また、ヤクシニーというのは女性のヤクシャを指します。
彼女たちは【豊かな大地と水を象徴するもの】であり、【豊穣の神】として崇められています。
他人の子どもを喰いまくりながら、自分の子どもがたった一人いなくなっただけで嘆き悲しみ、慈悲の心に目覚めたという“鬼子母神ハリティー”もヤクシニーの一人です。

男性のヤクシャは植物や川の精霊と崇められ、実りをもたらしてくれるとされています。
また彼らが地域を守ってくれる守護神であるとして崇拝している地域もあるそうです。

反抗するヤクシャ=ラークシャサ

親であるブラフマーの命令に従ったのがヤクシャですが、反抗したのがラークシャサと呼ばれる者達でした。
彼らはなおも、ブラフマーを喰おうとしたそうです。
要は、父親に反抗する血の気の多い者達というわけですね。
ラークシャサが音訳されると【羅刹天】と言われます。
羅刹天も仏教では十二人の一人で西南の守護神とされました。

仏教とヤクシャ

夜叉

ヤクシャが仏教に取り混まれてゆくと八部衆の一人夜叉と同一視され、仏法や信徒の守護神とされました。
原典でヤクシャは富の神クヴェーラの従者だったという職掌も夜叉に引き継がれているらしく、仏教でクヴェーラ=毘沙門天とされていますから、夜叉は毘沙門天に追従するとされています。

奈良県の東大寺の金剛力士像は非常に有名ですが、彼らが寺院を守護する役目を預かることからヤクシャも関係しているという説もあるそうです。

エンタメ世界でのヤクシャとヤクシニー

テレビアニメ『天空戦記シュラト』

現代の日本から天空界に転生した二人の少年が八部衆として敵となり戦う人気のアニメでしたが、少年の一人黒木凱は転生すると夜叉王ガイとして、親友だった修羅王シュラトと死闘を繰り広げることになりました。

人間界にいたときは優しい凱が天空界では残酷なガイになってしまうという二重人格的なキャラはデザインが美少年ということもあり、主役を食うほどの人気となりました。
また声優はデビューしたばかりの子安武人で、声を上手く使い分けていたこともあり、一躍人気者となりました。
『シュラト』は彼の出世作となったわけです。
その後『ムーミン』のスナフキン役や、BL漫画の金字塔とも言われる『絶愛』の泉役などを演じるようになりました。

ヤクシャとヤクシニー(夜叉)|豊かな大地と実りを生む豊穣の神 まとめ

夜叉で連想したのが足利義満に寵愛され、能を芸術に高めた世阿弥です。
美形であった彼は貧しい幼少時代、寺の稚児とされていました。
そこを義満に見出されたのですが、彼の幼名は鬼夜叉でした。
これは鬼のようにおそろしく美しいということで呼ばれたようです。
つまり夜叉という言葉には(少なくても日本人にとっては)非常に美しいという意味が込められていたようですね。

同じように恐ろしい者とされる羅刹には美しいというイメージがあまりありません。
元々は同じヤクシャだったのに、対照的だと感じます。