ブラフマー

名前は有名なのに、実体がよくわからない神様というのはたくさんいますが、インド神話におけるブラフマーもその一人ではないでしょうか。

ヒンドゥー教の三大神と呼ばれてはいますが、何をしたのか、何の神様かと言われると考え込んでしまう、ブラフマーはそんな存在感の薄い神でもあります。

ブラフマーとは

インド神話三神
インド神話三神

この世界を作った多くの神々の祖と言われています。

ギリシャにおけるガイア、北欧神話の巨人ユミルと牝牛アウズフムラのような存在でしょうか。

インド神話では、創造神と呼ばれるブラフマーが世界を作り、ヴィシュヌがこれを維持しシヴァが破壊し、再びブラフマーが創造し…という事態が繰り返えされるとされています。

ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァは三神一体と言われています。

この3神の行動によって世界が回るというわけですね。

もともとのブラフマーは人の形を取っていたわけではなく、宇宙の原理のような存在でしたが、後世に神格化されて現在彫刻や絵に表現される姿となったそうです。

ヒンドゥー教やインド哲学では宇宙の根本原理を【ブラフマン】と言いますが、このブラフマンとブラフマーは同一のものと考えられています。

ヴェーダによると“全ての神々はブラフマンから発生した”ということですから、ブラフマンと同じであるブラフマーから生まれたと考えられているのです。

ブラフマーは象徴する4つの顔と4本の腕を持っているとされています。

その手には知識や創造を象徴する数珠や聖典ヴェーダ、小壷、杓を持っていると言われます。

ハンサ

ハンサというのは、ヒンドゥー教に伝わる神鳥のことで、白いガチョウまたは白鳥の姿でブラフマーの騎乗獣と言われます。

真理や知識、求道の象徴とも言われ、空へと飛び立つ姿は“輪廻転生からの解脱”を表しているとも考えらたようです。

ハンサ(女神転生)
ハンサ(女神転生)

アートマブー

アートマブーというのは【自ら生まれた者】という意味があります。

というのは、ブラフマーが宇宙を作ったとき、5元素は作り出しましたが、実体化はできなかったのです。

そこで水の中に種を蒔いたら黄金の卵ができたので、ブラフマーはその卵に入って自ら実体化して生まれ出たという説があるのです。

これにちなんでアートマブーという別名がつけられました。

スラジェーシュタ

スラジェーシュタはブラフマーの別名です。

【あらゆる神々より前に存在した者】という意味を持ちます。

宇宙を作り出した神ですから、誰よりも、どんな神よりも先に存在していたというわけですね。

 ヒラニヤガルバ

ヒラニヤガルバは【黄金の卵を胎内に持つ者】という意味のブラフマーの別名です。

アートマブーのところで説明した黄金の卵との関係から付いた名前ですね。

梵天

ブラフマーの漢訳が【梵天】です。

梵天は雷神インドラの漢訳である【帝釈天】とセットで祀られることが多いので、2神を合わせて【梵釈】とも呼ばれています。

梵天はお釈迦様を支えた仏の一人です。

かなり前になりますが、渡辺謙主演のNHK大河ドラマ『独眼竜政宗』は高視聴率を誇ったことでも有名ですが、伊達政宗の幼名が“梵天丸”でしたね。

おそろく、ブラフマー=梵天にあやかってほしいという願いを込めて名付けたものと思われます。

ブラフマーの業績

彼はヒンドゥー時代、八大世界守護神という8つの方角を守護する神々を任命したそうです。

北を財宝の神クヴェーラ、北東を月神ソーマ、東を雷神インドラ、南東を火の神アグニ、南を死者の国の神ヤマ、南西を太陽神スーリヤ、西を天空の神ヴァルナ、北西を風神ヴァーユの各神に任せて守らせました。

インドラなどよく知られた神の名前もありますね。

これら8神はインド神話の中でもとくに重要な神とされています。

そんな神々の任命権を持っていたブラフマーは確かに高い地位の神だったようです。

この後も八大世界守護神の観念は大乗仏教の密教に採用され、日本にも伝わっています。

5つの顔を持つ神

ブラフマー
ブラフマー

ブラフマーの外見は4つの顔に4本の腕、数珠や壷などを手にしてガチョウや白鳥に乗っている構図が有名です。

しかし、彼には元々と顔が5つもあったと言われているのです。

これには彼の娘である女神サラスヴァティに深く関わっていると伝えられています。

サラスヴァティは大層美しく優美な娘でした。

“最上の女神”とも呼ばれることからもその美貌が窺われます。

さて、そんな娘にブラフマーは魅了されてしまったのです。

自分の娘-なんてことは考えにはなかったでしょう。

そもそも【神々の祖】であるブラフマーにとっては、簡単に言えばヴィシュヌもシヴァも子どものようなものなのでしょう。

娘に執着した父は、サラスヴァティが東へ行けば東に顔を現し、じっと彼女を見つめます。

西へ行けば西へと移動し、娘を見つめ続けたと言います。

どこへ逃げても、行く先行く先へとブラフマーの顔が出現するので、サラスヴァティは根負けし、父親との結婚を承諾したと言われています。

このエピソードでわかるのはブラフマーが激しい情熱と、粘り強いと言うよりは相手の迷惑を無視する執拗さを合わせもつ神だったということかと思われます。

破壊神シヴァとの対立

インド神話は時代が下るにつれて、その土地土地の土着の神々と混じり合っていき、その中でシヴァ神信仰が人々の人気を集め、広まっていきます。

シヴァ信仰が広まるにつれて、相対的にブラフマーの立場が弱くなっていくのですが、その証拠の一つとして、神々の祖であるはずのブラフマーを逆にシヴァ神が作ったという神話、または

ブラフマーがシヴァの騎乗獣の御者を務めているという大逆転神話まで登場してくるのです。

ブラフマーには5つの顔があったと説明しましたが、4つになったのはそのうちの1つをシヴァが切り落としたからとも言われているのです。

切り落とした理由には色々あるようです。

  1. ブラフマーの自尊心の高さに怒ったシヴァが罰として切り落とした
  2. ブラフマーはシヴァの子として生まれたのですが、尊大な態度に腹を立てたシヴァが切り落とした
  3. 娘サラスヴァティとの近親相姦の罪を犯したブラフマーを罰するためにシヴァが切り落とした

いずれにしても、ブラフマーの尊大な態度が原因で切り落とされたと言えましょう。

創造神故のプライドが尊大な態度につながったのかも知れません。

しかし、ある神話では、ブラフマーの首を切り落としたシヴァですが、その首が手から離れず、12年もの長い修行を経てやっと離すことができたと言われています。

このエピソードでは、神々の祖としてのブラフマーの威厳は失われていなかったようですね。

ブラフマーとシヴァの因縁

サティ
サティ

この2神の因縁(悪縁)は長く続きます。

ブラフマーは多くの神を生みましたが、指からダクシャという神を生みました。

ダクシャはサティという娘を儲けました。

サティはブラフマーの孫娘ということになります。

そして別章で紹介したように、サティはシヴァ神の最初の妻でした。

サティは焼身自殺してしまいますが、実はこのダクシャこそサティの焼身自殺の原因となった父親であり、シヴァにとっては不倶戴天の敵だったのです。

サティの悲劇にブラフマーは直接関わってはいません。

しかし、シヴァがわだかまりを感じてもおかしくはないでしょう。

こんなところにまで、2神の確執は広がっていたのです。

後世の神話にはブラフマーとシヴァの争いが目立つようです。

神々のアドバイザー

シヴァ信仰が次第に広まっていくに従って、ブラフマーは神々の祖という立場ではなく、別の顔を見せるようになりました。

それは、多くの神々に対する【助言者】としての顔でした。

悪魔ターラカが神々に挑んできた時には「シヴァの息子だけがこの悪魔を滅せる」と預言しました。

と言うことは、わかりやすく表現すればブラフマーがシヴァとパールヴァティの仲人だったとも言えるのではないでしょうか?

また、天上を流れるガンジス川を降ろす作業の際には、シヴァに助力を乞うよう神々にアドバイスしました。

前述のように8つの方角を守る八大世界守護神を任命しました。

インド各地に広まる圧倒的なシヴァ信仰に押されたブラフマーは【助言を与える神】となってしまったようです。

存在感を失いつつあるブラフマーですが、プラーナ詩によれば妻サラスヴァティとの間に生まれた子どもこそ、人類の始祖マヌであると言われています。

神々の祖でもあり、人間の祖にもなったようです。

古代のインドとブラフマー

ブラフマーに関わる神話には、古代インド人の感性や世界観を垣間見ることができます。

たとえばこんなエピソードがあります。

古代のインドの人々は【世界は1万2千年で1周を巡る】と考えていたようです。

そしてこの1周が神々にとっての1年にあたるのです。

しかし創造神であるブラフマーにとっての1日は86億4千万年であり、これを“カルパ”と言います。仏教ではカルパを【劫】と呼びますが、永劫の劫ですから、とてつもなく長い時間を意味することが明らかですね。

世界はこのカルパの間に誕生し、死んでゆくと考えられました。

簡単に言えば【この世界というものは、ブラフマーのたった1日の出来事】に過ぎないということです。

ブラフマーのわずか1日と自分の人生を比較し、無常観を抱きながらも人々は生きていったのでしょう。

エンタメ世界でのブラフマー

モンスト

ブラフマー獣神化(モンスト)
ブラフマー獣神化(モンスト)

神々の父とも言えるブラフマー。

モンスターが戦うゲームではかなり有効なキャラクターとして活躍します。

人気の獣神化ブラフマーは活躍の場を広げたわけでなく、属性特化型となりました。

アビリティは木属性耐性と木属性キラーを持ち、さらにアンチワープのトリプルアビリティ所持モンスターです。

爆発系のストライクショットの最大火力は高く、木属性でワープギミックの出現するクエストでは無双の強さを発揮します。

神化素材にクリシュナとアグニが必要なところがインド神話のつながりを感じますが、個人的には三位一体という原典通り、ヴィシュヌとシヴァを神化素材にしてほしかったなぁと思います。

しかし、ヴィシュヌは降臨クエストなので問題ないのですが、シヴァは☆4→5モンスターですがガチャ限定なので素材としては難しいかもしれませんね。

天空戦記シュラト

ブラフマーのシャクティ
ブラフマーのシャクティ

何回か紹介していますが、天空界という異界へ転生させられた親友同士が、敵となり創造神ブラフマーの後継者を巡って、シヴァ神やヴィシュヌなどの神々と共に戦うというアニメです。

ここのブラフマーは最後の最後になって意識体として登場しました。

実体はなく、声だけの登場だったので、主人公二人にとって重要な鍵ではあったのですが、どこやら有り難みがないと言うか、原典に似たのか、存在感の薄いキャラクターでした。

キャラは薄かったのですが、何と言ってもブラフマーですから、声は『ルパン3世』の次元大介役で有名な小林清志という豪華さでした。

『聖伝-RG VEDA-』 作:CLAMP

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『X』『カードキャプチャーさくら』などの漫画やメディアミックスで一世を風靡したCLAMPのデビュー作です。

ヒンドゥー教世界を舞台に、幼い阿修羅と庇護者である夜叉王が自分たちの仇である帝釈天を倒すべく、仲間を求めて旅する漫画でした。

華麗な絵と対照的に残酷な描写もありましたが、デビュー作らしからぬストーリー展開と画力に飛びついたファンは多く、CLAMPは一気に人気漫画家となりました。

ここには先の天帝として梵天=ブラフマーが登場しています。

公平で理性的な支配者と思われていましたが、“魔族に劣る行い=実の姉と近親相姦”の罪を犯し、その間に生まれた男子(孔雀)を姉共々地下牢に閉じ込めるなど身勝手な行動もあり、帝釈天の反乱を招く一因となりました。

姉との近親相姦というのは、娘サラスヴァティへの執着から作られた設定かと思われます。

ブラフマー~八大世界守護神を配置した宇宙の創造神~ まとめ

現在のインドではヴィシュヌ、シヴァの信者が多く、ブラフマーだけを信仰する宗派は存在しないそうです。

寺院でもこの2神を祀るものはかなり多く存在するのですが、ブラフマーを祀る寺院は数少なく、よく知られているのはプシュカルというヒンドゥー教徒の5大巡礼地のひとつにある寺院です。

プシュカルは、ブラフマーの持っていた蓮の花が地上に落ちて、そこに水が満ちてできたと伝えられるプシュカル湖を中心に広がる小さな小さな町です。

そこで祀られる創造神ブラフマー。

控えめと言うべきか、神々の助言者という、目立たない職掌の神にふさわしいと言えばふさわしい立ち位置なのかも知れません。