クールマと聞いて「え、本当にこの名前?」と思ってしまうかも知れませんが、この神は自動車会社の守り神ではありません。
れっきとしたインド神話の神です。
しかも、重要な神様なのです。
クールマとは?
この神はインド神話の最高神であるヴィシュヌの第2の化身した姿です。
ヴィシュヌについては別章で紹介しますが、この世界を作り維持する最高神であり、インド神話では一番有名な神です。
ヴィシュヌは10の姿に変化したと言われ、クールマはその2番目の姿です。
インドの祭式に関する文献の一つ『シャタパタ・ブラーフマナ』によると、《神々は不死になるためにアムリタという霊薬を飲もうとした。そのアムリタを得るために大海を掻き回した》乳海攪拌という行動の時、神々の手伝いをしたそうです。
具体的には乳海をかき混ぜるには棒が必要ですが、マンダラ山という山を棒代わり使おうと考えたクールマはマンダラ山を海底で背負うと、まるでコマのように回転させるための受け軸となったのでした。
それにしても、世界を作り出したはずのヴィシュヌ=クールマが不死でなかったというのにはびっくりしますね。
乳海攪拌
前章で紹介した乳海攪拌についてもっと詳しく説明しましょう。
神々と悪魔(インド神話では共存しているそうです)がメール山に集まり「我々が不死になるには一体どうしたらいいのか」と相談しました。
不死の霊薬アムリタを飲めば不老不死になれるということを知ると、「ではどうやったらアムリタを手に入れることができるのだろう?」という話に発展したところで、最高神ヴィシュヌがこんなことを言ったのです。
「そなたたち、神々と悪魔の両者が協力して大海を攪拌すれば、アムリタが姿を現します。さあ、大海を攪拌しなさい。そうすれば薬草や宝石などが手に入りますが、その後に目出度くアムリタを得ることができるでしょう」と。
最高神ということは、全能ではないか、ということは、アムリタだって苦労せずとも簡単にゲットできるんでは?と筆者は思うのですが、それだと神話が展開しないんでしょうね。
ヴィシュヌのアドバイスに従って、神々と悪魔は協力することにします。
マンダラ山を攪拌する棒にして、海に入れ、その山にヴァスキ竜(巨体で口から毒を吐くと言われています)を巻きつけました。
そして神々と悪魔が竜の頭と尾(両端)をひっぱってぐるぐる回し、海を攪拌し始めたのでした。
ところがヴァスキ竜は、体を引っ張られるわけですから苦しみ、もがくわけです。
その拍子に口から【ハラーハラ】という猛毒を吐き始めたのです。
この猛毒は《全世界を焼き尽くすほどすさまじい》ほど強いものでしたが、インド神話でも名高いシヴァ神がその毒を全て飲み尽くしたのでした。
そのおかげで世界は救われました。
しかし、世界を焼き尽くすほどの猛毒を飲んだシヴァ神も無事ではすみません。
シヴァ神の喉はヴァスキ竜の猛毒ハラーハラのために青くなってしまったと言われています。
絵に描かれているシヴァ神の顔が青いのはこめためと思われます
ヴァスキ竜が離れ、支えを失ったマンダラ山は、自重に耐えかねたのか海底に沈んでいきました。
さて、困った神々&悪魔。
やはり頼れるのはヴィシュヌしかいませんね。
再びこの最高神にアドバイスを求めたのでした。
ヴィシュヌは実際的な協力をします。
なんと大亀(クールマ)に化身して、マンダラ山の下に潜り込み(海の底に入ったと言うことですね)支えたのです。
クールマの支えがあって攪拌は再開されました。
ところが、海がかき乱されるわけですから、それに伴って海中の生物の多くが死んでしまったのです。
それだけではなく、木々が擦れ合い、摩擦によって山火事が起きたため、マンダラ山に住む生き物たちも焼け死ぬことになってしまったのでした。
神々と悪魔の欲望のせいで、他の生き物が死んでしまう…何か不条理ですよね。
さて、マンダラ山の火を消したのはこれまたインド神話では有名な神インドラでした。
雨を降らせて火を消すと、燃えた木々のエキスや沢山の生き物の死骸などが大海に流れ出ていき、次第に溶け合ってゆくと、海の色が乳の色へと変化していきました。
ここで【乳海】となったわけですね。
その乳海の中から太陽と月、続いて美しい女神ラクシュミが姿を現しました。
この初めて出現した美しい女神をヴィシュヌは自分の妃としたのです。
いいとこどり-なんて思ってはいけません。
ヴィシュヌはこの世の最高神なのですから、好きなことをしても、とがめる存在はいないのです(多分)
ラクシュミに続いて乳海から登場したのは、願った物を何でも生み出してくれる牝牛のスラビ、白馬ウッチャイヒシュラヴァス、象王アイラーヴァタ、宝珠カウストゥバ、アプサラス、酒の女神ヴァールニーなどでした。
次々に出現した神々。
その最後に医学の祖であるダスヴァンタリが不死の霊薬アムリタの入った壺を捧げながら現れました。
さて、お望みのアムリタが手に入りました。
すると、その霊薬を巡って神々と悪魔の間で戦いが起こってしまったのです。
望みが叶ったら、もともと仲の悪かった者同士がケンカするというのはよくあることですね。
で、神々は悪魔に負けたのでしょう、アムリタは悪魔の手に落ちてしまったのです。
ヴィシュヌは悪魔にアムリタを渡したくなかったのでしょう。
得意の変化で、この世のものとは思えないほどの絶世の美女になると、色仕掛けで悪魔たちをだまし、まんまとアムリタを奪ったのでした。
最高神が自分の欲望を叶えるために変身するエピソードはギリシャ神話のゼウスにもありましたね。
悪魔ラーフと日食月食の始まり
さて、だまされたことに怒った悪魔達は再び神々に戦いを挑んだのですが、この最中に神々の全員がアムリタを飲んだことで、不死になったのでした。
なかなか賢いですね。
ところが神々がアムリタを飲んでいる間に、一人の悪魔(名前はラーフ)は神に変装し、神のふりをして混ざってアムリタを飲み始めたのでした。
片や悪魔との戦い、片やアムリタの服用と気が散っていただろう神々はラーフに不審を感じる余裕もなかったのでしょう。
幸いなことに、太陽と月がラーフの正体に気がつきました。
アムリタがラーフの喉に達したとき、神々に告げたのです。
怒ったヴィシュヌはこの悪魔の首を円盤で切り落としてしまいました。
しかし、ラーフにとって幸か不幸か既に頭だけは不死になっていたのです。
頭だけになってしまった悪魔ラーフは自分をこの状況に追い込んだ太陽と月を恨みました。
現在でもラーフは太陽と月を追いかけ、捕まえると飲み込んでしまうのですが、身体がないため、すぐに両者(太陽と月)が出現すると言われています。
これが【日食と月食】とされています。
余談ながら太陽と月が何者かに食われるというエピソードは北欧神話にもありますね。
日本神話では岩戸に隠れるということですが。
⇒ ソールとマーニ ~スコルとハティに追われて日食と月食が生まれた~
⇒ 天石屋戸 ~天照大御神と知恵の思金神
ラーフの行動以降も、神々と悪魔の戦争は長々と続きましたが、不死となった神々が当然のことながら勝利を治めました。
乳海攪拌に使ったマンダラ山は元の位置に戻し、霊薬貴重なアムリタは安全な貯蔵庫に収納したそうです。
今に至るまで神々が生命を維持しながらこの世界に君臨しているのは、乳海攪拌により、アムリタを手に入れたおかげと言えましょう。
エンタメ世界でのクールマ
『LINEウィンドランナー』の召喚ペットの中に最高クラスの能力を持つレジェンド召喚ペットがいるのですが、クールマもその一人です。
クールマの能力は【モンスター無効化】という使う側にとってとても便利な能力なのです。
ヴィシュヌが変化したクールマは大亀の姿で表現されます。
筆者など、大亀=ガメラという連想になってしまうのですが、皆さんはいかがですか?
クールマとヴァースキ~乳海攪拌と悪魔ラーフによる日食月食~ まとめ
最高神ヴィシュヌは大亀に変化し、神々に不老不死の霊薬アムリタをもたらしました。
それはそれでもちろん良いのですが、その際、自分の妻もゲットしたのは「ひょっとしてそれが目的?」と思ってしまったのは筆者だけでしょうか?
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。