
パラシュラーマは、ヴィシュヌの6番目の化身です。
パラシュートを背負った人間を連想してしまいそうですが、かなり複雑な背景を持った存在だったようです。
パラシュラーマとは?
ヴィシュヌ第7の変化であるラーマと同時代に現われたヴィシュヌが6番目に変化した姿です。
さてパラシュラーマはジャマダグニの第5王子としてこの世に誕生したとされています。
ということは、ヴィシュヌの転生した姿なのでしょうか?
当時インドではクシャトリヤという王侯、武人階級が絶対的な権勢を誇っていました。
パラシュラーマはこのクシャトリヤ達の暴虐からバラモン(司祭階級)や人間を守るために産まれたと言われています。
出生の理由からして、戦うためということですから、パラシュラーマは勇猛な男だったようで、かなり荒々しいこともやっています。
自分の父ジャマダグニを虐殺したクシャトリヤのカールタヴィーリヤ王を始め、クシャトリヤの男をこの世から滅ぼしてしまったという伝説があります。
パラシュラーマとラーマ
ラーマとも勝負したようですが、パラシュラーマが負け、ラーマが勝利しました。
と言っても、パラシュラーマもラーマも実は同一神=ヴィシュヌなのですが…。
どうやって戦ったんでしょうね。
そして化身が同時に2体存在していても良いのだろうか?とも考えてしまいます。
不滅の斧 パラシャ

パラシュ(グランブルーファンタジー)
パラシュラーマの武器として有名なのは、ヴィシュヌと並ぶシヴァ神が与えたという斧【パラシャ】です。
これは不屈で不滅の武器と呼ばれました。
どんな相手にも負けない武器、絶対に壊れない武器-ということは、まさに世界最強の武器と言えましょう。
これを使いこなしたパラシュラーマの能力の高さも想像できますね。
後に紹介しますが、有名な神クリシュナやラーマももちろん強かったのですが、パラシュラーマはそれ以上強かったと想像されます。
人間の中では史上最強だったとまで推測されているのです。
ちなみに最強の武器パラシャは、後に象の顔をした神ガネーシャに与えたと言われています。
ヴィジャヤ
パラシュラーマの武器はパラシャだけではありません。
師であるシヴァに授けられたヴィジャヤという【勝利】を意味する弓があります。
【勝利】が意味する通りヴィジャヤの所有者が約束されています。
パラシュラーマはその後、弟子であるカルナにこの弓を授けました。
ヴィジャヤについて詳しくはシヴァの記事を参照してください。
シヴァ神の弟子パラシュラーマ

パラシュ(ファントム オブ キル)
パラシュラーマの父ジャマド・アグニは有名なバラモンでした。
息子のパラシュラーマも無論バラモン階級だったのですが、なぜか武器に関心を持ち弓を習うようになりました。
やがてガンダーマダナ山に赴き、シヴァ神から武術を習うようになりました。
シヴァ神は彼の熟達度をテストしようと戦ったのですが、その戦いはなんと21日間にも亘り、結果としてシヴァ神は額に傷を負ってしまいます。
パラシュラーマはヴィシュヌですから、シヴァがヴィシュヌに負けたということになるとも思われますね。
しかし、愛弟子の技量に成長を見て喜んだシヴァ神は逆にその傷を飾りとして顔に残しました。
名誉の負傷と言うところでしょうか?
千の名前を持つと言われるシヴァ神ですが、その一つに【斧によって傷つけられた者】があります。
その由来はパラシュラーマとの戦いと言われています。
激怒 ~クシャトリヤの大虐殺~
この頃のインドは前述のように、クシャトリヤが好き勝手なことをして、庶民やバラモン階級を虐げている時代でした。
彼の家では【望んだ物を何でも与えてくれる】カーマ・デーヌという不思議な牛を飼っていたそうです。
パラシュラーマが不在のある日、カールタヴィルヤという王(クシャトリヤ階級)がやって来たので、父のアグニは、その王をもてなそうとカーマ・デーヌに食べ物を出してもらったのでした。
ところがカールタヴィルヤ王は、この不思議な牛を欲しがり、力づくで奪っていったのでした。
恩を仇で返された状況ですね。
家に戻ったパラシュラーマは父から一部始終を聞くと怒り狂ってカールタヴィルヤ王の都へ攻め込んだのです。
王軍は反撃しましたが、勇猛なパラシュラーマはたった一人で全軍を皆殺しにしてしまったのでした。
最後は、カールタヴィルヤ王が自ら戦いを挑んできたのですが、パラシュラーマはあっさりと簡単に王の首を刎ねて殺したのです。
父王を失った息子たちは都から脱出し、パラシュラーマは牛を取り返して家に帰りました。
多分意気揚々と自慢気だったことでしょう。
しかし、父は息子が人を殺してしまったことに激怒しました。
「おまえの罪を償うために、1年間、聖地巡礼をしなさい」とパラシュラーマに命じたのです。
父の命令に従い、巡礼の旅に発ったパラシュラーマでしたが、カールタヴィルヤ王の遺児たちは黙ってはいませんでした。
剛勇の息子が留守の間に、父王の復讐戦と名乗り、攻め込んで来るとアグニを殺してしまったのです。
巡礼から帰って来たパラシュラーマは父が殺されたのを知り、非常に怒りました。
その結果斧(パラシャ)を振り回し、カールタヴィルヤ王の遺児だけでなく、世界中のクシャトリヤを全滅させてやるという誓いを立てたそうです。
彼はまずカールタヴィルヤ王の遺児たちを全員殺し、その後21回に渡ってクシャトリヤの大虐殺を行ったのです。
その結果として世界中からクシャトリヤは一人もいなくなったと言われます。
ちなみに、21回とは父のアグニが殺されたときに、母が号泣して自分の胸を叩いた回数ということで、パラシュラーマは母の悲しみに応えたように思われます。
呪い ~裏切られた怒り~
勇敢であるからこその大虐殺を行ったパラシュラーマはなかなか激情家であったようです。
古代インドの有名な叙事詩である『マハーバーラタ』にカルナという英雄が登場します。
彼は複雑な境遇の青年で、故あって武術を磨く必要に迫られたため、パラシュラーマの下で修行しました。
その時「自分はバラモンである」とウソをついて弟子入りしたのです。
ところが、何かの拍子にすばやい身のこなしで対応したため、武人=クシャトリヤだということがばれてしまったのです。
クシャトリヤを憎むパラシュラーマは、騙されたことを怒り、弟子として奥義を授けていたカルナに呪いをかけたのです。
《かわいさ余って憎さ百倍》といったところでしょうか。
その呪いとは【カルナに匹敵する敵が現れ、絶体絶命の危機に陥っても、授けられた奥義を思い出すことはできない】というものでした。
カルナの宿敵アルジュナとの最期の決戦はクルクシェートラの戦いと呼ばれます。
戦場では激戦が繰り広げられたのですが、パラシュラーマの呪いがカルナの運命を決定づけました。
カルナの戦車の片方の車輪が大地に陥没したため、戦車から降りざるを得なくなったカルナ。
その首をアルジュナの矢が射落としたと言います。
ヴィシュヌの化身パラシュラーマの力はこれほど強く、執念深かったのです。
それにしても、光の神と呼ばれ、世界の創造主、維持者とも呼ばれる最高神ヴィシュヌでもあるパラシュラーマが、こんな恐ろしい呪いをかけるとは…びっくりですよね。
ウソをつかれたことへの怒りがそれほど強かったということなのでしょうか。
エンタメ世界でのパラシュラーマ
人間では最強の力を持つとされるパラシュラーマ。
エンタメではもってこいのキャラ設定ではないでしょうか?
とは言え、ゲームでは主役クラスのキャラとしてはなかなか見つけられませんでした。
歴史上の英雄達が主人公のサーヴァントとして戦う『Fate』というゲームには、インド神話の神々も登場しているので、その中の敵キャラの一人として登場しているのではないかと思います。
ラストエンブリオ
ライトノベルの中では『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』の続編である『ラストエンブリオ』に敵キャラとして登場しています。
この小説はインド神話だけではなく、北欧神話やギリシャ神話の神々も登場して大活躍しますが、パラシュラーマは女性で、すさまじい力を持った存在となっています。
性別はともかく、戦闘能力の強さは原典に近い設定になっているようですね。
パラシュラーマ~不滅の斧パラシャを持つ最強の英雄~ まとめ
穏やかな平和主義者としてのイメージもあるヴィシュヌ。
その6番目の化身は、目的のためならば大虐殺も謀略もいとわないという冷徹な性格でした。
ヴィシュヌの印象がぶれてしまうような気もしますが、人間のみならず、神も複雑な多面性を持っていると考えると納得できるように感じますね。
と言っても、パラシュラーマはあまりお近づきになりたくないキャラクターです。

最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。