ハリティー

ハリティーという名前を聞いても、「誰?知らない神様」と思う方もいらっしゃるでしょう。

しかし、この神は日本人には深い信仰された神でした。

ちょっと昔の日本では、この神様に子どもの成長を祈願していたのです。

ハリティーとは?

インド神話で神々と対立する魔族の一つにヤクシャ族がありますが、ハリティーは女性のヤクシャで、【ヤクシニー】の一人でした。

夫であるパンチカ(ヤクシャ族の王クヴェーラの部下と言われています)との間に、何人もの子ども(一説には万以上の子ども)を産んだそうです。

しかし、己の子どもだけは大事に大事に育てる一方で、他の子どもはエサとして容赦なく喰ってしまうという身勝手で恐ろしい魔族でした。

このエピソードから連想される神様がいますよね。

そう、それが日本人と関わりの深い【鬼子母神】なのです。

ハリティーの持ち物

ハリティーが手に持っているものとしてはザクロではないかと言われている否祥果の他に子どもを抱いている姿の像もあります。

またコルヌコピアと呼ばれる“角のようなもの”を持っている像もあるとか。

このコルヌコピアは“豊穣”を意味するもので、ギリシア、ローマ世界ではよくコインなどにも刻まれたそうです。

ハリティーの別名

ハリティーの別名としては、梵語でお布施を意味する【ダナパティ】ヤクシャ族の王を意味する【ヤクシャラージャ】などがあるそうですが、いずれもヤクシャ族のクヴェーラと同じ名前ですから、ひょっとしたら同一視されていたのかも知れません。

恐ろしき母

ハリティー
ハリティー

ハリティーは仏教に取り入れられると【鬼子母神】と呼ばれるようになります。

このエピソードは有名なのでご存じの方も多いと思いますが、改めて紹介しましょう。

ハリティーは夫の間には万を超える子どもが産まれたとも言われています。

真実はわかりませんが、オーバーな表現としても、子だくさん夫婦だったということに間違いはないでしょう。

さて、たくさんの子どもを出産したハリティーでしたが、出産と子育てのためかなりのエネルギーを必要としていました。

確かに出産で体力を使い果たした女性が、体力回復のため栄養のあるものを食べようとするのは理に適っていると思います。

ただし、ハリティーの食事は人間の子どもだったのです。

人界に降りていっては人間の子どもを掠ってきて食べていたのです。

こんな神様を慕う人間なんているわけありません。

ハリティーは人々から忌み嫌われる存在になってしまったのです。

人間達は神々に訴えました。その悲痛な声を聞き届けたのが、ヴィシュヌでした。

自分の子と他人の子

インド神話では仏教の始祖仏陀はヴィシュヌの化身の一人とされています。

仏陀は人間達の声に応え、数多いハリティーの子どもの中から末っ子ピャンカラを掠い隠してしまいました。

ピャンカラはハリティーが一番かわいがっていたと言われる子どもです。

愛しい末っ子がいなくなったことにハリティーは半狂乱となり、あちこち探し回りました。

しかし見つかりません。

7日間に渡る捜索の末、末っ子を発見できなかった母ハリティーは仏陀の元に行き「助けて欲しい」と頼み込んだのです。

ハリティーの悲しみに対し仏陀は静かにこう諭したと言われます。

「おまえには数多くの子どもがいる。その中のたった一人を掠われただけも悲しいことだろう。だったらたった一人の子どもしかいない者が、その子を失ったとき、どれほど悲しいか、わかるだろう」

仏陀の言葉に自分の今までの行為が非道いものであったと認め、反省したハリティーは人間の子どもを喰らうことを止め、仏陀の教えを守ることを誓ったそうです。

彼女の言葉に真実を見取った仏陀はピャンカラを返しました。

ここに恐ろしい母ハリティーは妊娠、安産、子育ての神=鬼子母神となったのです。

鬼子母神として

鬼子母神
鬼子母神

仏陀に帰依し、子育ての神となったハリティーは、現在でも親達に子どもの無病息災を祈願され、信仰されています。

その姿は原典の人食い鬼のイメージとは全然違い、安らかな表情をした美女として表現されることが多いようです。

その多くがふくよかな胸に子どもを抱き、片手には吉祥果(中国ではザクロの実)を持っています。

なぜザクロなのかという理由は様々言われますが、一番流布しているのは「人間の子どもを喰っていたハリティーがザクロが人肉の味に似ていると言って、人肉の代わりに食べていた」という説です。

しかし、この説は研究者たちによって根拠のない言い伝えでしかないと反論しているそうです。

人肉の味を知る人もいないでしょうし、ザクロと比べても意味ないとは思いますが。

また、ザクロには実が一杯詰まっていますね。

それが多産や繁栄の象徴であるという説もあります。

ギリシャ神話のアルテミスに「ザクロのような沢山の乳房を持った像」がありますが、これも多産や繁栄を意味してすると言われています。

処女神であるはずのアルテミスが多産の神というのも不思議ですよね。

エンタメ世界でのハリティー

『真・女神転生4』

ここには、ハリティー(ゲーム内では地母神ハリティーと呼ばれます)が、末っ子ピャンカラとともに登場します。

飢えた男達にピャンカラを掠われたハリティーがプレイヤーに捜索を頼むということですが、インド神話の原典を連想させる設定ですね。

漫画『鬼子母神』山岸凉子

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人間の心の奥底を抉る漫画にかけては一番の山岸凉子の短編漫画で1993年に発表されました。

この人のこのタイトルというだけで「こわい」と感じる人も多いと思います。

でも、他の作品よりは怖くないと思います。

顔立ちも良く、成績の良い兄=王子様と、成績もいまいち平凡な妹。母は兄だけをかわいがり、妹は無視し続けていました。

影の薄い父は家庭のことを母任せで、妹の窮状も見て見ぬ振りをしていたのでした。

しかし、成長と共に兄の世間的な評価は下がっていきます。

当然合格すると思っていた難関校に落ちたことで、引き篭もりとなり、家庭内暴力を振るうようになったのですが、それでも母は兄を理想の王子様として扱っていくのでした。

父は家を出て、行方不明になり、妹はそれなりに社会人として適応していくのですが、母と兄の二人きりの家を見ながら「兄は飲みこまれてしまったのかも知れない。鬼子母神のように」と思うのでした。

溺愛が高じて、子どもをスポイルしてしまい、堕落させてしまう…20年前の作品ですが、現在の社会にも通じるものを感じます。

ハリティー|日本でも広く信仰されたヤクシニー鬼子母神 まとめ

「恐れ入谷の鬼子母神」という言葉を聞いたことはありませんか?

「恐れ入りました」の意味でシャレとして使われる言葉ですが、実際に東京台東区入谷真源寺には鬼子母神が祀られています。

でも真源寺は知らなくても、この言葉はよく知られていて、由来がわからなくてもなんとなく言ってることはわかる…という人が多いのではないでしょうか?

恐ろしい母から子どもを守る神となったハリティーはそれほど知名度があるという証拠ではないかと思います。