海外旅行をされたことのある人は、成田や関空などでひときわ目立つ華やかなジャンボジェット機を目にしたことはありませんか?
真っ白な機体に鮮やかな色彩が花や青空がペイントされた美しい飛行機がガルーダインドネシア航空機です。
今回の主役はガルーダです。
ガルーダとは
多くの名前を持つ巨大な鳥で、まさに“太陽のごとく光り輝く聖鳥”とも呼ばれています。
ヒンディー教の主要神であるヴィシュヌの乗り物として大空を高く飛翔していると言われています。
人間の体に鷲のくちばしと爪、そして大きな赤い翼を持っています。
体は黄金色ですから、どれほど華やかな(目立つ)姿だったのか、簡単に想像できますね。
ヒンディー教徒の多い国では現在も広く崇拝されていて、タイやインドネシアなどの国章にもその姿を見ることができます。
インドネシアの航空会社が名前を付けるのも当然ですね。
ガルーダの別名
多くの名前をガルーダは持っています。
【ガルトマーン】鳥の王という意味で、輝くほど華やかなガルーダはまさに王にふさわしいとされたのでしょう。
また【ヴィシュヌのヴァーハナ】というのはヴィシュヌの乗り物という意味ですから、ガルーダそのものですね。
他にもサルパーラーティという名前でよばれることもあるそうです。
迦楼羅
ガルーダも仏教に取り入れられました。
仏陀を守る八部衆のひとり迦楼羅(かるら)と同一視されたのです。
仏教においては毒蛇が煩悩の象徴とされました。(イブをそそのかして、りんごを食べさせ、エデンを負わせた蛇のエピソードを連想させますね。)煩悩は克服しなければなりません。
仏教では蛇=ナーガを魔と見なされたので、ナーガとは不倶戴天(ふぐたいてん)の敵であるガルーダが蛇を食べて、煩悩を追い払ってくれると思われたのです。
そのおかげで、迦楼羅となったナーガは【様々な煩悩を喰って(追い払ってくれる)くれる神】として信仰されるようになったのです。
ガルーダ vs ナーガ ~ 宿命の対決 ~
①始まり
ナーガの章でも紹介しましたが、ガルーダとナーガは言わば宿命のライバルといった立場にありました。
それには両者の母親が関係していたのです。
創造神ブラフマーの子どもである聖仙ダクシャには娘が二人いて名前をカドゥルーとヴィナターと言います。
この二人は姉妹そろって同じ男性に嫁ぎました。
それがカシュパヤです。
このカシュパヤは雷帝インドラの父でもあり、ガルーダとナーガの争いにも深く関わってきます。
さて姉妹で同じ夫を持つようになったカドゥルーとヴィナターですが、仲は非常に悪かったそうです。
考えなくてもわかりますよね。
たとえいくら仲の良い姉妹だったとしても、同じ男性を共有するのですから、嫉妬は当然でしょう。
仲が悪くならない方がむしろ不思議だと思われます。
と言うか、なぜ姉妹を嫁がせたのか、ダクシャの考えがわからないですね。
日本では弟である天武天皇に兄の天智天皇が自分の娘を何人も嫁がせた(その一人が持統天皇)という史実がありますが、それは弟の力を恐れたからとか、弟を懐柔しようとしたからと言われています。
天武天皇の力が大きかったということでしょう。
しかし、カシュパヤは…果たしてそれほどの力があったのか…なんだかムダに娘をくれてやったような気がしてならないのですが…「ダクシャ、何を考えてるんだ?」と聞いてみたい気がします。
穏やかとは言えないだろう結婚生活の中で、カドゥルーは千の卵を産み、ヴィナターは一つの卵を産みました。
カドゥルーの卵からは、次々と蛇の魔族ナーガが産まれたのですが、ヴィナターの卵はなかなか孵りませんでした。
そんなある日姉妹は賭をします。
創世のとき、乳海攪拌から出現した馬ウッチャイヒスラヴァスの毛の色は何色かという賭でした。
しかも賭に勝った者は、負けた者を奴隷にしてもいい-というトンでもない条件付きの賭だったのです。
父親もトンデモな性格だと思いますが、娘達も良い勝負だと思いませんか?
カドゥルーは「黒い尾を持っている」と主張し、ヴィナターは「全身真っ白よ」と主張しました。
ここでカドゥルーは卑怯な手を使います。
絶対負けたくなかった彼女は子どもであるナーガたちに「ウッチャイヒスラヴァスの毛色を変えなさい」と命令したのです。
イカサマですね。母の頼みにナーガは自分の体を黒く染めると、馬の尾に絡みついたのです。
本当はヴィナターの言葉が正しく、ウッチャイヒスラヴァスは白馬だったのですが、一箇所とは言え尾が黒いということで、ヴィナターが敗れ、賭けはカドゥルーの勝利となったのでした。
やがて、ヴィナターが産んだ卵が孵り、ガルーダが産まれました。
自力で卵を割り、外界に出てきたガルーダは即巨大な鳥になり、強い光を放ちました。
その神々しい姿を見て「あれは火の神アグニではないか」と見間違う神もいたと言われます。
それほど強く大きい光を放っていたということでしょう。
さて、ガルーダはすぐに自分の母のもとへと飛びました。ところが、母ヴィナターはナーガの奴隷として見下された扱いを受けている姿だったのです。
ガルーダは賭のイカサマにもすぐ気がついたようです。
カドゥルーもですが、自分の異母兄弟ということになるナーガも憎んだことでしょう。
でもまずは母親の解放が最優先です。
ナーガたちに「何とか母を解放してくれないか」と頼んだガルーダ。
ナーガは条件を出しました。
「神々のアムリタを持ってきたら、おまえの母親を帰してやってもいいよ」と。
アムリタはそれを口にすると不死になれるという霊水です。
神々の飲み物ですから、厳重に保管されていて手に入れるのは困難でしょう。
それでもガルーダは母親のために、天界へ向かったのでした。
②ヴィシュヌとの出逢い
天界へ向かったガルーダを黙って見逃す神々ではありません。
アムリタは大切な霊水です。
神々はガルーダに襲いかかり止めようとしますが、何と言っても大きな翼と鋭い爪を持った大鳥ガルーダは強かったようで、追っ手を簡単に倒してしまったのです。
勇ましいガルーダを見たヴィシュヌは「私が願いを叶えてあげるから、代わりに私の乗り物になりなさい」と提案したのです。
強く華やかなガルーダは調和神の乗り物にふさわしい輝きを持っていますからね。
ヴィシュヌの提案を受け入れたガルーダはもう一つ願いを言います。
「アムリタを飲まなくても不死になりたい」ということでした。
虫の良い願いのようですが、その望みをヴィシュヌが承知したので、目出度くガルーダは不死になりました。
同時にヴィシュヌの乗り物という任務を請け負うことになったのです。
さてアムリタです。
自分は不死になっても、母親のためにはアムリタをゲットしなければなりません。
大切な霊水は厳重に守られていましたが、ガルーダは川の水を飲み干してアムリタを囲んでいた炎の壁を消した上、体を小さくするとアムリタ狙いの賊を切り裂くための鉄の回転円盤をうまくすり抜けたのです。
こうして追っ手を全て倒し、罠を突破したガルーダは、念願のアムリタを手に入れることができました。
③インドラとの出逢い ~友情~
アムリタを手に入れ、母の元へ戻ろうとするガルーダの前に、異母兄弟にあたる雷帝インドラが現れます。
「くせ者!」とばかりインドラは武器のヴァジュラ(金剛杵)を使い激しい雷をガルーダに放ったのですが、相手は雷をものともせず、平然としていたそうです。
しかし、インドラの強さに感銘したのか、兄弟のつながり故なのか、ガルーダは雷帝に自分の羽根を抜いて1枚渡したのです。
自分の羽を抜いて差し出したガルーダの行為に感動したのかインドラはガルーダに友情を求めたそうです。
そしてガルーダもインドラを友と認め、永遠の友情を結んだと言われます。
まさに少年漫画の“殴り合いから生まれる友情”といったところでしょうか。
ガルーダは天界に来た経緯を友となったインドラに話し、ナーガから母を解放したらすぐにアムリタを天界へ返すと約束したそうです。
この後のナーガの失敗と考え合わせるとこのとき、2神が何か策略を考えたのではないかと思われます。
さらに「憎い蛇(ナーガ)を常食にしてやりたい」とガルーダがインドラに申し出たとも言われています。
④母の解放とナーガへの復讐
さて、ヴィシュヌやインドラとの邂逅を経てアムリタを手にしたガルーダはナーガの元へやって来ました。
霊水アムリタを見たナーガは大喜び。有頂天になっていたのでしょう、ヴィナターをあっさり解放しました。
そしてガルーダの「霊水なのだから、身を清めて飲みなさい」という言葉に従い、嬉々として沐浴を始めたのです。
その間、大切なアムリタはクシャ草という薬草の上に置きっぱなしでした。
その隙にインドラが現れ、アムリタを奪い返したのでした。
ガルーダと何か策略していたと思うのが、このせいです。
因果応報と言いますか、イカサマでヴィナターを騙したナーガは、ヴィナターの子どもであるガルーダに騙されたというわけです。
その後、解放された母ヴィナターとともに蛇を食べながらガルーダは穏やかに暮らしたそうです。
もちろんヴィシュヌのお出かけには乗り物として馳せ参じたことでしょう。
卑怯な手で母を騙したナーガに打ち勝ったガルーダは、悪を憎む神とされ、社会的思想や美徳の象徴として信仰されています。
エンタメ世界でのガルーダ
テレビアニメ『超電磁ロボ コンバトラーV』
1976年(昭和51年)から放映されたかなり昔のアニメです。
主役は『タッチ』『ゴッドマーズ』などで有名な三ツ矢雄二でした。
敵のトップが大将軍ガルーダです。
美形ですが、赤い翼の鳥人に変身することができ、母親をとても大切にしているということで原典のガルーダの性格に共通するものがありますね。
『聖伝』 CLAMP
インド神話では何回も登場するCLAMPのデビュー作です。
この中に迦楼羅王(迦楼羅族の王。鳥を操る)という美しく凛々しい女王が登場しますが、彼女と一対になるのがガルーダです。
漫画の中では神鳥金翅鳥と呼ばれ、白く優美な鳥で迦楼羅王の肩に止まっていました。
妹の迦陵頻伽を殺した仇である帝釈天に倒されたとき、対となるガルーダも命を落としました。
ガルーダ|ヴィシュヌの乗り物となった黄金の鳥の王 まとめ
その華麗な姿からは連想できないのですが、ガルーダはとても強い神です。
なんと、ガルーダの羽根1枚で宇宙の全体を支えることができるのだとか。
しかし、その強さを自慢することなく、ヴィシュヌの乗り物としての任務に誠実に励むというイメージがあるためでしょう、とても人気のある神様です。
また母親のためにがんばったということも人気の理由かも知れません。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。