インド神話で知名度1番とも言える雷帝インドラ。
彼には半神半獣の楽団が仕え、神々の前で妙なる音楽を奏でていたそうです。
その楽団をガンダルヴァと呼んでいました。
今回は6,333柱もいるというインドラ専属の楽団を紹介します。
インドラに仕える楽師隊
ガンダルヴァの容姿は半神半獣で、頭にツノを生やした赤く逞しい男性の上半身と金の翼の下半身で表現されたり、翼のある人間の上半身と鳥の下半身が合体した姿で描かれることもあるそうです。
一説によるとガンダルヴァの食事は香りだそうです。
肉や酒ではなく香りを食べているので、その体からは常に香りが漂っていると言います。
ちなみに香りを尋ね歩くので“食香”とか“尋香行”とも呼ばれるとか。
体から香りが漂っているなんて、光源氏みたいですね。
ガンダルヴァの出生には多くの説があります。
聖仙カシュヤパと妻アリシュターの子という説、創造神ブラフマーの子という説もあります。
太陽や虹、雲、月を神格化したのがガンダルヴだと言われたり、ソーマ(月)の守護神でもあります。
6,333神もいるとされるガンダルヴァは水の精霊であるアプサラスの夫と言われますが、実は女性のガンダルヴァも存在するそうです。
アプサラスはガンダルヴァの音楽に合わせて踊るそうで、夫婦で神々を癒していたということでしょうか。
この夫婦は“結婚や妊娠を象徴する”ものとされていて、未婚女性は結婚前に一度はガンダルヴァ、酒の神ソーマ、火の神アグニの妻になると言われているので、ガンダルヴァは処女の保護神とも考えられているそうです。
と言いつつ、実はとても女好きだったという説もあります。
乾闥婆
仏教に取り入れられたガンダルヴァは仏陀を守る八部衆の一人とされ、乾闥婆(けんだっぱ)と呼ばれようになりました。
インド神話と同じように、帝釈天となった雷帝インドラのお供となり、美しい音楽を奏でていると言われます。
乾闥婆は天界ではなく、地上に住んでいますが、たまに演奏のために天界に出張しているとか。
平安時代初期、空海が日本に伝えた密教においては、胎児や子どもに危害を加える鬼神から護ってくれる存在として、信仰されています。
ナーガとの戦い
ヒンディー教の聖典であるプラーナ文献には、ガンダルヴァがナーガと戦ったというエピソードが載っています。
ガンダルヴァはマウネーヤ(【聖者の子】の意味で複数のガンダルヴァを表します)と呼ばれる6千万もの軍勢でナーガを攻め、激しい闘いの末勝利し、ナーガの領土や財宝を根こそぎ奪ってしまったそうです。
ナーガはコブラをモデルにしたとも言われる蛇族ですから、かなりの魔力を持っていたはずです。
それを半神半獣とは言え、楽師のガンダルヴァが倒したのですから、いくら数で勝っていたとしても、どれほど強力なパワーを持っていたのだろうとびっくりしますね。
単なる“数の勝利”なんて思った方もいらっしゃるのでは?
さて、ガンダルヴァに負けたナーガは背に腹は代えられないと思ったのか、ヴィシュヌに助けを求めたそうです。
天界の調和を維持する役目のヴィシュヌは、プルクツァという人間に化身し、ナーガを助けてマウネーヤを全滅させたと言われています。
ここでガルーダvsナーガの対決を思い出した方もいらっしゃいますよね?
ガルーダはナーガを倒すため、ヴィシュヌの乗り物になることを了承しました。
言わばヴィシュヌはガルーダ側のはず。
しかし、ここではナーガの味方に回りました。
神のなさることには異論は挟めない-とは思うのですが、主君が宿敵を助けたときのガルーダの心境は果たしてどうだったのかと気を回してしまいますね。
エンタメ世界のガンダルヴァ
『女神転生シリーズ』
デジタル・デビル・ストーリー女神転生Ⅱ、真・女神転生、女神異聞録ペルソナ、ペルソナ2罪、ペルソナ2罰、真・女神転生NINEに仲魔として登場しています。
『女神転生Ⅱ』ではケンタウロスの色違いのデザイン。
『真・女神転生』以降は下半身が馬の後足という姿で登場しました。
『ペルソナ2』では鳥人という解釈のデザインでした。
確かに鳥の体で表されるガンダルヴァは、鳥人間で描くのがわかりやすいのかも知れませんね。
ガンダルヴァはかつてはギリシャ神話の半神半馬のケンタウロスと同一視されたこともあるようです。(今は否定されています)
そこから連想してのデザインだったようですね。
漫画『聖伝』CLAMP原作
何回も取り上げている漫画です。
ここに主人公夜叉王と阿修羅を助ける楽師乾闥婆王が登場します。
“楽師の君”と呼ばれ、初期のCLAMPの特徴である漆黒の長い髪に優雅な仕草の美女、でも言動はぶっ飛んでいて天然系という人気のキャラでした。
夜叉王達を影ながら支援していて、自分の愛する蘇摩(ソーマに通じますね)を送り出した乾闥婆王でしたが、実は物語の最大の敵帝釈天の配下である四天王の一人であり、最強と言われる持国天でした。
「力のある者が好き」と言い放つ彼女は父親の仇である帝釈天の部下として戦い、最後には愛する者と戦うことになります。
手から離すことのない大きな琴を分解すると巨大な刀が出現し、それを易々と使って敵をなぎ払う姿にびっくりしたものです。
楽師であり、ナーガを倒したことでも証明されるように強くもあり、帝釈天の部下でもあるガンダルヴァ=乾闥婆王は原典に近いものでした。
ガンダルヴァ|ナーガを滅ぼした美しい音楽を奏でる楽師 まとめ
神々の前で妙なる音楽を奏で、愛でられる楽師というイメージには穏やかで静かな空気を感じます。
蛇族ナーガを全滅させるという猛猛しく残虐な行動。
これを同じ存在が行ったというのが信じられない思いです。
しかし、そんな二面性こそ、神々たちの特徴であったことを考えると、ガンダルヴァの行為も納得できるように思われます。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。