スタジオジブリの名作『天空の城 ラピュタ』は制作から30年以上経っても人気のあるアニメです。
テレビ放映でも毎回高視聴率を上げていますが、人気の理由の一つは主役である二人の魅力ではないでしょうか。
好奇心があって勇気と行動力ある少年バズーと思いがけない運命にながされることなく自分をしっかり持ち続ける少女シータ。
今回の主人公はラピュタのヒロインの由来と言われるラーマ王子の妻シーターです。
シーター|貞節を疑われたヒロイン
インドの有名な叙事詩『ラーマーヤナ』は人気のある物語ですが、主人公ラーマの愛妻がシーターです。
彼女は今のネパールでジャナカ王の娘として生まれました。
サンスクリット語で「畝(うね)」を意味する名前とも言われ、ジャナカ王が耕作しているときに畑の畝(うね)から生まれたとも言われています。
畝や耕作と縁のあることから【豊作の女神】とされることもあるそうです。
また一説にはヴィシュヌの妻ラクシュミーの化身とされ、畑の畔から誕生したので、アヨーニジャー(母胎から生まれたのではない女性)とも呼ばれそうです。
美少女として名高い彼女はダシャラタ国王の息子ラーマに見初められ妻になりました。
美男美女のカップル誕生です。
同時にラーマは父の後を継ぎ国王として即位しました。
めでたしめでたしのはずでしたが、ラーマの義母が父王を焚きつけたため、ラーマは玉座を負われることになります。
シーターは国を追放された夫に従いました。
シーターの別名
よく知られている二つの別名はともに“地から生じた女神”を意味する【ブーミジャー】と【パールティヴァー】です。
後者のパールティヴァーはパールヴァティーとよく似ていますね。
パールヴァティーは言うまでもなくシヴァ神の妻ですが、誤表記されることもしばしばあります。
ラーマーヤナのシーター
ラーマ王子の活躍を描いた叙事詩『ラーマーヤナ』はインドの道徳的理想を表現した物語と言われます。
現代でも舞台や踊りで愛される物語で“男の子が生まれたらラーマのように勇気ある若者に、女の子なら美しく清らかなシーターのように成長してもらいたいものだ”と願いをかける人も多いのだとか。
ではシーターの貞淑ぶりについて紹介しましょう。
王国を追われ、森を放浪する夫ラーマに付き従うシーター。
義弟ラクシュマナ達と共にそれなりに落ちついた日々を送っていたのですが、何せラーマは生まれも良いし、美形とあって異性にモテモテ。
その中の一人羅刹族のシュールパナカーに迫られた彼は「私には妻がいるから、二重結婚はできない」とラクシュマナに振ってしまったのです。
ラクシュマナも「私は兄の下僕だからあなたと身分が釣り合わない。でももう一度兄にアタックしてみたらどうですか?あなたの美貌に兄も古女房を捨てるかも知れません」などと適当なことを言ってしまったのです。
案外純情というか、素直だったシュールパナカーは「シーターがいなければ」と思い込んだのでしょう、シーターに襲いかかったのです。
自分の言葉の責任を取るべくラクシュマナはシュールパナカーの鼻と腕を切り落とし、シーターを救ったのでした。
さて騙された挙げ句、重傷を負ったシュールパナカーはこのまま引っ込む女ではありませんでした。
実は彼女の兄が羅刹王ラーヴァナと言い、すさまじい魔力の持ち主だったのです。
妹の訴えを聞き入れた羅刹王は、ラーマへの復讐として“ラーマの一番大切な者=妻シーター”を奪い去ったのでした。
妹の頼みで掠ってきたシーターでしたが、美貌として有名な彼女にラーヴァナは惚れ込んでしまったのです。
あの手この手で(脅したり、すかしたり)シーターを自分の物にしようとしましたが「私はラーマの妻。ラーマ以上の男性はいません」ときっぱりとラーヴァナの求愛を拒絶します。
「言うことを聞かないならおまえを殺す」とまで羅刹王は脅したのですが、シーターは屈せず、ラーマへの貞節を守り切ったそうです。
もうひとつのエピソード
貞淑シーターのエピソードはもう一つあります。
ラクシュマナやハヌマーンの活躍により、ラーマは羅刹王ラーヴァナを破り、シーターを取り返しました。
しかし、長い時間囚われていたシーターはその間ラーヴァナに汚されたのではないかと貞節を疑われたのです。
シーターは自分の身の潔白を証明するため、決死の行動(体を火に身を投じる)に出たのです。
彼女の強い決意が神の心を動かしたのでしょうか、火の神アグニが出現し「ラーマの妻シーターは貞節を守った」と証言したのでした。
炎の中から火傷一つなく姿を現したシーターの潔白をラーマは信じました。
一度は万万歳となった二人の仲ですが、『ラーマーヤナ』の最終章では、またも悲劇が襲います。
国王として復権したラーマでしたが、今度は民衆から王妃であるシーターの貞節を疑う声が上がったのです。
ラーマは民衆を宥めるため、妊娠していた妻を追放しなければならなくなったのです。
シーターは一人で森に行き、双子を産みました。
しかしラーマは「その子は私の子どもなのか?」という疑惑を口にしたのです。
夫の言葉にシーターは「この子はあなたの子です。お疑いなら証明しましょう。私が潔白だったら、大地女神がこの身を受け入れてくれるはずです」と宣言します。
意外と気が強いようですね。
(と言うより、夫の言葉がいい加減イヤになったという方が近いのかも知れませんが)
すると地面が割れ、大地の女神が出現して、彼女を抱きかかえると地中に消えてしまったのです。
この二つのエピソードによってシーターの貞淑さが証明されました。
潔白は証明されましたが、度重なる不審によってラーマは愛妻を永久に失うことになりました。
回りから吹き込まれたとは言え、自分がしっかりしていれば民衆も納得させることが出来たのではないかと思うのですが、愛妻を失うという悲劇性がラーマ人気の理由の一つかも知れませんね。
エンタメ世界のシーター
ジブリ映画『天空の城ラピュタ』
前述のとおり、この映画のヒロイン名は彼女から取られたと言われています。
ラピュタでは飛行石を狙う邪悪な敵ムスカに一時的にシータが捕まってしまいますが、ラーヴァナに掠われたエピソードを連想させます。
原典となるシーターは美貌と貞淑(案外強情)という以外にあまり印象がありませんが、ラピュタのシータはバズーと一緒に飛んだり、走ったり、呪文を唱えてラピュタを落としたりと行動的な少女です。
現代のシーターは夫の言葉に一喜一憂したりせず、自分の意志で動くようですね。
シーター まとめ
現在シータと言ったらラピュタのヒロインということになるのでしょう。
男女問わずファンが多いようですが、原典のシーターのことを知ったら同情票が増えるのかも知れませんね。
そして妻を見捨てた形のラーマは今の日本では「情けない」とか「シーターを本当は愛してなかったんだ」と思われて、人気が下がるのではないかと想像します。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。