ギリシャ神話に関係した星座の話はたくさんありますが、人気トップ10に入るのが《ペルセウスとアンドロメダ》の話ではないでしょうか?
文字どおり白馬に乗った王子様が、美しい王女を救いだし目出度く結ばれる…
筆者も小学生の頃大好きなお話でした。
白馬の王子ペルセウスとは?
アルゴスの王アクリシオスは「おまえは娘が産む子どもによって殺されるであろう」という予言に恐れおののき、たった一人の後継ぎでもある王女ダナエを高い塔に閉じ込め、厳重に監禁しました。
こうすれば、娘は男と知り合う機会もないので、子どもも生まれないと考えたのです。
ところが、それを見逃さなかったのが例によってゼウスです。
ダナエの美しさに惹かれ、何と金の雨に変身し、ダナエが窓を開けた瞬間に中へ入り込んだのでした。
その交わりによって産まれたのがペルセウスです。
祖父の命令で母とともに海へ
ダナエは密かに塔で男子を産みました。
しかし、赤ん坊から幼児に成長したペルセウスがはしゃぐ声が外に聞こえ、不審に思ったアクリシオスは遂に子どもを発見したのです。
娘や孫より自分の命が大切なアクリシオスは怒り狂い、ダナエとペルセウスを方舟に押しこむと、海へと流してしまったのです。
方舟は幸い波に呑まれることもなく、無事にセリポス島に漂着し、親子は島の王ポリユデクテスに保護ました。
しかし、子持ちとは言え、ゼウスに愛されたダナエの美しさにポリュデクテスも夢中になり、妻に迎えようとしたのですが、本人も嫌がり、美丈夫に成長したペルセウスも邪魔するので、彼の思いはなかなか叶えられそうになかったのです。
こういう場合、卑怯な男が考えることは大体同じで「ペルセウスがいなければ、所詮ダナエは女だから、言いなりになるだろう」ということですね。
ポリュデクテスは王宮で宴会を開き、ダナエ親子も招きました。
他の客人が次々と豪華な贈り物を献上しますが、二人はそんな物は何もありません。
手ぶらの親子にわざと気恥ずかしい思いをさせたあげく、ペルセウスの口から「贈り物としてゴルゴンの首なら献上できます」と言わせたのです。
待ってましたとばかりポリュデクテスは「では取ってきてもらおうか」と命令したのです。
心配する母ダナエを置いてペルセウスはゴルゴンの首を取りに行くことになったのでした。
ゴルゴンの首
ゴルゴンとは蛇の頭髪を持った3人の女性の姿をしている怪物で、末の妹メデューサは見た者全てを石に変えてしまう力を持っていると言われます。
非常に危険で困難な命令を受けてしまったのですが、引き受けた以上自分の誇りにかけても果たさなければなりません。
ペルセウスには強い味方がいました。
多分ゼウスが命じたのでしょう、アテナが武器を貸してくれた上に助言してくれたのです。
アテナにとって異母弟にあたるペルセウスはヘラクレスなどのようにギラギラとした男臭さのない人物です。
私見ですが、そういう部分が処女神であるアテナにとっては楽な相手なので、快くペルセウスに味方してくれたのではないかな…と思います。
またヘルメスはハルパーという、鎌のように弧を描いた鋭い刀身の内側に刃のついた刀を与えました。
これはゴルゴンの首を切り落とすためのものです。
その他にも、グライアイという姉妹のニンフから鏡のように磨いた盾(ヘルメスの盾)、翼のサンダル(タラリア)、被ると姿が消えとしまう兜(ハデスの兜)、首を入れるキビシスという袋をもらうことができました。
鏡の盾とサンダル(タラリア)は、ヘルメスから借りたともいわれています。
準備万端整えたペルセウスはゴルゴン3姉妹の寝こみを襲ったのです。
ゴルゴン3姉妹は不死と言われていましたが、メデューサだけが不死ではなかったので、狙うのは彼女でした。
ニンフからもらったピカピカ磨かれた鏡の盾にメデューサ本人の姿を映しながら近づき、ハルパーでその首を切り落とし、キビシスの中に納めました。
メデューサの悲鳴で目を覚ました上の姉たちが騒ぎましたが、ペルセウスは姿を消すハデスの兜をかぶり、空を飛べる翼のサンダル「タラリア」で逃げ切ったのでした。
ペガサス
ゴルゴン3姉妹のメデューサの首を切り落としたとき、大量の血が流れ出ました。
その血の中から翼を持つ馬ペガサスが誕生したと言います。
真紅の血から純白の馬が誕生した…
絵になる題材なので、多くの画家が描いています。
この馬がペルセウスの愛馬となりますから、正に《白馬の王子》ですね。
ペルセウス座
北東の夜空にありメドゥーサの首を手に持っているというペルセウス座は、近くにあるアンドロメダ座と秋の四辺形を形作っています。
星座としては大星雲を持つアンドロメダの方が有名ですね。
ゴルゴン退治の帰途、アトラスと遭遇
ペルセウスは無事に命令を果たし、母のもとへ帰る途中、天空を支えている巨神アトラスに出会います。
アトラスの記事で説明したように、ティターン族の彼はオリンポス神族との戦いに敗れたため、永遠に天空を担ぐという罰を受けていたのです。
話を聞いてアトラスをかわいそうだと思ったペルセウス。
一説では石になったおかげでアトラスは苦しみから解放されたとも言われています。
今度こそまっすぐに母ダナエの元へ急ぐ青年はエチオピアで運命の出逢いをすることになるのです。
美しき王女アンドロメダの罪
荒波が押し寄せる大岩に鎖でつながれた乙女を上空から発見したペルセウスは、その美しさにたちまち心を奪われてしまいます。
この乙女こそ、ペルセウスの妻となる王女アンドロメダでした。
王女がなぜ岩につながれることになったのか、理由はバカ母カシオペアの軽はずみな言葉にありました。
彼女も美人でしたが、娘のアンドロメダはそこらそんじょにはいないほどの美少女。
その美しさが罪となってしまう事件が起こります。
カシオペアは、ついうっかり「海のニンフたちが美しいと言っても、私や娘の方がずっと美人に違いない」と言ってしまったので、海のニンフ達は怒り、海王神ポセイドンに訴えました。
ポセイドンの妻も海のニンフですから、見逃せません。
ポセイドンはカシオペアへの罰として大津波を起こし、海の怪物ケイトスを送りこんで、エチオピアの民衆を襲わせたのです。
ポセイドンの怒りを静め、この厄災から民衆を救うためには「アンドロメダ王女をケイトスの生贄に捧げるしかない」という神託が下りました。
アンドロメダの両親は泣く泣く可愛い娘を岩に縛りつけ、ケイトスへの人柱にしようとしたのです。
この場合、なぜ元凶のカシオペアではなくアンドロメダだったのかが疑問ですが、やはり怪物も食べるなら若い方が良いとポセイドンに頼んだのでしょうか。
アンドロメダ救出作戦
理由を知ったペルセウスは「怪物を倒したら、王女と結婚させて欲しい」という条件でケイトスを退治し、アンドロメダの救出を引き受けます。
できっこないと思ったのか、両親は承諾しました。
やがてケイトスが海の底から出現します。
ペルセウスはペガサスを駆って上空に飛び上がり、海面に映る自分の姿をおとりに怪物をおびきよせるとメデューサの首を見せ、石に変えたとも言います。
石になった怪物ケイトスはバラバラと姿を崩しながら海へ沈んでいきました。
さて、愛娘の危機は去りました。
結婚
民衆を苦しめていた怪物も消え、安心したケペウスとカシオペアでしたが「のど元過ぎれば熱さを忘れる」という言葉のとおり、冷静になると突如現れた正体不明の男=ペルセウスに可愛い娘をやるのがもったいないと思うようになったのです。
よくあるパターンですが。
ペルセウスが邪魔になった二人は、かつてアンドロメダと婚約していたケペウスの弟ピネウス(アンドロメダにとっては叔父であり、ケイトスにびびって逃げた)との結婚式を開こうとします。
アンドロメダの気持ちはどうだったのか不明ですが、自分の危機に逃げ出した叔父より、颯爽と現れて助け出した美青年の方に気持ちが動いていたような気がします。
恩を仇で返すような王と王妃のやり方に憤慨したペルセウスは、結婚式に乗り込むとピネウスにメデューサの首を見せて石に変えてしまいました。
ケペウスとカシオペアにもメデューサを見せると脅したので、二人は慌ててアンドロメダをペルセウスに与えることにしたのです。
セリポス島、そして故郷アルゴスへ
ペルセウスはめでたくアンドロメダと結ばれ、エチオピアで1年ほど過ごした後、産まれた子どもをエチオピア王の後継者として残し、愛妻を連れてセリポス島に帰りました。
目障りなペルセウスが生きて帰ってくるとは思っていないポリュデクテスはダナエに嫌がらせまがいに迫り続けていました。
ダナエの苦境を知ったペルセウスは「ご希望のメデューサの首です」と高らかに宣言し、ポリュデクテスに見せました。
途端に母親を苦しめていた男は石になったのです。
母ダナエと妻アンドロメダを連れたペルセウスは故郷アルゴスに戻ります。
ところがペルセウス帰還の噂を聞いたアクリシオスは「孫に殺される」という神託を未だに恐れていたので、人々の前から姿を消していたのでした。
なんだかんだあっても祖父に会うのを楽しみにしていたペルセウスは祖父不在を知りがっかりします。
気晴らしにと円盤投げ競技会に参加したのですが、手元が狂って観客席に飛び、一人の老人の頭に命中させてしまいます。
ご推測のとおり、この老人は祖父アクリシオスでした。
彼はこの傷がもとで死んでしまい、神託は的中したのです。
ペルセウス~メデューサ、ケイトスを倒してアンドロメダと結ばれたペガサスに乗る英雄~ まとめ
ギリシャ神話では祖父殺しというのはかなり多く、心ならずも殺人犯となってしまった英雄は苦悩し、影をまとうようになります。
ところがペルセウスについてはあまり影を感じないのです。
それは彼が《正統派王子系》の英雄だからではないでしょうか?
エチオピアの民衆を苦しめた怪物ケイトス、母に言い寄っていたポリュデクテス、自分と母を苦しめた祖父アクリシオス…
彼が起こした殺害には正当な理由があり、ヘラの術にかかったヘラクレスなどとは違います。
そこが高い好感度の理由でもあり、今ひとつインパクトに欠ける印象の理由でもあると思われます。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。