オリンピックなどの優勝者の頭上に載せられる植物の冠をご存じの方も多いと思います。
あれは月桂樹で作られたもので、実は今回紹介するアポロンを拒絶した美しい乙女=ダフネにちなんだものなのです。
青春の象徴とも呼ばれる太陽神アポロンをはねつけた乙女とは一体どんな娘だったのでしょうか?
エロスの矢に翻弄された乙女
ダフネは河の神ネイオスの娘で愛らしいニンフでした。
川遊びが好きな活動的な乙女だったらしく、いつものとおり水遊びをしていたら突然アポロンに求愛されたのです。
これには事情がありました。
アポロンは「君のそのちっちゃな矢は一体何の役に立つんだい?」と愛の神エロスをからかったのです。
体は小さくても、神の端くれ、バカにされたエロスは仕返ししてやろうと、まず黄金の矢をアポロンの胸に命中させました。
黄金の矢は最初に見た者を恋い焦がれてしまうという、言わば恋の点火スイッチみたいな力がありました。
そしてアポロンが最初に見たのが、水遊びをしているダフネだったのです。
そしてエロスはダフネには鉛の矢を射ました。
鉛の矢は黄金の矢とは真逆の力-つまり、最初に見た者を忌み嫌うという嫌悪の感情を生じさせる力があったのです。
アポロンは黄金の矢の力の赴くままに、乙女に迫ります。
ダフネは鉛の矢に従いアポロンを嫌います。
しかし、嫌われて引くアポロンではありません。
「麗しい乙女よ、どうして逃げるのですか、私はアポロン神、ゼウスの息子です」
「近づかないでください。私は男性が嫌いなのです」
逃げる乙女をどこまでも追いかける青年神。
完全なるストーカーです。
正体を名乗り、説得しようとするアポロンの声などダフネの耳には入らなかったでしょう。
怖い、嫌い-この感情に突き動かされたダフネは必死に逃げ続けました。
しかし、相手は神です。
人間より速いとは言え、ニンフの足ではやがて追い付かれてしまいます。
あと一歩で捕まってしまう-ダフネは必死に父ネイオスに祈りました。
「お父様、私を清らかなままでいさせてください。この男性のものにしないで下さい」
娘の願いを聞き入れた河の神はダフネの姿を変えてしまいました。
若々しい乙女は、青々とした葉の茂る月桂樹となったのです。
月桂樹とアポロン
あと一歩で恋する娘に逃げられたアポロン。
乙女が樹木に姿を変え、永遠に手の届かない存在になってしまったことが諦めきれませんでした。
ダフネへの自分の思いを証明するかのように月桂樹をダフネを自分の聖木とし、その葉で編んだ冠を身につけることにしたのです。
また、アポロンの聖地ピュティアで開かれた競技大会では、優勝者に月桂樹の冠を授けるようになりました。
この物語はギリシャ神話の中でも知名度の高いエピソードなので、芸術作品の題材としてもよく取り上げられます。
有名な彫刻はローマのボルゲーゼ美術館にある《アポロとダフネ》でしょう。
身をそらし、逃げようとする若い女を男が後ろから捕まえようとしている構図です。
また、音楽家達のイマジネーションをかき立てるエピソードでもあったようで、ヘンデルやリヒャルト・シュトラウスなどが題材としています。
ダフネ~オリンピックでご存知の月桂樹の冠の由来とアポロン~ まとめ
ギリシャの男神といったらアポロン!と言うぐらい、美しい青年神としてのイメージがあるアポロン。
それなのに熱烈に迫られても「イヤなものはイヤ!」と変身してまでも拒絶するダフネ。
エロスのせいではありますが、アポロンは自業自得で、ダフネはとんだとばっちりを受けたような気がします。
それにしても、杉とか松のような渋い樹ではなく、月桂樹という生命力と若さを感じる樹になったのは、父親の愛情だったのではと思うのです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。