『マハーバーラタ』|世界最大の叙事詩

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マハーバーラタ

インドには数多くの小説や叙事詩などがあります。

その中でインドではもちろん、世界でも最大の叙事詩が今回紹介する『マハーバーラタ』です。

記憶するのが難しいほどの登場人物の多さと、人間関係の複雑さ、展開される戦いの凄惨さ…などなど現代でも語り継がれ、読み継がれている物語です。

『マハーバーラタ』とは?

およそ10万もの詩や句で編纂された『マハーバーラタ』ですが、そのボリュウムはホメロス作のギリシャの叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』を合計したよりも遙かに多く、なんと約7倍とも言われています。

筆者は『イーリアス』『オデュッセイア』両方とも読んだことがありますが、なかなかの量で読了するまでにはかなり時間がかかりました。

その7倍ですから、読むのに一体どれほどの時間がかかるのだろうと考え込んでしまいますね。

さて、そんな『マハーバーラタ』は紀元前3世紀頃にオリジナルができて、紀元4世紀頃には全18章構成という現在の形になったと考えられます。

比較されることの多い『ラーマーヤナ』よりは後に作られた作品と推測されるそうです。

この作者は聖仙ヴィヤーサと言われますが、彼はあくまで伝説上の存在なので、本当の作者はわかっていません。

 

一言で表現すると【同族戦争を描く史実をもとにした物語】が『マハーバーラタ』です。

このタイトルの意味は【バラタ族の戦争の大史詩】で、古代インドに存在したという伝説の王バラタを祖先とするクル族が二つの陣営に分かれて、同族同士で18日間に亘る血で血を洗う凄惨な戦いを展開したという物語なのです。

実際に紀元前10世紀頃にクル族の領地クルクシェートラ(インド北部)で戦いがあったので、これを題材にしたとされています。

実際の戦争にヒントを得て成立したというのは『イーリアス』などと同じですね。

 

インドを代表するもう一つの叙事詩と言ったらラーマ王子の活躍を描いた『ラーマーヤナ』で、神話のエピソードなどが取り入れられていますが、マハーバーラタにも神話が沢山取り入れています。

神々の活躍などが書いてあるのも『イーリアス』などとの共通点が感じられますね。

全体の5分の1程度がメインストーリー部分なのですが、争いを避けられない人間の愚かさや虚しさが克明に描かれています。

『マハーバーラタ』のあらすじ

古代インド北部のクル族という王族がありました。

この王族にドリタラーシュトラとパーンドゥという兄弟がいたそうです。

兄のドリタラーシュトラは目が不自由だったので弟のパーンドゥが王となりましたが早世したため、ドリタラーシュトラが後を継ぐことになったのです。

彼は100人の王子、亡くなったパーンドゥには5人の王子がいました。

子だくさん同士の兄弟ですが、それが後の災いを招く一因になったのです。

100王子と5王子はそれぞれ【カウラヴァ】【パーンダヴァ】という愛称がありました。

王となったドリタラーシュトラは弟の遺児パーンダヴァの5王子を引き取り、自分の子どもであるカウラヴァの100王子と一緒に養育しました。

この105人の息子達は同じ環境で、同じ教師に付き、平等に教育されたのですが、生まれながらの資質というものがあったのでしょう、5王子の方が100王子より優秀でした。

 

ここがすごいところですが、ドリタラーシュトラは父親としての情より、国王としての責務を優先したのでしょう。

自分の息子達より甥の5王子の方が優れていると判断し、次期国王に5王子の長男ユディシュティラを指名したのです。

ところが、100王子の長男ドゥリヨーダナは「父上は自分の子より甥の方を取るのか」と不満を抱き、従兄弟である5王子を殺害しようとします。

幸いなことに失敗に終わりました。

自分の息子の行動に驚いた父王ドリタラーシュトラは将来的な禍根を断っておこうと王国を二分割し、100王子の国と5王子の国としたのです。

 

5王子の国インドラプラスタは辺境でしたが、安定した統治のおかげなのか繁栄したそうです。

やがてユディシュティラは即位式を挙行します。

そこには王として堂々とした彼の姿と、王妃となった絶世の美女ドラウパディーの姿がありました。

別章で紹介しますが、このドラウパディーは5王子共通の妻でもあります。

招待されたドゥリヨーダナは、華々しい従兄弟の姿に嫉妬心を掻き立てられ、何とか足を掬ってやろうと画策し、ユディシュティラにサイコロ勝負を持ちかけます。

賭けるものは【お互いの持ち物全て】というトンでもないものでした。

ユディシュティラはこれをイカサマと知らず真剣に勝負しますが、当然ながら負けてしまいます。

ドゥリヨーダナは恥ずかしげもなく彼らの領地インドラプラスタと絶世の美女ドラウパディーを奪ったのでした。

5王子の生命と言っても殺したわけではく「目障りだから俺の目に入らない所に行っちまえ!」的な思いだったのでしょう。

5王子は【12年間放浪し、13年目に100王子方に居場所を知られず過ごすこと】という条件でせっかく築き上げた王国から追放されたのでした。

 

13年の追放生活をしのいだ5王子は14年目に旧領インドラプラスタの返還を申し入れますが、ドゥリヨーダナは拒絶します。

兄弟の多いドゥリヨーダナは少しでも領地が欲しかったでしょうし、元々守るつもりのない空約束だったと思われます。

しかし、5王子側は「そうですか」と大人しく引き下がるわけにはいきません。

「約束不履行だ!騙された!」と100王子方への怒りが募ってゆきます。

5王子側の苦難を知ったクル族では同情者が増え、パーンダヴァの5王子とカウラヴァの100王子の陣営に分かれて対立し始めました。

その結果、18日間の大戦争が勃発したのです。

トロイア戦争が10年かかったことと比べると短い気もしますが、その内実はトロイア戦争にも匹敵する悲惨なものでした。

血が近い者同士だからこそ、余計残酷になったのではないかと感じます。

18日間の凄惨な戦いの末、5王子側が勝利を収めましたが、両陣営とも人員はほとんど全滅状態だったということです。

この戦いには既に隠居状態だった双方の大伯父にあたるビーシュマもかり出されましたが、戦場に散り、5王子の子どもたちも全員が殺されたのです。

5王子側にも、100王子側にも一体何のための戦いだったのかという虚無感ばかりが残ったのではないか思われます。

王族内部の戦いは一般庶民にも影響を与えずにはいられません。

関ヶ原の際の真田一族のように兄弟親子で敵同士に別れた一族もあったのではないかと考えます。

そんな一族が戦いの後、主君であるクル王族にどんなことを感じでしょう。

虚無感に襲われたのは、王族ばかりではなかったはずです。

ユディシュティラは18日戦争後即位し、36年間に亘って統治します。

しかし、同族の争いがまたも発生し、厭世観に囚われた彼は王座を捨ててヒマラヤへと向かい、生きたまま天界に上ったということです。

『マハーバーラタ』|世界最大の叙事詩 まとめ

インドで演劇、舞台でも人気のマハーバーラタは日本でも知名度があり、2017年には歌舞伎としても舞台化されたほどでした。

複雑な人間関係の中で、良いと思った行動が裏目に出て悲惨な戦争を招いてしまう…

現代にも通じるものがあり、それが人気の理由ではないでしょうか?

  • 2019 12.28
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