ユディシュティラ

世界最大の叙事詩『マハーバーラタ』はクル族の王家内部の戦いを描いた作品です。

この中で、戦いを挑まれた側の5王子(パーンダヴァ)の長子がユディシュティラです。

彼はなまじっか優秀だったために従兄弟の嫉妬心をあおることになり、同族間の血みどろの戦いを招く羽目になってしまいました。

ユディシュティラ|18日間の同族戦争を制した正義の子

古代インド北部のクル族の4代目の王ドリタラーシュトラは盲目だったため、弟のパーンドゥが国王となりました。

パーンドゥの長子がユディシュティラです。

ユディシュティラの母クンティーは聖仙からの祝福を受け、5人の王子を授かりました。

そのおかげでそれぞれが神の力を持っていたそうですが、種族はあくまでも人間でした。

パーンドゥが若くして亡くなったため、ドリタラーシュトラが国王となりました。

父親を亡くした5人の甥と自分の100人の息子を彼は分け隔て無く平等に養育したのです。

しかし5人の王子は、成長すると器量の違いが誰にもはっきりとしてきました。

ドリタラーシュトラは父親としてではなく、国王としての判断をくだし、自分の後継者に自分の100人の息子をさておいて、甥にあたる5人の王子の中からユディシュティラを指名したのです。

父親ドリタラーシュトラに見捨てられたと思った100王子の長男ドゥリヨーダナの心中はいかがなものだったか… それが凄惨な戦争へのきっかけでした。

別名:ダルマプトラ、ダルマラート

ユディシュティラは正義の神【ダルマデーヴァ】の力を授けられたと言います。

【ダルマプトラ】には正義の子という意味があるそうです。

もう一つの別名にも“ダルマ”が入っているので、やはり【正義】に関する意味を持つ名前と思われます。

ダルマ(=正義)の神のご加護を受けた者らしく、彼は実直であり徳が高いと多くの人に尊敬されました。

その一方で融通の利かない頑固な性格も持っていました。

自分が信じたことはなかなか覆そうとしなかったと言われています。

ちなみに弟達ですが、次男のビーマは風神ヴァーユの加護を、三男のアルジュナは雷神インドラの加護を受けたそうです。

5人が5人とも神の加護を受けた王子というわけです。

これだけでこちら側の勝利が決まっているようなものじゃないかと思ってしまいますよね。

同族戦争

ドリタラーシュトラがユディシュティラを選んだことでドゥリヨーダナの嫉妬心は燃え上がりました。

優秀で、邪魔な従兄弟を殺そうとしたのです。

これを知ったドリタラーシュトラは国を半分に分けました。

自分の領地と5王子の領地とに分割したのです。

 

5王子はインドラプラスタという場所を統治し、繁栄させました。

頃は良しとユディシュティラの即位式を行うことになり、ドゥリヨーダナも招待されました。

ドゥリヨーダナは繁栄しているインドラプラスタや、ユディシュティラの隣に立つ絶世の美女ドラウパディーを見て改めて嫉妬心を掻き立てられ、何とか奪ってやろうと策略を巡らせました。

ドゥリヨーダナはパーンドゥ兄弟にサイコロ賭博でイカサマをすることを思いつきます。

イカサマ賭博を仕掛けたドゥリヨーダナは計略通りに勝ち、目障りな5王子達を13年に亘る追放へと追いやったのでした。

13年後戻って来たパーンダヴァは領土の返還を求めますが、ドゥリヨーダナは言を左右にして返そうとはしませんでした。

【正義の子】だからこそ、従兄弟の背信は許せなかったのでしょう。

また、血気さかんなビーマなど弟達はユディシュティラ以上に怒ったと思われます。

ここに来て、国の内部を二分する同族同士の戦いが始まってしまったのです。

 

ユディシュティラは法の順守者でもあります。

そんな彼には一族で争うことは耐えがたかったようで、この戦争では自分が罪を背負う覚悟を決めていたとも言われます。

開戦直前、彼は一族の長老で大伯父にあたるビーシュマの元を密かに訪ねました。

そして同族で戦うことについて許しを求めたそうです。

彼の礼節を知る行動に感動した長老は、「そなたなら戦場で自分を殺してもかまわない」と言ったそうです。

18日間の凄惨な戦いの末、パーンダヴァ側が勝利しました。

しかし、それは自分たちの子ども全てを失うという悲劇の末の勝利でした。

多くの人に敬愛されていた長老ビーシュマも戦場に散りました。

ユディシュティラの晩年

同族戦争に勝利したユディシュティラは王として即位します。

しかし、強敵だったカルナが実は自分の母クンティーが結婚前に産んだ子どもで、異父兄と知らされたため、自分は兄殺しの罪を負ったと苦しんだそうです。

ユディシュティラの治世は36年続きました。

その間、自分たちの強力な味方だったクリシュナの一族が同士討ちで滅んだという知らせなどもあり、彼は虚無的な気分になっていたのかも知れません。

退位したユディシュティラは神々の世界を目指してヒマラヤへと向かいました。

そこで神々からの試練に耐え、生きたまま天界へと上ることが許されました。

天界でアルジュナやビーマ、妻のドラウパディー、そして異父兄のカルナ達と再会できたそうです。

ユディシュティラ まとめ

正義=ダルマの子と言われたユディシュティラ。

誠実で優秀な彼は王位にふさわしい存在だったでしょう。

しかし、彼が輝くほど比較されるドゥリヨーダナの闇は深くなっていったのだと思われます。

例えユディシュティラが「私は王にはならない」と表舞台から消えたとしても逆に彼の名声が高まり、どうあってもドゥリヨーダナとの対立は避けられなかったのではないかと推測します。

従兄弟という血が近いからこその憎しみと嫌悪。

ラーマーヤナの悲劇は現代にも起こりうる事態ではないでしょうか?