カーリーという女神をご存じですか?
血をすする恐ろしい女神という存在ですが、ベンガル地方ではとても人気のある女神です。
恐ろしい女神が何故人気と思うかもしれません。
実は彼女は破壊神シヴァの妻の一人であり、愛妻パールヴァティと同一神とも言われているのです。
美しく優しく賢い、すばらしい女性パールヴァティと恐怖の女神がなぜ同一神と言われるのか?
今回の主役はカーリーです。
恐ろしきシヴァの妻
紹介したとおり、カーリーはシヴァの妻の一人であり、愛妻パールヴァティの化身の一人でもあると言われています。
パールヴァティは美と穏やかさを体現する妻という設定ですが、カーリーは【獰猛さ、残酷さ】を体現しているそうです。
カーリーという名前は【黒き者】を意味し、その通り彼女の肌は真っ黒です。
風貌も異様で、3つの目と4本の腕を持ち、その腕には刀剣、そして人間の生首を連ねた首飾りを下げています。
絵によっては顔が10とか、腕も10本というものもありますから、カーリーがそのように奇怪な容姿をした女神ということは広く知れ渡っていたのでしょう。
シヴァにはパールヴァティの他にドゥルガーという妻がいました。
彼女も戦いの女神と呼ばれ、なかなか勇猛な妻だったそうです。
かつて悪魔が世界を支配しようと攻撃を始めたとき、このドゥルガーの顔を破り、別の女神=カーリーが登場したのです。
カーリーはすさまじい力で悪魔を皆殺しにしました。
恐ろしいことに、悪魔に噛みつくと、相手が失血死するまでその血をすすったと言いますから、非常に好戦的な女神だったようですね。
悪魔を殺し戦いに勝利した後でもカーリーはハイテンションのままで、喜びのダンスを踊り狂ったと言います。
戦いの興奮がさめやらなかったのでしょう。
カーリー自身は踊りまくって楽しかったことでしょうが、世界は大変なことになりました。
彼女の狂乱踊りのせいで大地が崩壊し始めたのです。
焦った神々はシヴァに「カーリーを止めてくれ」と頼み込みました。
シヴァ神は踊っているカーリーの足下に潜り込み、わざと妻に踏まれるようにしたのです。
夫を踏みつけにしたことに気がついたカーリーはやっと正気に戻って踊りを止めたそうです。
ドゥルガーの怒りから出現したカーリー
カーリーという名前は、ヒンドゥー教聖典であるヴェーダ等には載っていませんが、女神ドゥルガーという妻の活躍を綴った書物『デーヴィー・マーハートミャ』には下記のようなエピソードがあります。
大変な苦行の結果【どんな神にも殺されない】という力を得たアスラ族のシュンバとニシュンバ兄弟が神々に戦いを挑みました。
多くの神々が敵わないなかで、シヴァ神の妻ドゥルガーだけは不死身のアスラを打ち破る能力を持っていたのです。
当然ながら兄弟と対決することになったドゥルガーは、戦場に向かいますが、ここで兄シュンバからの突然のプロポーズを断り、怒ったシュンバは軍隊を差し向けます。
シュンバが差し向けたドラムチャロナ、チャンダ、ムンダを撃退したドゥルガーですが、最後の敵は兄弟王シュンバとニシュンバです。
シュンバとニシュンバたちの大軍の接近を知ったドゥルガーは激怒し、顔を黒く染めました。
そのどす黒い顔の額から完全武装したカーリーが出現したのです。
そしてカーリーはあっという間にアスラの大軍を壊滅させ、指揮官の首をドゥルガーの前に差し出したのでした。
ラクタヴィージャ
続いてカーリーと対峙したのはラクタヴィージャ(血の種子)でした。
ラクタヴィージャとは、自分の血を大地に落とすとそこから無数の分身が生み出せる力を創造神ブラフマーから得たアスラ族です。
なぜブラフマーは敵に利するようなことをしたのか、疑問ではありますね。
とにもかくにも、カーリーとの戦いが始まりました。
しかし、彼女がラクタヴィージャを武器で何度傷つけても、次から次へ分身が現れたのです。
業を煮やしたカーリーはその口を開けると、分身達を呑みこみ、流れ出る血を吸い尽くしてとうとう全滅させたのでした。
ドゥルガーは一騎打ちによってこの戦いを始めたシュンバ、ニシュンバの二人を討ち取り、勝利したのです。
このエピソードからおわかりのように、カーリーはドゥルガーの怒りから発生した存在です。
そして好戦的であり、流血を好み、ためらうことなく破壊や殺戮を行う恐るべき女神と言えましょう。
カーリーが一度破壊の衝動を解き放ってしまえば、誰一人止めることはできません。
前述のように夫のシヴァ神が踊る彼女に踏みつけにされるという裏技を使わなければ、世界が壊れてしまうのです。
またカーリーとは【時を意味駆るカーラの女性形】でもありますので、カーリーは時間を服従させる【時の征服者】とも考えられています。
エンタメ世界のカーリー
美しく残酷な破壊神の妻…それだけでエンターテイメントにはもってこいの題材ですね。
モンストでは獣神化、パズドラでは究極進化したことで更に人気がでました。
では、カーリーが登場するゲームや漫画を紹介しましょう。
『はるかなるレムリアより』 作:高階良子
昭和50年代に少女雑誌『なかよし』に連載されていた高階良子の長編漫画です。
海底に沈んだとされる古代レムリア大陸と現代日本、カンボジア遺跡などを舞台とする異色の漫画でした。
古代レムリア大陸は男女2神によって統治されていました。
しかし、そのうちの一人女神アムリタデヴィが連れ去られたため、滅んでしまったのです。
そのアムリタデヴィを誘拐したのが、レムリアの支配者となることを望んだ女神ガアリイでした。
この漫画のガアリイは黒い服に醜い顔をした女神で、チンピラを使ってエサとなる若い娘を誘拐します。
悲鳴とガツガツ、ズルズルという効果音の後、娘のバラバラ死体が発見されます。
レムリア大陸とヒンドゥー教とは直接関係はないようですが、人肉を喰らうガアリイのモデルはカーリーではないかと思われます。
『真・女神転生』シリーズ
ご存じの方も多いのではないでしょうか?
人気のシリーズでもカーリーは重要キャラとなっています。
彼女は最上位の鬼女として登場したり、地母神の一人として活躍します。
『デビルサマナー』シリーズの第2弾であり、取っつきやすくなった『デビルサマナー ソウルハッカーズ』では前作の主人公であり、今回は隠しボスとなった葛葉キョウジの仲魔としてカーリーが登場しました。
メガテンシリーズでのカーリーは腕が4本から6本で描かれています。
ドゥルガーは腕10本でしたね。
カーリーはメガテンシリーズでも人気の悪魔なので、頻繁にイラストが更新されます。
しかし、イメージ的に初期メガテンなどに描かれた金子一馬氏デザインの腕4本バージョンが他のゲームや漫画、アニメなどのデフォルトになっているように思います。
肌の色はというと『真・女神転生』では原典のように青い肌でしたが、『真・女神転生デビルサマナー』以降は赤い肌の悪魔として登場することが多くなりました。
これもシリーズそれぞれデザインが一新されていることがありますね。
いずれにしても、奇怪な容姿ということでカーリーらしいですね。
『踊る! 狂気のJKカーリーちゃん』 作:川上十億
川上十億のギャグ漫画『踊る! 狂気のJKカーリーちゃん』ではタイトル通りカーリーが登場します。
インドとのハーフという設定の黒沼カーリーは転校してきたばかりのJKです。
このカーリーちゃんがひとたび怒ると制服を破り捨て、舌を出し、腕が生えて、カーリーの姿になって男子生徒の首をハネるのです。
原典通りのキャラ設定で、ハネた首は腰に吊るしたり、狂気に満ちて踊ったりとドタバタのギャグ漫画となっています。
カーリーだけでなくインド神話に登場する神々やモンスターは腕が10あるとか、顔が10とか、不自然というより意味不明なところがありますよね。
カーリーも舌を出して踊ったり、夫シヴァが踏まれたり、ガネーシャに象の首をつけたりと可笑しいことがいっぱいです。
ライバルであるラクタヴィージャも登場し、原典に沿いつつも全く違ったインド神話ギャグ漫画に仕上がっていますね。
ギャグ漫画らしく、首をハネられた男子生徒は死にません。
その代り、象頭になっているのが面白いですね。
追記:喜多川阿弥
カーリー~アスラを壊滅させラクタヴィージャを呑み込む殺戮の女神 まとめ
人を殺め、生き血をすする恐ろしい女神カーリー。
戦いでは敵の首をちぎったり、血を吸い尽くして殺してしまうカーリー。
まるでバーサーカーか、吸血鬼のようなイメージです。
しかし、勝利の踊りに酔っていたとは言え、夫を踏んづけてしまったというエピソードはなんとなく微笑ましいと思いませんか?
「重いぞ、カーリー」「あら、あなたここにいたの?」みたいなやり取りがあったら、何とも人間くさくて親近感を覚えます。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。