トヴァシュトリ|魔神ヴリトラを生みヴァジュラを作った技巧神

ギリシャ神話のヘパイトスはゼウスとヘラの長子でありながら、冴えない容貌故に母親に疎まれ、あまり恵まれた神とは言えない存在でした。
しかし、彼には優れた才能がありました。
つまり、誰にも作れない技巧品を作る技術力を持っていたのです。
インド神話でヘパイトスに拮抗する能力を持っていたのが今回の主人公トヴァシュトリです。
彼は太陽神スーリヤとも関わりがあった意外と重要なポジションの神でした。

トヴァシュトリとは?

古代インドの宗教ヴェーダ神話によると、世界で最初に誕生した創造主とされています。
天界の技工神であり、数々の細工物や武器を作り上げました。
中でも有名なのが、インドラの武器であるヴァジュラ(金剛杵)です。
インドラはヴァジュラを駆使し、魔神ヴリトラを倒しました。
また、神々の飲み物であるソーマ用の盃なども作ったそうです。

【工巧の神】と呼ばれるのは当然ですが、他に【ヴィシュヴァカルマン】という名前でも呼ばれます。
サンスクリット語で【全てをなす者、全知である者】の意味ですが、この名前の神がいたのですが、職掌、能力がトヴァシュトリと似ているため、いつの間にか同一視されるようになったということです。
つまり元々は別の神のことでした。

ヴィシュヴァカルマン

トヴァシュトリの活躍

インドで一番有名な聖典『リグ・ヴェーダ』では、トヴァシュトリだけの独立した讃歌こそありませんが、様々な物を作り出す神として重要な働きをしています。
前述のように雷神インドラが魔神ヴリトラと戦うための武器ヴァジュラ(金剛杵)を作ったのもトヴァシュトリでした。
またソーマ酒を満たす不思議な盃なども作ったと言うことで、トヴァシュトリは“ソーマの守護者”とも呼ばれるそうです。
またトヴァシュトリは何かを創造するだけではなく、天地のあらゆるものを飾りつけたり、胎内の子どもを発育させて人間や動物の形を作り出すことができたとも言われていました。
このため、【ガルバパティ(胎の主)】とも呼ばれたそうです。

武器を持って直接戦うことはありませんでしたが、トヴァシュトリの創造力は巨大でした。
その力があまりらも強大だったため、時には武器を作ってあげたいわば友人であったはずのインドラと敵対することもあったとか。

トヴァシュトリには3つの頭を持つトリシラスという息子がいました。
別名ヴィシュヴァルーパと言い、叙事詩『マハーバーラタ』によるとヴィシュヌの化身の一人とされています。
インドラは何の理由か、彼を恐れ、遂に殺してしまったのでした。
トヴァシュトリはこのことでインドラを憎み、復讐として魔神ヴリトラを作り出したとされています。

しかし、ここで矛盾に気がつきませんか?
ヴリトラを倒す武器としてヴァジュラをインドラに作ってあげたのはトヴァシュトリでした。
自分の息子の敵討ちのため作り出した魔を倒す武器を仇に作ってあげるでしょうか?

神話というのはときに矛盾や整合性お構いなしのエピソードが登場します。
気にしてはいけないのでしょうね。

また『リグ・ヴェーダ』では彼の娘サラニュー(プラーナ文献によるとサンジュニャー)は太陽神スーリヤ(ヴィヴァスヴァット)の妻になったと言われています。
彼女はスーリヤとの間に冥界の王ヤマとヤミーの双子、そして人類の始祖マヌを生んだとされています。
ということは、トヴァシュトリは人類の祖ということになりますね。

スーリヤの章でも少し触れましたが、あまりの高熱に耐えきれなくなった妻が身代わりを置いて家出してしまったため、スーリヤは熱を減らしたくて何とかしてくれと舅に泣きつきました。
トヴァシュトリはスーリヤの輝きを8分の1削り、その破片から様々な物を作ったのです。
それが、維持神ヴィシュヌの円盤であり、破壊神シヴァの三叉戟であり、軍神スカンダ(カールッティケーヤ)の槍などに代表される神々の武器でした。

エンタメ世界でのトヴァシュトリ

戦闘能力自体はこの神には乏しいイメージですが、武器や罠などを作らせたら右に出る者はいないでしょう。
兵士ではなく、頭脳労働者的立場で活躍しているキャラに思われます。

エンタメ世界での登場は稀ですが、イラストで見て取れるのは技巧神ということですね。
技巧の神というだけあって、様々な武器やガジェットをもつキャラとして描かれることが多いのも納得できます。

トヴァシュトリ|魔神ヴリトラを生みヴァジュラを作った技巧神 まとめ

肉体的には軟弱でも、優れた頭脳を持っていたり、手先が器用で多くの物を作り出せる人は現在にも沢山いますよね。
トヴァシュトリもそんな性格の神だったのではないかと思います。
ヴィシュヴァルーパのことがなければ、トヴァシュトリはヴリトラを作り出すこともなく、インドラと対決もせず、自分の好きな物を作り、それなりに満足して生活していたのではないかと思います。

他人と関わらず、自分の好きなことに打ち込む…現代の人間に似通ったものを感じてトヴァシュトリにシンパシィを感じてしまった筆者でした。