ソーマは、今まで何回か紹介しましたが、インド神話の神々にとって大切な飲み物と言ったら【ソーマ】です。
これを飲むと、能力が高くなると言われる神の酒、言わばエナジードリンクのようなものでした。
インド神話の懐の深さの証明と思えるのですが、このお酒も神として信仰されるようになったのです。
神の酒=ソーマ
古代インド、人々が重要視したのがヴェーダの祭りでした。
そこで一番重要なお供え物と言われたのが神酒ソーマです。
ソーマは神々の飲み物とされ、人間が飲むとありがたいことに神とつながることができると言われました。
ある意味、一種の興奮飲料だったソーマは、その原料である植物(麻薬の一種ではないかと思われます)にちなんで名前が付けられています。
この神の酒が神格化したのがソーマです。
ソーマは、世界の8方角を守護するという八大世界守護神の一人と言われています。
北東を護る神です。
【酒の神】と言うのは当然と言えば当然な名前ですね。
【月の神】とも呼ばれるのはヒンディー教では“月は神の酒盃である”と見なされていたためらしいです。
また【チャンドラ】は九曜の1柱の月の神のことです。
いずれにしても、ソーマと月は結びついていたようですね。
チャンドラは仏教に取り入れられると【月天】と漢訳されます。
またソーマの息子から月種族(チャンドラヴァンシャ)が誕生したと言われます。
【ソーマ・パヴァマーナ】という名前もありますが、パヴァマーナとは自ら清まる者という意味で、その力によって己も他の者も清めるものという暗示を含んでいるのかも知れません。
ちなみにソーマを抽出したり、精製するときに唱えるマントラ(賛歌)をパヴァマーナマントラと言ったそうです。
白馬の戦車
神は徒歩で移動することはありません。
ソーマは車輪が3つ、10頭の白馬に引かれた車に乗り移動したと言われます。
神をも人をも興奮させるソーマ酒
さて、神のエナジードリンクであるソーマは人間にも効果がありました。
聖典『リグ・ヴェーダ』によるとソーマ酒を飲んで酔っぱらった詩人がすばらしい発想を得たことによって、言いようのない高揚感を味わい、興奮している独白があるそうです。
やはりソーマの正体とは、幻覚作用をもたらす薬草だったという説の信ぴょう性は高いですね。
しかし、その効果が知れ渡るようになると人気が出て、人々がこぞって求めるようになります。
すると原料であるソーマがなかなか手に入らなくなり、祭祀では代わりのものを供えるようになったそうです。
アムリタ(甘露)、マドラ(蜜)などとも呼ばれるソーマには反復性があったのかも知れませんね。
【ヴリトラ】の章で紹介する予定ですが、魔王ヴリトラは雷帝インドラに倒されました。
その時インドラに勝利をもたらすきっかけとなったのがソーマと言われています。
つまり、インドラはソーマを飲み、パワーアップしてヴリトラを倒したのです。
やはりソーマはエナジードリンクと思わざるを得ません。
ソーマの子孫は美しき月種族
神となったソーマは“王者ソーマ”と呼ばれ、神と一緒に天上に住むようになります。
人間には好意的で、恩恵を与えてくるとされる神でした。
そのおかげか『リグ・ヴェーダ』中のソーマへの讃歌の数はインドラ、火の神アグニに次いで3位となっています。
ヴィシュヌやシヴァより多いのですね。
また『リグ・ヴェーダ』の別の説によると、ソーマは鷲によって天界から連れて来られたともいい、それによってソーマは“鳥”や“草木の長”と言われることもあったようです。
やがて月がソーマ酒の器に見立てられたことによりもソーマは月の神と同一視されることになります。
チャンドラ(月)という名で呼ばれるようになったことは前述いたしました。
後のプラーナ文献の神話では、ソーマは月だけではなく、星宿やバラモン(司祭階級)、植物の支配者たる神となりました。
ところが、自分に与えられた栄光と強大な支配権に舞い上がってしまったのでしょうか、ソーマは次第に傲慢になってしまったのです。
神々の指導者ブリハスパティには美しい妻ターラーがいました。
ソーマはこのターラーを誘惑し、二人は不倫関係を結んでしまいます。
ブリハスパティは激怒し、妻を追い出しますが、ターラーは妊娠していたのです。
生まれた子どもは輝くばかりの美貌の子でした。
ソーマもブリハスパティも自分の子と主張しましたが、ブラフマーが仲裁に入り、ターラーに「この子はソーマ神の子」と告白させ落着したと言います。
このとき生まれた子どもから月種族(チャンドラヴァンシャ)が誕生したと言われます。
このチャンドラヴァンシャは長きにわたりインドを支配することになりました。
エンタメ世界でのソーマ
マンガ『聖伝』 CLAMP原作
主人公阿修羅と夜叉王は暴虐な支配者帝釈天を倒す仲間を集める苦難な旅を続けています。
その中で夜叉王の知り合いだった乾闥婆王のつてで仲間に加わったのが、蘇摩(そうま)でした。
天帝の薬師だった蘇摩一族の唯一の生き残りで、蘇摩一族は一生に一度その地を飲ませた相手を不死にできるということから、自分への脅威と感じた帝釈天が一族を殲滅させたのです。
その帝釈天への復讐のため仲間になった蘇摩は、意志の強いナイスボディな女性で、三日月のような手裏剣を武器に戦いました。
その最期はあまりにも意外で悲しいものでした。
マンガ『食戟のソーマ』 附田佑斗原作、佐伯俊画
2015年から少年ジャンプに連載中の漫画です。
料理学校を舞台に下町の定食屋の息子創真(そうま)の成長と活躍を描く漫画で、アニメ化もされ、作中に登場するいろいろな料理が話題となりました。
ソーマ|インドの神々がこよなく愛した神酒 まとめ
何回か紹介しているテレビアニメ『天空戦記シュラト』の2期OPに
♪ みなぎる ソーマを 闇にぶつけろ ♪
という歌詞があります。
ソーマについて調べているとついこの歌を思いだしてしまったのですが、やはりソーマは自分の能力を高めてくれるものという意識の方が多いようですね。
いつかはソーマという名前の栄養ドリンクとか、エナジードリンクが登場するような気がします。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。