スカンダという神様の名前を聞いたことはありますか?
インド神話にとっては重要なキーパーソンである神ですが、知名度は低いようです。
かく言う筆者もこの名前を聞いたことはありませんでした。
今回は目立たないけれど重要な神、言わば縁の下の力持ちであるスカンダについて紹介します。
スカンダとは
破壊神シヴァとその妻パールヴァティの間に生まれた男神で、象頭のガネーシャの兄弟になります。
悪魔ターラカが神々の世界に侵攻しようとしたとき、「ターラカを倒すのはシヴァ神の息子だけ」というお告げがありました。
神々は美しい女神パールヴァティをシヴァの妻にして子どもを産ませようと画策し、その計画は見事成功しました。
パールヴァティは最初にガネーシャを生み、続いてスカンダを生んだのです。
このスカンダこそ【ターラカを滅ぼすことのできる唯一の神】であると預言された神でした。
シヴァとパールヴァティはスカンダを生むために結ばれたとも言えます。
孔雀パラヴァーニ
軍神というイメージに似合わないような気がしますが、騎乗獣は孔雀で名前をパラヴァーニと言います。
孔雀は華麗な外見と裏腹にかなりどう猛とも聞きますから、スカンダの気性にはふさわしいのかも知れません。
山神ムルガン
スカンダはもともとタミール地方の人々の信仰を集める山神ムルガンという少年神が原型という説があります。
ムルガンは少年ながら生後わずか6日目で悪魔を滅ぼしたというすさまじい力を持った少年神ですが、少年の姿と悪魔を倒したという共通点がスカンダとの同一神化につながったのでしょう。
韋駄天
スカンダは仏教に取り込まれると、東西南北を守護する四天王の一人増長天の八将軍のうちの一人、韋駄天と同一視されるようになりました。
誰よりも速く駆け、仏や神々を守護し、小児の悪魔を除く韋駄天は唐風の鎧をまとった若武者の姿で表されることが多く、スカンダにちなんで孔雀に乗っているそうです。
ちなみに2019年NHK大河ドラマは宮藤官九郎脚本の東京オリンピックを題材にした『韋駄天』ですね。
カルティケーヤ
カルティケーヤは、ヨカールッティケーヤともいい、【すばる星団】という意味です。
牡牛座のプレアデス(日本名がすばる)星団とも言います。
星団の中でひときわ目立つのが6つ星ですが、スカンダとの関わりは意外なものがあるのです。
スカンダはシヴァとパールヴァティの子どもとされていますが、実は火の神アグニの子どもという説もあるのです。
アグニはバラモンの妻7人に同時に恋してしまいました。
と言っても、不倫関係は厳禁ですし、燃える思いを抱いて悶々と悩んでいたのです。
そこに登場したのがアグニに恋するスヴァーハという女性でした。
彼女はアグニに思いを告げますが、あえなく撃沈。
7人の人妻に夢中になっているアグニは他の女など目に入らなかったのです。
スヴァーハは考えた末、アグニが恋する人妻6人に化けたのです。
彼女は聖者の娘なのでそういう能力を持っていたのでしょう。
7人のうち1人は化けることができなかったので6人なのです。
スヴァーハが化けた人妻は火の神を誘惑しました。
不倫は厳禁ではありますが、やはり“据え膳食わぬはなんとやら”でアグニはそれぞれと関係しました。
スヴァーハはアグニと関係した後で、彼の精液をある山の黄金の穴に溜めておいたそうです。
そしてその穴に魔法をかけました。
その穴から生まれたのがスカンダだというのです。
6人の女性が関係しているので、6つ星→すばるということになったと思われます。
このことからカルティケーヤはスカンダの別名とされています。
ではスカンダがシヴァとパールヴァティの子どもというのは一体どういうこと?と思ってしまいますね。
アグニとスヴァーハの話には続きがあるのです。
シヴァ神信仰が広まるにつれて別の展開が発生してきます。
それが、“この二人がエッチしたとき、シヴァとパールヴァティが乗り移っていた”のだという説です。
だから体はアグニとスヴァーハでしたが、精神はシヴァとパールヴァティだったということで、シヴァとパールヴァティの子どもということになったのだそうです。
グラハ(九曜)
惑星を意味するグラハ。
やはり、前段のすばるとの関係からスカンダの別名になったものと思われます。
スカンダは9つのグラハ(九曜)の統率者で、彗星の魔神とされるターラカを退治するのだと言われています。
軍神インドラから軍神スカンダへ
なかなか勇ましい別名ですが、スカンダ誕生の理由が“悪魔退治”ですから、不思議はないですね。
ただこの異名には雷神インドラが関わっているのです。
そう、元はといえば数々の英雄譚で「軍神」と呼ばれていたのはインドラなのです。
では何故「軍神」という異名がインドラからスカンダへ移り変わったのでしょうか。
それには神々ならではのエピソードがありました。
生まれたばかりなのに暴れん坊のスカンダ。
何か知らない者が騒いでいるとインドラが見に行ったのですが、スカンダの巨大パワーに驚きます。
早速と言いますか、神々あるあるで戦いが始まります。
しかし、スカンダの能力にさすがのインドラも根負けして、自分の地位を譲ることになったのでした。
そしてスカンダはインドラの地位を襲い、軍神と呼ばれるようになったのです。
ターラカを倒した後、スカンダは父神シヴァの軍勢を束ねる将軍として活躍します。
エンタメ世界でのスカンダ
出生の秘密という謎めいた陰りをまとった凛々しい美少年スカンダ。
戦いの神であるこの神はエンターテイメントにはもってこいのキャラクターでしょう。
トリプルモンスターズ
今年4月にリリースされたトレーディングカードゲームの傑作と言われる『トリプルモンスターズ』。
タイトル通り“3”にこだわったゲームで、主人公も基本3人です。
ここに軍神スカンダというキャラが登場しているのですが、地属性の彼は無条件で敵味方をパワーアップしてくれるという大変便利なスキルを持っているのです。
ちなみに同じ地属性のモンスターにパールヴァティがいます。
スカンダ~ターラカを滅ぼすことのできる唯一の神~ まとめ
スカンダは父シヴァ神と同様に多くの別名を持っていて、軍神にふさわしく黄金色の鎧をまとった少年の姿で表現されます。
穏やかで優しい表情はとても戦神とは思えないほど柔和で、言わば【永遠の若き将軍】といったところでしょう。
彼は異性とのつきあいがうすく独身を通したという説もありますが、インドラの娘と結ばれたという説もあり、いずれにしても他の神々からかわいがられた存在だったのだろうと想像できます。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。