オシリス神話を始め、エジプト神話のあちこちに登場するラーは太陽神として人々からも篤く信仰されていました。ただし、多くの神話で活躍するがゆえに、行動に矛盾があったり、他の神に足を掬われるということもあったようですよ。
太陽神ラー
エジプトの全域で、いつの時代にあっても、常に信仰を集めていた太陽神がラーです。ヘリオポリス神話の太陽神アトゥムや、時代が下がり新王朝時代になるとテーベの最高神アメンと混合していき、勢力を拡大してゆきました。
その影響力の強大さにあやかろうとしたのでしょう、王(ファラオ)たちは自らを【ラーの息子】と名乗るようになっていったのです。
別名として【レアー】【レー】などと呼ばれることがあるそうですが、多分発音の違いによるものと思われます。【レアー】というのはギリシャ神話の最高神ゼウスの母と同じ名前ですが、何か関係があるのかも知れませんね。
神聖動物
ラーはハヤブサの頭をした神なのでハヤブサが神聖動物ということになります。
空高く飛ぶ回るハヤブサは、天空の象徴とも言えましょう。そのため、太陽を司るラーや天を司るホルス(オシリスとイシスの息子)のように、大空と関係の深い神々の神聖動物と見なされていました。
ファラオ達の名前
前述のように、ラーの息子と自称したファラオ達は、自分の息子(後継者)が誕生した時、【サー・ラー(=ラーの息子)】から始まる【ラーの息子名】を付けました。現在呼び慣わされている多くのファラオの名前は、基本的にラーの息子名ということになります。
時代、場所を超えて信仰される太陽神
太陽はその光と熱で生命を育んでくれますが、その一方、時には灼熱の暑さで旱などを起こし、人々に恐怖を与えたり、絶望の淵にたたき込んでしまうこともあります。
そんな太陽は世界各地の神話で、絶大的な力を持った神として表現されています。
もちろん、エジプト神話における太陽神ラーも同じように絶対的なパワーを持った神とされていました。
エジプトの神は、その時代や地域で信仰にばらつきがあるのですが、この太陽神ラーは時代や場所を問わず人間に強い影響力を感じさせた珍しい存在であったと思われます。
理由は、ラーへの信仰がその前時代(先王朝時代)には既に誕生していたためと考えられています。人間にとって欠かせない太陽が原初から崇拝されていたのはごく自然なことだったでしょう。
初期王朝が成立した頃には、エジプト全土はもちろん、国外の一部地域でも崇拝されていたようです。
そのため、己の地位を正当化したいファラオ達が、既に確立している太陽神ラーの権威を利用したのです。第4王朝のジェドエフラーは自らを【ラーの息子】と称し、権威を高めました。
時代が下がり、第5王朝の頃にはラーへの信仰は国土全体に広がってゆき、まさに絶頂期と言える時を迎えることになります。
やがて、中王国時代になると首都はテーベに移ります。するとラーはテーベの土着神であったアメンと一体化され、【アメン=ラー】と呼ばれるようになりました。
オシリス神話などで有名なヘリオポリスの創世神話によると、創造神はアトゥムとされていますが、太陽神信仰が盛んなこのヘリオポリスではアトゥムとラーが同一視されるようになりました。そしてラーは創造神と見なされ、崇拝されるようになったのです。
ヘリオポリス近郊ではフンコロガシの神ケプリも信仰されていました。このケプリも太陽神であったためにラーと同一視されるようになっていきのす。やがて日の出の神がケプリ、昼の神がラー、日没の神がアトゥムであるというふうに、太陽神の神格が変化してゆく神話が定着したのでした。
毎日のルーティーンワーク
太陽神ラーの主要な役割は言うまでもなく、太陽を運行させることです。
ラーは太陽神ですから、太陽が上がり、沈むという運行と共に、太陽神ラーの姿も変わっていくものと考えたようです。
古代エジプト人は、朝にはタマオシコガネの姿の神ケプリとして誕生し、時間とともに天高く昇り、ハヤブサの姿のラーになって世界中を照らします。そして蛇の姿のアトゥムとなって死んだラーは、夜間雄羊の頭を持つ姿になって冥界を通り抜けるのです。こうして翌朝には再びケプリの姿で生まれ、空に昇ると言われています。毎日変わることのない、この日課(ルーティーンワーク)の中でラーは誕生と死を繰り返しているとされています。
この一連の営み(ルーティーンワーク)は壮大な航海の神話として描かれます。
ヘリオポリス神話に溶け込んだラーは天空の女神ヌトから産まれることになりました。毎朝、ヌトから産まれたラーは天を支える山々の東方から2本のエジプトイチジクの木の間を通って昼の船【マンデト】に乗りこんで、航海に出のです。
その船には知恵の神トト、砂漠の神セトなどの神々も同乗し、悪蛇アポピスの妨害を退けながら西へと進みます。そして日没とともに死んでしまうのですが、ここから夜の船【メセケテット】へ乗り換えて、死者の魂とされる星々を従えて冥界を進んでいくのです。ここで一層狂暴化した大蛇アポピスを退治し、冥界の王オシリスと一体化して休息するそうです。休憩後は、再び女神ヌトから誕生し、新らしい航海に出発すると言われています。
ラーの太陽神話には異なる伝説も数多く存在します。空を航海したラーは母親ヌト神に飲みこまれ、その胎内を通り抜けて、再び誕生する(排泄される?)というバージョンなどもあるそうです。なんか、これはちょっと遠慮したいバージョンですよね。
他の神アゲのネタ?
太陽神として尊崇される一方、無力なラーの神話もあります。
有名なエピソードはホルスとセトの争いの時、ホルスの母イシスにまんまと騙された話でしょう。
夫オシリスを惨殺したセトを倒し、その権力を息子ホルスに渡したいと願うイシスはラーの力を借りようと策略を巡らせました。彼女は毒蛇をラーにけしかけます。毒が回った苦しむラーは解毒と交換条件に己の真名(聞いた者は相手を支配できる真実の名前)をイシスに教えてしまったのです。イシスの計略通りの展開となり、ホルスはセトを倒し、ファラオの座に着きました。
ラーを侮ったのは神だけではありません。人間達も年老いたラーに対して軽く扱うような態度が見受けられるようになったそうです。(神も老いるのか?という疑問は忘れて下さい)人間達の高慢な態度を怒ったラーは、娘であるセクメト女神に命じ、人間を懲らしめようとしました。ところが、このセクメトは殺戮の女神でしたから、懲らしめるが即殺すに変換されてしまったのでしょう。本気を出して人間を殺しまくる娘を見て、ラーは慌てて止めたというエピソードもあるそうです。
ラーが貶められることによって、同じ神話に登場する神は必然的に上位と見なされます。つまり、ラーは他の神からマウントを取られた形になってしまったのです。
しかし、逆説的ですが、情けないラーがあってこそ、その強力な権威が皆に認められていたことの証明ともなっているのです。
エンタメ世界のラー
太陽神という設定はエンターテインメントでも特別なキャラとして扱われることが多いようです。
コンピュータRPGゲーム 『女神転生』シリーズ
ラーは【アメン・ラー】の名前で登場します。上位ランクの仲間で、主人公に協力しています。
スマホゲーム 『エジコイ!~エジプト神と恋しよっ~』
女子高生がエジプト神話の神々と恋するロールプレイングゲームですが、ラーはラー先生という教師役で登場しています。高校生役じゃないのは、老人のイメージが強いからでしょうか?
ラー|ファラオ含め数多くの人々に信仰された太陽神 まとめ
太陽神と言えばギリシャ神話のアポロン、北欧神話のソールといずれも若く美形の男女です。ラーも最初はイキイキとした美青年設定だったのでしょう。しかし、年を取ってしまい、若者に邪険にされる存在になってしまいました。でも、年を取るという人間的すぎる変化が親しみを覚える理由ではないかと思われます。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。