トト|最古のボードゲーム【セネト】を駆使してヌトを助けた知恵の神

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口にしやすくて、何ともかわいらしい名前【トト】実はエジプト神話の中でもかなり有能な神様なのです。現代にも続いているゲームにも深く関わっているとも言われますし、IT時代となった21世紀の今日でも広く信仰されている人気の神様です。

トトとは?

別章で紹介してきたヌンやアトゥムなどはヘリオポリス神話の神でしたが、トトはヘルモポリス神話に登場する神となっています。ヘルモポリスも古代エジプトにあった都市ですが、ナイル川河口寄りにあった都市と言われ、ヘルモポリスよりも北方に位置していました。
このヘルモポリス神話では、トトの親はいなくて、石や卵から誕生した神としています。石から生まれるなんて、『西遊記』の孫悟空みたいですね。
但し、トトの出生については太陽神ラーの息子であるという神話もあるそうです。ゲブとヌトのようにはっきりとした親はいないということは確かなようです。
彼は知恵の神で、文字や秩序、宇宙の法則までも作ったと言われています。知恵の神だからでしょうか、全ての学問を統括する神とされ、篤く信仰されてきたのです。
そしてヒエログリフも彼が作ったと言われます。ヒエログリフは古代エジプトの文字として有名ですが、トトは宇宙の変化を記録するためにヒエログリフを作りだしたのです。
知恵の神で宇宙の法則を作ったトトですから、彼が神話の中で果たした役割は、一言で語るのが難しいほど多いのです。まずは世界で最初の“計算”をすることで、宇宙の機能や物質の法則、科学を作り出しました。また、全ての変化を記録すべきであるとして、文字(ヒエログリフ)を発明しました。
人間と神々の道徳観を定めたのもトトです。法や秩序である“マアト”を具体的に提示して、人間社会の仕組みを作りました。
ゲブとヌトのエピソードで紹介しましたが、身ごもったヌトに怒ったアトゥムは360日のうちは出産を許さないという命令を下しました。臨月のお腹を抱えて苦しむヌトを救うためにトトが作りだしたのが閏日でした。360日に属さない閏日を新たに作りだしこの日にヌトを出産させたのです。
このことからトトは月を司る神(当時月が時を司るとされていました)そして暦の神とも呼ばれるようになりました。
人間生活に関連した多くの事象-知恵、書記、時を司る、法と秩序を定める、あらゆる計算をする-など、多くの役目を担ったトトは深く信仰されるようになり、その思いはエジプト全土に及んだそうです。

トトの別名

【トート】はトトという音が伸びたものですから、発音する過程で変化したものと思われます。
【ジェフウティ】とは、トトより古い呼び名だそうです。
【知恵の神】【暦の神】【医術の神】はトトの職掌から呼ばれたものと思われます。医術の神というのは、ヌトの出産を手助けしたという理由からではないでしょうか?

トトの姿

トキの頭をもった人の姿で表されることが多いようです。これはトトが一人で何回もうなずくことから、トキがエサを求めて頭を上下する姿になぞらえられたようですね。
ヒヒの姿もありますが、白いヒヒが“偉大なる白きもの=トト”を連想させると思われていたようです。

最古のボードゲーム【セネト】

セネトというのは、エジプトの王の墓から発掘されたボードゲームです。“エジプト将棋”とも言われるそうですが、正式なエジプト名の意味は【通過ゲーム】というそうです。
王朝が誕生する前のエジプト(紀元前3500年頃)の墓と、エジプト第1王朝(紀元前3100年頃)の墓の両方で発見されました。
また、墓に描かれた絵も多く残存しており、古い物は紀元前3300年-前2700年、エジプト第3王朝時代前2686年-前2613年、前2500年頃の墓の絵の中にもセネトの絵が散見されるそうです。
このセネトですが、先王朝時代の古代エジプトのゲーム(バックギャモン、チェッカー、チェスなど)の先祖とも言われています。

ではこのゲームと知恵の神トトが一体どんな関係があるのか、それは前述のヌトの出産に絡んでくるのです。
ヌトは出産が近くなっても、お産することが出来ず、大きなお腹を抱えて苦しんでいました。それを見かねたトトが助けたのですが、この時トトは時を職掌とする月の神に勝負を挑んだのです。それがセネトでした。1勝する毎に1日の時間をもらうという賭でしたが、トトは何と5連勝しました。5日間の時間を自由に出来るようになったのです。この5日を1年に加えて閏日とし、この5日間にヌトは無事に出産することが出来ました。

さてセネトというのはどういうゲームだったのでしょう?
ゲーム盤には、30(10行が3列)の四角のマス目があります。2揃いの駒(駒は少なくても5個、もっと多いものもあります)を使用する2人のプレイヤーによる、レースゲームです。
駒はこの30マスのゲーム盤を左上から“Z”の文字のように進んだと思われます。マスのいくつかにはシンボルが描かれており、例えば15番は“再生”、26番は“幸い”、27番は“不幸”のマスということです。使用する駒の数は時代によって異なり、5個から10個ということは確認されているそうです。
実際のルールについては、歴史学者による推定は行われましたが、未だに議論されているようです。
ティモシー・ケンダルとR・C・ベルの2人のセネト歴史学者は、それぞれ異なるゲームのルールを提案しました。つまりはっきりしたルールがない以上、新しく作ってもかまわないだろうということでしょう。この二人の作ったルールはセネトのゲームを販売する別々の会社に採用されました。

聞いただけでなかなか難しそうなセネトですが、当時は単なる遊びではなく、クリアすることによって太陽神ラーや知恵の神トトの祝福が得られると信じられていました。
2人で遊ぶこのセネトは、王族という狭い範囲だけではなく、一般人の間でも娯楽として広がり、親しまれていたのです。
しかし時代が進み、紀元前13世紀半ばになるとセネトは娯楽と言うより、より宗教色の濃い儀式へと変化していきます。
現在も残るこの時代のいくつかの絵などからは、セネトは2人の人間が対戦するのではなく、故人と故人の魂そのものを象徴する目に見えない対戦者との間で行われるゲームであったと推測されます。
また、エジプトの人々の死生観にも深く関わることになりました。紀元前1567年-前1085年のエジプト新王国時代には、セネトは死者の旅用のお守り(護符)になったのです。
『死者の書』は死者と一緒に埋葬される死者が楽園に行くための言わばガイドブックですが、死者が神とセネトをしているらしい場面がその中に描かれているものもあるそうです。

多くの人々の尊敬の的に

知恵の神であるトトは、当然ながら知識、天体、数字などと結びつきが強く、発展して魔法や占いとも深い関わりがあると言われました。
別章で紹介する豊穣の女神イシスは【偉大なる魔法使い】という別名も持っていますが、その魔法の多くをトトが教授したとされています。
また、トト自身も魔法を使ったそうで、神話の中で太陽神ラーの敵対者と戦う場面が描かれているのですが、武器はなく魔法を用いて戦っているようです。
医術の神の一面ですが、太陽神ラーが失ってしまった眼を取り戻したり、砂漠の神セトによって傷つけられたホルス神を治療したりというエピソードに垣間見られるようです。

物事の創造を手がけ、時を司り、賢明で、いくつもの重要な発明をしたりといった多彩なトトは、多くの人々に崇められました。
時代が下り、エジプトに王朝が誕生してからは、各世代のファラオ(王)たちが主神を補佐する神としてトトを崇めたと言います。
また、エジプトのあちこちからトトの象徴であるトキとヒヒを埋葬した墓地が沢山見つかっているそうです。この事実は王族だけではなく、一般の民衆たちも知恵の神トトを信仰していたという証拠ではないでしょうか。

エンタメ世界のトト

少女マンガ『イシス』 山岸凉子

古代エジプトを舞台にした兄妹である男女の愛憎入り交じる山岸色強い漫画です。
トトはこの中で王であるオシリスの後見人として、数少ない常識人として活躍しています。この漫画についてはオシリスやイシスの章で詳しく紹介しますね。

『グイン・サーガ』 栗本薫

作者の逝去により未完となった文庫本100巻を超える長編異世界ファンタジー小説です。正確には栗本薫の文章は130巻の途中までです。
この中には様々な神の名前が登場し、キャラクターそれぞれが信仰しているのですが、トトの別名である【トート】という神の名が出て来ます。実はグイン・サーガ世界でトートは恋愛の神とされ、トートの矢というのが男性自身を指しているような表現がありました。
ちなみにグイン・サーガ本編は、131巻以降、他の小説家によって書き継がれています。

ゲーム『真・女神転生』シリーズ

ここには魔神トートとしてトトが登場します。“偉大なる白きもの=トト”を表すヒヒの姿なのですが、手には本を持っているそうです。このあたりに知恵の神の片鱗が窺えるところですね。

トト|最古のボードゲーム【セネト】を駆使してヌトを助けた知恵の神 まとめ

多くの役目を預けられたトト。知恵の神と言うと、近寄りがたいイメージがありますが、ゲームを駆使してヌトを助けたというエピソードには親しみが沸きますね。単なる頭でっかちではなく、優しさも持ち合わせた神というところが、現代人にも信仰されている理由なのでしょう。

  • 2021 03.04
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