アトゥム|上下エジプトを象徴する二重王冠

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アトゥムという名前から連想されるのはアトム=原子ではないでしょうか?
今回紹介するアトゥム神はその連想にふさわしいエジプト神話初期の創造神とされる神です。

アトゥム神とは?

別名を【テム】と言い、【元始の水】である世界の始まりに存在した水の塊から誕生した神です。しかもアトゥムは自分自身の意志の力でこの世に生まれ出たのでした。
たった一人で世界を造り出したアトゥム。次に彼が行ったのは、自分自身の影との結婚(つまり自慰)によって子どもである神々を生み出すことでした。
やがて、太陽神と同一神とされ、日没の太陽(夕陽?)を表すようになったそうです。

アトゥムの容姿

アントロポモルフと呼ばれる完全な人間の姿をしていますが、夜間の太陽を表す時は雄羊の頭(クリオセファル)を持つ人間の姿になるとされています。夜の太陽は見えませんから、顔を隠しているのかな?と思ってしまいますね。
アポピスという混沌と闇の蛇(元々太陽神だったのですが、その地位を追われたのでアトゥムを恨んでいるとか)と戦う時は猫の姿になることも、またアポピスと同様に蛇の姿になることもあるそうです。
神だから変幻自在というわけですね。
このアトゥム神が人間の姿で表される場合は、上下エジプトを象徴する二重王冠を被り、両手にアンクとウアスを持っています。アンクというのは長い杖、ウアスも杖の一種ですが、頭に動物の顔がつき、下の部分が二股になっている杖です。二股になっているのは、蛇よけのためだとか。アポピスとの因縁を連想してしまいますね。

原初の丘

アトゥムが自身を生みだしたのは水の中でした。さすがに水の中では何も出来ませんから、立つべき場所が必要です。その最初の場所であり、世界の始まりの場所として造り出されたのが原初の丘と呼ばれる場所でした。彼はこの丘に立ち、世界を照らして自分の子どもでもある神々を生みだしたと言います。
古代エジプトのヘリオポリス(現在のカイロ近郊)のベンベンという丘が原初の丘と言われ、太陽神としてのアトゥム神の信仰対象となりました。おもしろい名前ですが、ベンというのが【何度も生む、生まれる】という意味でありベンベンは【何度も何度も】という意味ですから、【ベンベン=永遠】を意味すると思われます。太陽神は鳥の姿になってベンベンの上に止まったと言われています。
現在ベンベンを象った四角錐の石造物を“ベンベン石”と呼ぶそうです。古代エジプトではピラミッドやスフィンクスと並んで代表的シンボルであるオベリスクですが、この建造物の頭には太陽光線を表したベンベン石を置くようになりました。

一人で子どもを作る?

エジプト神話の創世神話の一つである『ヘリオポリス神話』には、最古、世界には【原初の水】と呼ばれるヌンという神だけが存在する暗黒だったとされています。
このヌン(水)の中から己の意志力によって自分を誕生させ、しかも他の神々も生みだした創造神がアトゥム神なのです。
彼が誕生したとき、世界には父(?)であるヌンしか存在していませんでした。と言っても、ヌンは水ですから、アトゥムしかいなかったというのが正しいでしょう。
アトゥムは子孫を造りだそうと考えますが、残念ながらここにいるのは自分だけ。相手がいません。そこで気がつきます。アトゥム自身は男だったのですが、その手だけは女だったのです。(どういうこと?というツッコミは無しです)
そこでアトゥムのやったことというのが、自分の手と交わること-要するに手淫(要は一人エッチ)によって子どもを作るということだったのです。自分一人で子どもを産んだアトゥムは神々の父であり、母でもあったということになります。
また、アトゥムは手淫ではなく、【くしゃみ】をしたとか、もしくは【つば】を吐いて大気の神シューと湿気の女神テフヌトを産んだという説もあります。

アトゥムが神々を作った方法は今の現代人から見ると「異様だよね」「あり得ない」と感じるかも知れません。しかし、手が女というこことで、両性具有の神と見なされ、自分の力だけで創造行為を成功させたということが、創造神としてのアトゥムの偉大さを意味しているとも言えましょう。

創造と絶滅-二面性を持つアトゥム神

アトゥムという単語ですが【万物の創造者】【それ自身で完成するもの】という意味を持っていると言います。ということは、アトゥム神は表の顔として【創造】という性格を持ちながら、裏の顔として【終わらせる】という性格も持ち合わせていると考えられます。それ自身で完成するのなら、それ以後はないということですから、終わりということを意味しますよね。

この神はヌン(原初の水)から出て来たときには蛇の姿だったそうです。
エジプトの有名な『死者の書』には、“アトゥムは世界が終わる時に自分が造り出した全ての物を破壊し尽くし、原初の蛇の姿に還るだろう”と書いてあるそうです。
この『死者の書』は古代エジプトで死者ともに埋葬された文書で、絵とヒエログリフで死者が楽園に行くまでの様子を描いたものです。
ちなみに蛇は古代エジプト人が最も原初に近いと見なしていた生物の中野一つです。脱皮を繰り返し成長する蛇の生態を見て、繰り返す生命の象徴と考えたのでしょう。
この発想から、世界が終わりアトゥムが再び原初の水(=ヌン)の中に還る時、蛇の姿になると思われたのかも知れません。

また、深い水(闇)の中から登場し、世界に光をもたらしたアトゥムは当然のように太陽信仰と結びつきました。
太陽神と同一視されケプリ=ラー=アトゥムと呼ばれるようになりました。長い名前ですが、1神の名前ではなく3神です。つまり日の出の若い太陽はフンコロガシの頭を持つ神【ケプリ】と言い、天の頂にあって世界を支配する真昼の太陽が【ラー】、日没の生気のない太陽をアトゥムが表すようになったのです。創造の神なのにアトゥムはなんだか日陰にいるような感じですね。

大きな称号=宇宙の主人

アトゥムはしっかりと組織だった宇宙を作り上げたため、【宇宙の主人】【神々の王】という輝かしい称号を与えられました。この称号はのちに登場し、太陽神と同一化したアモン(アメン)にも与えられました。

太陽は夜間の旅の途中、進路妨害するアポピス(蛇)と戦い、猫とマングースがアポピスを倒します。猫とマングースは地を這うもの(この場合は蛇)の敵と言われているそうです。今はやっていないそうですが、昔は沖縄で “蛇対マングース”の戦いを観光名物として行っていましたね。

生命を与える天の光に対し、闇と地下の力が争うという宇宙のイメージは、善悪が戦い、最終的には善が勝つということを示唆しているかのようです。
アポピスを倒したアトゥムは一度地平線に沈みますが、やがて光り輝くホルス(ホルアクティ=地平線のホルス)となって東から姿を見せるのです。

エンタメ世界のアトゥム

テレビアニメアニメ『鉄腕アトム』

言わずと知れた手塚治虫原作の名作アニメです。
高度経済成長期、科学万能時代へと向かう昭和30年代を象徴するかのようなテレビアニメ初期の傑作として評価の高い作品です。白黒だったということも、今見ればノスタルジーを感じさせますね。

ゲーム『モンスターストライク』

創造主であり、太陽神という強力なキャラ設定になっています。

漫画『ジョジョの奇妙な冒険』荒木飛呂彦

スタンドとして登場し、【賭】に負けた相手の魂に干渉する能力の持ち主です。

アトゥム|上下エジプトを象徴する二重王冠 まとめ

神話の始まりの創造神は案外ないがしろにされるパターンが多いのですが、アトゥムは太陽神と合体したこともあって、重要性は失っていないようですね。
一人で子どもを作ってしまうというエピソードは北欧神話のユミルを連想させますが、アトゥムはユミルのように子孫に殺されるという悲劇は逃れることが出来ました。このあたりがエジプト人と北欧の人々との違いでしょうか?

  • 2021 03.03
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