長編漫画『ガラスの仮面』の原作者美内すずえ氏は、ホラー漫画にも定評のある実力家です。
その作品に『魔女メディア』という中編があることを知っている方は、かなりの美内ファンだと思いますが、この作品は今回取り上げるヒロインに触発された漫画ではないかと推測しています。
コップ座
この星座は暗く、目立たない星座です。
ゼウスの息子、酒神ディオニソスが酒を作った鉢とも言われています。
また、これから詳しく紹介しますが、メディアが愛する男の野望を叶えるため、毒薬を調合した杯という説もあります。
深すぎる愛と憎しみ
メディアはコルキス王アイエテスの娘で、母は海流の神オケアノスの娘エイデユイアと言われています。
また、アイアイエ島に住む魔女キルケーはアイエテスの妹で、メディアの叔母にあたり、そのためメディア自身も薬草の扱いに詳しく、毒薬の調合も得意だったとされています。
この能力を駆使して、恐るべき殺人を繰り返すことになったのです。
とは言っても、もともとの王女メディアは純真な少女でした。
彼女の運命を変えてしまったのが一人の男との出会いだったのです。
その男とは、イオルコスの王子イアソン。
彼は叔父ペリアスから玉座を奪還するための条件として出された難題を達成する旅を続けていました。
その難題とはメディアの父アイエテスが持っている黄金の羊毛を手に入れることだったのです。
オリンポスの神々はイアソンの味方で、何とかして羊毛を入手させようと画策していました。
そこで、アイエテスの娘メディアをイアソンに協力させようと、愛の神エロスの矢で彼女の胸を射抜いたのです。
誰一人あらがえないエロスの矢を受けたメディアはたちまちイアソンに恋焦がれるようになり、父を裏切って恋する男に協力しようとするのでした。
黄金の羊毛を渡したくないアイエテスが、とんでもない難題(アレスの火を吹く牡牛に畑を耕させろetc…)を命じると、メディアはどんな炎でも火傷をしない薬をイアソンに渡し、成功させました。
難題を果たしたイアソンですが、アイエテスは黄金の羊毛を惜しみ、逆にイアソンを始末しようと計画します。
それを悟ったメディアは父を出し抜き、金の羊毛を守る龍を眠り薬で眠らせると、それを奪いイアソンに渡したのです。
父が自分の裏切りを知ったらただでは済まない…
メディアは恋人をせき立て、弟アプシユルトスと共にアルゴー船に乗り込みコルキスを脱出しようとします。
しかし、アイエテスの追っ手がかかります。
巨大船とは言え地の利はアイエテスにあります。
困ったイアソン達の前でメディアは驚愕の行動を取るのです。
すなわち、自分の弟アプシユルトスを殺し、この遺体を八つ裂きにすると、海に投げ捨てたのです。
息子の無残な遺体をアイエテスが部下に回収させている間に、アルゴー船はコルキス海域を脱出したのでした。
メディアはここで、【実の父親を裏切り、弟を手にかけた】のです。
さて、イアソンはイオルコスに戻り、ペリアスに王位の返還を迫りました。
長年の生活で欲が出たペリアスは返還を渋り、なかなか約束を果たそうとはしませんでした。
待ちきれなくてイライラしてくる恋人を見かねたメディアは、若返りの薬を溶かした湯と偽ってペリアスを熱湯に誘いこみ、煮殺してしまったのです。
この時にはペリアスの娘達も利用したと言われています。
とにかくメディアは再び【手を汚した】ことになります。
イオルコスの王位に就いたイアソンはメディアを妻に迎えました。
この時が彼女にとって、念願が叶った最高の時だったでしょう。
二人の間には子どもも二人産まれました。
ところが、やがてイアソンはコリントス王に「娘のグラウケと結婚してもらえないか」と言われ、心がぐらつき始めたのです。
糟糠の妻メディアは自分を愛するが故ではあるが、実の弟まで殺した恐ろしい女だし、コルキスから放逐された王女で財産もない。
それに比べるとグラウケは若いし、コリントス王の娘で財産もある…
イアソンが冷酷な計算をしていることを勘の鋭いメディアが気づかないはずはありません。
今までの自分の愛を簡単に踏みにじろうとするイアソン。
その恨みは相手の女へ向かいます。
メディアは結婚衣装と称して、美々しい衣装に毒をたっぷりと染みこませ、グラウケへ贈りました。
衣装のきらびやかさに目がくらんだグラウケが手に取るとたちまち火を吹き、王女は焼死、助けようとした父王も焼け死んでしまいました。
それだけではなく、メディアはイアソンとの間の二人の子どもも殺してしまったのです。
コリントス王親子の死に仰天したイアソンが家に戻るとメディアの姿はなく、もの言わぬ子どもの遺体だけが残っていたそうです。
メディア~深すぎる愛と憎しみのために魔女と呼ばれた悲しき王女~ まとめ
《悪女》や《魔女》と言われるメディアですが、同性から見ると、そんなにひどい女とは思えないのです。
無責任な男にひっかかり、自分の手を汚してしまった哀れな女のように思えます。
グラウケ達の悲劇はイアソンに非があるのではないでしょうか?
メディアの凶行はもともとイアソンのために行われたのですから。
神々も彼女について責任を感じていたのか、イアソンが孤独な晩年を過ごしたのに対し、メディアはコリントスを脱出したあと、アテナイ(アテネ)王アイゲウスと再婚したと言われています。
イアソンに振り回された前半生の辛さを補うくらい穏やかな日々がメディアに巡り来たことを願わずにはいられません。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。