ギリシャの神々の中でも、【青春】の象徴とされる太陽神アポロン。
美形で音楽の才能もある王子様キャラのはずなのに、あまりハッピーな恋愛に縁がないという神ですが、彼と人間の娘コロニスとの間に産まれたのがアスクレピオスです。
ゼウスを始めとする神々は恋愛ばかりに夢中になっているイメージがありますが、このアスクレピオスは唯一と言って良いほど軽薄なイメージのない神です。
死んだ母から取り出された胎児
アポロンとコロニスはカラスを使いにしてデートを重ねていたと言います。
ところが、勘違いだったのか、わざとなのか、ある時カラスは「コロニスは他の男と会っていた」とコロニスが浮気したとばかり、アポロンに告げたのです。
プライドの高いアポロンが愛人の浮気を許すはずはありません。
自慢の弓をひくと、恋人の胸を射貫いてしまったのです。
人間の身であるコロニスが助かるわけありませんね。
彼女は自分が身ごもっていること、アポロンに対する気持ちに揺るぎはないことを告げて死んでいったのでした。
さて、一時の怒りが収まり己のしたことに愕然とするアポロン。
自分が殺してしまった恋人の体から胎児を救い出しました。
そしてケンタウロス族の中でも賢人と評判のケイロンに養育を依頼したのです。
告げ口をしたカラスはどうなったかと言うと、アポロンの怒りによって純白だった羽根を漆黒に変えられてしまったそうです。
ですから、カラスの羽根は真っ黒なんだとか。
名医アスクレピオス
ケイロンの元で成長するアスクレピオス。
両親不在とあって、寂しい思いもしただろうと想像できますが、神話には彼の思いなどの記載はありません。
やがて、医術に才能を開花させた彼は、師匠をしのぐほどの腕となり、独立したそうです。
父親であるアポロンは何をしていたのか?と思いますが、遠くから見守っていたのかも知れませんね。
アポロンが父親というのは何とも不似合いな感じがします。
さて、名医として有名になったアスクレピオスにやっとギリシャの英雄らしい活躍の場が巡ってきました。
父親を亡くし、彼と同じくケイロンに育てられた(義兄弟みたいなものですね)イアソンがテッサリアの王位を取り戻すためコルキスに遠征することになり、一緒にアルゴー船に乗り込んだのです。
このアルゴー船には当時のそうそうたる面々が乗り込んでいました。
ヘラクレスを始め、アキレウスの父であるペレウス、竪琴の名手オルフェウスなどなど。
アスクレピオスはその一員として遠征に同行したのでした。
長い遠征に名医が付いていることはイアソン達にとっても心強かったことでしょう。
アスクレピオスは彼らの期待に応え、怪我や病気の治療に努めました。
ところが、腕が良すぎるのも考え物と言うべきか、神に愛された故の不都合と言うべきか、女神アテナからメドゥーサの血をもらったアスクレピオスはこれを使い、死人を生き返らせることまでできるようになったのです。
ゼウスの罰
死人を生き返らせる-神でもそこまではしません。
アスクレピオスの行動で怒ったのが、冥王ハデスでした。
冥府は死者の国です。
死者がいなくなっては冥府は成り立ちません。
「このままでは、世界の秩序が狂ってしまう。なんとかしてくれ」とゼウスに抗議するハデス。
兄に言われるまでもなく、人間が生死を自由に操るようになったら神の存在も不要になってしまいます。
自分にとっては孫にあたるアスクレピオスですが、これは見逃してはおけぬと武器である雷霆を投げつけ、ゼウスはアスクレピオスを殺したのでした。
とは言うものの、今までアスクレピオスはすばらしい実績があります。
その労をねぎらうためでしょうか、神の一員とされ、へびつかい座にされたと言います。
アスクレピオスの死に納得できなかったのがアポロンです。
と言っても、自分の父ゼウスに逆らうことはできません。
ここが人間くさいところだと思うのですが、自分の敵わない相手に手を出さないで、弱い相手を攻撃するのは神も同じということで、アポロンはアスクレピオスを殺したゼウスの雷霆の製作者である巨人族のキュプロクス一族を皆殺しにしてしまったのです。
とんでもない八つ当たりですよね。
ゼウスは激怒しました。
もともとはアスクレピオスの自業自得のようなものですし。
息子アポロンには罰として、テッサリアで家畜の世話をさせたそうです。
神であるアポロンが汗や泥にまみれて、羊や馬の世話をするというのはプライドずたずたでかなり厳しかったことでしょう。
アスクレピオス~死人を生き返らせるほどの名医~ まとめ
自分の身勝手な恋愛や人間達への干渉ばかりがクローズアップされるギリシャ神話の神々の中で、アスクレピオスはそういったひどいエピソードには縁遠いキャラクターです。
医師という職業人の面ばかりが注目されるからでしょう。
【いい人なんだけど恋人としてはねえ…】という男性がいますが、アスクレピオスもそんな男性だったと思われます。
でも、夫としては良いんじゃないかと筆者は思うんですよ。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。