有名なインドの叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公ラーマはとても人気のあるキャラクターですが、今回の主役ラクシュマナはラーマの弟です。
異母兄弟ですが、とても深くラーマを慕っていて、ラーマが追放されたとき、自分も付き従って行ったほどでした。
あまりに兄に対する愛情が強いので、インド神話に詳しい人の間では【極度なブラコン】と呼ばれることもあるそうです。
ラクシュマナ|兄ラーマに付き従いインドラジットを倒した勇者
インドの母なる川ガンジス河の北のコーサラ国の首都アヨーディヤーを支配していたダシャラタ国王は子どもに恵まれず、悩んだあげく、神に祈りを捧げたそうです。
その祈りが通じたのか、彼の前に調和神ヴィシュヌが出現し、神酒を授けました。
ダシャラタには妻が3人いたので、それぞれに神酒を分け与えたところ、神酒を半分飲んだ第1の妻がヴィシュヌの化身である長男ラーマを生み、第2の妻は4分の1の神性をもったバラタを生み、第3の妻が8分の1ずつの神性を持ったラクシュマナとシャトルグナを生んだと言われます。
兄ラーマへの強い忠誠と敬愛
ラクシュマナは兄のラーマをひたすら慕っていました。
ラーマも自分を追いかける異母弟をかわいがり、仲の良い兄弟だったようです。
ラーマはインド神話でもトップクラスの美形であり、有能な青年で多くの女性にモテたようです。
その中で彼が妻にしたのは、ジャナカ王の娘シータでした。
結婚と同時に成人と認められたラーマは父王の後を継ぎコーサラ国王として即位したのでした。
長男ですし、性格も問題ないので当然のことと皆が納得の展開でした。
ところがここに思わぬ落とし穴があったのです。
父ダシャラタの第2の妻カイケーイーが自分の息子バラタのために、ダシャラタ王にラーマへの疑いを掻き立てたのです。
ダシャラタは以前カイケーイーに「そなたの願いは2つまで叶えてやろう」と約束したことがありました。
それを楯にカイケーイーは、ラーマの追放とバラタの即位を要求したのでした。
ラーマはあっさりと義母の言い分を了承し、シータと共にアヨーディヤーを出てしまいました。
異母兄を慕うラクシュマナも当然付いていきます。
この追放生活はなんと14年以上と言われますが、ラクシュマナは影のように付き従ったのでした。
ちなみに激情家であるラクシュマナは理不尽な運命を受け入れようとするラーマに対し、義母カイケーイーを非難したと言います。
しかし、ラーマはラクシュマナをなだめ、静かに国を出て行ったのでした。
自慢の長男に去られたダシャラタは自分のしたこととは言え、自責の念に苦しめられたのでしょう。
ラーマ達が去って間もなく、亡くなったと言われています。
心をもてあそばれたシュールパナカーとシータの誘拐
国を追われたラーマ達は各地の森を転々と放浪していました。
ラクシュマナもラーマも弓にかけては達人で、狩りで食料を得ていたようです。
ラクシュマナは意外と手先が器用だったらしく、木を伐って小屋を造ったりしていたとか。
さて前述のように、ラーマは美丈夫でしたから、惹かれる女性も多かったのですが、その中に厄介な者がいました。
羅刹族の女シュールパナカーが迫ったのです。
もとより愛妻シータがいますから、ラーマは「自分には既に妻がいる。二人も妻を持つわけにはいかないから、ラクシュマナと結婚すればいい」と断り、ラクシュマナを薦めたのです。
ラクシュマナもシュールパナカーは好みじゃなかったのか、「自分は身分の低い下僕だから結婚相手には良くない。だがおまえは美しいから、ラーマもおまえに乗り換えるんじゃないか」と冗談で返しました。
ところが単純なシュールパナカーはラクシュマナの言葉を本気にしてしまい「シータがいなければ」と思ったのか、シータを殺そうとしたのです。
ラクシュマナは怒り(原因はラクシュマナの言葉なんですが)シュールパナカーの鼻と耳を切り落としてしまいました。
ところが、シュールパナカーは羅刹王ラーヴァナの妹だったのです。
妹からラクシュマナ達の非道を聞いたラーヴァナは怒り、復讐を決意したのです。
それはラーマが一番大切にしているもの、つまりシータを奪うことでした。
ラーマ達の隙を突いて、ラーヴァナはシータを掠ってしまったのです。
愛する妻を奪われ、いつもの穏やかさはどこへやら、狂乱して世界すら破壊しそうな勢いで激怒するラーマをなだめたラクシュマナは義姉奪還に全力を尽くそうと決意します。
猿の勇士ハヌマーンなど頼もしい味方とともに、敵の拠点ランカー島へ先頭となって進軍しました。
このラクシュマナの前に立ちはだかったのが、強敵インドラジットです。
インドラジットとの死闘
羅刹王ラーヴァナの息子インドラジット。
名前からしてインドラと関係がありそうですが、雷帝インドラと戦い、勝利したという戦歴の持ち主です。
かなりの強敵だったことがわかると思います。
インドラジットは自分の姿を消す魔術と弓の使い手でした。
彼が矢を放つと、天地を覆い尽くすほどの矢の雨が降り注いだと言われます。
この矢によって軍の先頭のラクシュマナは重傷を負いました。
ラクシュマナの死地を救ったのはハヌマーンでした。
彼はたった一晩でヒマラヤ山脈へ飛んで行くと、薬草が生えている山を丸ごと抱えて運んで戻り、ラクシュマナを生き返らせたのです。
インドラジットの魔術攻撃はまだまだ続きました。
今度はラーマ軍の前にシータの幻影を生みだしたのです。
それだけではなく、シータの首を落として殺したと見せかける魔術を見せたので、ラーマは強いショックを受けて、戦意喪失状態に陥ってしまいます。
ラーマは精神的には意外と脆いところも持っているんですね。
大将が戦意喪失してしまっては部下達も困惑します。
ところがここに救いの手が現れます。
羅刹側から寝返ったラーヴァナの弟ヴィビーシャナがラクシュマナを密かに手引きしたので、彼は次の魔法を使うため祈ろうとしていたインドラジットを急襲したのです。
こうしてラクシュマナとインドラジットの1対1の剣の戦いが始まりました。
お互い一歩も譲らない勇者同士です。
ラクシュマナはインドラジットの矢を受け、血みどろになりながらも戦い、最後にはインドラジットの首を刎ねて勝利しました。
インドラジットが敗れたことで、解放されたシータは無事にラーマの元に戻りました。
その後のエピソードについてはシータの章で紹介しますね。
ラクシュマナ まとめ
人々から慕われる温厚な兄と暴れん坊な弟。兄弟の組み合わせとしてはよくあるパターンですが、ラクシュマナが一方的にラーマを慕っていたのではなく、ラーマも異母弟に頼っていた部分があるのではないかと思われます。
放浪が終わり、改めて即位したラーマはラクシュマナを太子にしようとしましたが、ラクシュマナは固持したと言われます。
ラクシュマナは王位などには縛られたくなかったのではないかと想像しています。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。