カーマという神をご存じですか?
シヴァ神の章で登場した“愛と快楽の神”です。
こういう枕詞がついていると一体どんな神なんだろうと興味が沸きませんか?
ギリシャ神話の神ほどではありませんが、インド神話の神々もかなり愛やエロスには関係が深かったようです。
その二つを操っていたのがカーマです。
カーマとは?
西洋においては、愛欲の神エロス(キューピッド)にあたるのがカーマです。
古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』では、宇宙が誕生したときに現れた概念で、暗黒だった世界に一番先に出現したのが、このカーマだったと言われています。
後世になると、この概念が神となり、愛の神カーマへと変わっていったのです。
その姿は美貌の若者で、オウムに乗って弓矢を構え、矢を放つと言います。
一度その矢に射貫かれてしまうと、人間だけではなく、神ですら“愛”に囚われてしまうというほどの威力がありました。
弓矢
ギリシャのエロスと同じように、カーマも弓と矢が必須アイテムです。
その材料はなんとサトウキビで、甘い匂いにつられてミツバチが群がっていると言います。
5本の矢を持っていますが、それぞれに名前があり【悩ます】【焦がす】【迷わす】【攪乱(かくらん)する】【酔わす】と言います。
いかにも恋愛と深い関わりのある名前ですね。
この矢を射ることで、狙った男女に恋愛感情を抱かせることができたそうです。
一説によると、カーマの姿を見ただけで、愛欲を催し、すぐさまエッチしてしまう男女もいたとか。
即効性の恋愛用の薬だったとも言えましょう。
オウム
カーマの乗り物はオウムです。
人の言葉を真似するオウムから、相手を口説くのが上手という連想につながりませんか?
やはり、オウムも恋愛には必要な生き物ではないかと思われます。
カーマの別名
カーマに【愛の神】という別名があるのは、その職掌からして当然かも思います。
その他に【カーマディーヴァ】【プラディユムナ】という名前で呼ばれることもあります。
重要任務
カーマの存在がクローズアップされるのは、破壊神シヴァとの関わりのためです。
シヴァの章で紹介しましたが、彼は最初の妻サティを自殺で亡くし、悲しみの余りヒマラヤの山中で苦行に打ち込んでいました。
激情で知られるシヴァのことですから、一心に脇目もふらず、集中していたことでしょう。
そこへ神々から依頼を受けたカーマが登場したのです。
当時、ターラカという悪魔が大暴れして、神々は困り果てていました。
そこへ“シヴァ神の息子がターラカを滅ばすだろう”という予言があったのです。
神々はシヴァ神に息子を作らせる必要に迫られました。
ところが、サティを思う破壊神は苦行ばかりで、女のことなど頭の隅にも浮かばない状態でした。
そこでカーマの出番となったのです。
カーマに託された使命とは、シヴァの苦行を止めさせて、サティの生まれ変わりである美しいパールヴァティと結婚させることでした。
カーマは矢を抱えてシヴァ神の元に近づきました。
1本の矢は見事シヴァに命中したのですが、続いく2の矢は放てませんでした。
シヴァの第3の目が開き、そこから光が放たれたのです。
神々に託された任務は果たしましたが、カーマは焼き殺されてしまったのです。
後にシヴァとパールヴァティが神話界でも1位2位を争うほどの仲良し夫婦となったことを考えるとカーマの悲劇は“恩を仇で返す”という言葉がぴったりではないかと思います。
カーマ復活
カーマにはラティ(快楽)という名の妻がいました。
愛の神の妻が快楽というのは、似合いすぎですね。
夫の死を悲しんだラティは、その原因ともなったシヴァ神の妻パールヴァティに「夫を帰して下さい」と泣きついたそうです。
知らぬこととは言いながら自分が手を下したシヴァは心苦しいと思っていたのでしょう、カーマの復活を許可しました。
古代インドの作家カーリダーサの『クマーラ・サンバヴァ』によると、“シヴァがパールヴァティを受け入れるときに、シヴァはカーマに肉体を返す”と書いてあります。
いずれにしても、ラティの願いが叶って、カーマは復活しました。
またプラーナ文献では、カーマはシヴァに殺された後、維持神ヴィシュヌの化身の一人クリシュナ(化身の中でも人気の高いキャラです)の子プラディユムナに生まれ変わりましたが、この時には妻のラティも生まれ変わり、魔族シャンバラに嫁いでいたとあります。
ラティは偶然この赤子を拾うのですが、夫の転生した姿であることがわかり、大切に育てたそうです。
やがてカーマはすくすくと成長し、魔族シャンバラからかつての妻ラティを奪い返し、二人は再び結ばれたということです。
愛の神カーマにふさわしいロマンチックなエピソードと言えましょう。
エンタメ世界でのカーマ
愛と快楽を司る、いわばキューピッドのような役割のキャラです。
これはもう、エンタメ世界での活躍は間違いなしですね。
キューピッドといえば、ギリシャ神話のエロスが挙げられますが、あまりにも知られたエロスだけに、あえてカーマを用いるゲームやアニメが多いのも納得できる選択ですね。
女神転生シリーズ
カーマは、メガテンシリーズに登場していました。
はっきりとは覚えていないのですが、カジャ系の魔法が重宝したように思えます。
いわゆるサポートキャラですね。
メガテンではサポートキャラもかなり重宝するので一時的に使っていた方もいるのではないでしょうか。
デビルサマナーシリーズでは恒例のキャラとなっていたようです。
モンスターストライク
モンストに登場するカーマは、味方としては非力なものの、敵キャラとして登場するとちょっと嫌らしい存在になりましたね。
とりあえず、カーマを倒しておいてから攻略するなんてこともしばしば。
今までは、星4キャラとして無視され、神化の素材にしかならなかったカーマが、逆に適役として脚光を浴びるとは思いもよりませんでした。
追記:喜多川阿弥
カーマスートラ ~愛の教科書~
1997年公開の『カーマスートラ~愛の教科書~』というかなりきわどい内容の成人指定映画がありました。
タイトル通り、カーマの教え=愛欲の教科書(!)に従ったエロスむんむんのドラマとの評判でした。
16世紀のインドで王妃となる女性が幼なじみの美貌に嫉妬し、嫌がらせで王宮から追い出してしまいますが、彼女は仕返しとして相手の夫をカーマの教えでたらしこみ、愛人に収まるが…と愛欲渦巻く、子どもには絶対見せられないドラマだったようです。
それにしても、カーマスートラという映画が作られることからも、カーマが恋愛(というよりは愛欲)の神と見られていたことは確実なようですね。
カーマ まとめ
時代が進み、人間の理性が勝つようになると、古代人のような大らかな恋愛(愛欲)表現は大人しいものとなっていきました。
それに合わせるように、カーマやギリシャのエロスなど愛の神の位置も下がっていったような気がします。
食欲などと共に第一次欲求である(恋)愛は人間に欠かせないもののではないかと思います。
もう少し、堂々と表現しても良いのではないかと思われます。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。