インドラ

インドラは、様々な武器を駆使する神々の戦士として知られています。

覚えきれないほど数多くの神が登場するインド神話。
知名度ではヴィシュヌやシヴァがダントツでしょうが、今回紹介するインドラもこの2神に負けないほど知名度と人気のある神です。
そしてパワーも強大。
今回はスター神とも言えるインドラを紹介します。

インドラとは?

インドラ

雷帝と呼ばれるように、雷を司るヴェーダの神々の長であり、インド最古の聖典『リグ・ヴェーダ』の中ではどの神よりも多くの讃歌が捧げられているほど信仰された神です。

その容貌というと、茶褐色の偉大な体つき(ごついと言うことですね)をし、ヴァジュラと言う武器を投げ、悪魔や敵を粉砕するそうです。
戦士として強力であることは言うまでもなく、彼の姿はアーリヤ戦士の理想像として崇拝され続けました。

その一方、激情的、奔放な性格で、同じ神であり、一説には妻とも言われる暁の女神ウシャスの車を壊してしまうなどの暴力を振るうこともあり、神界の平和を破ることもあったそうです。

ヴァジュラ

武器として有名なのがヴァジュラです。
雷を操る武器で、太陽神スーリヤの章で紹介する天界一の匠、工巧神トゥヴァシュトリが作った物です。
インドラ神話には【恐ろしげな形】とだけ記載されていて、正確な形は不明ですが、現在の密教の金剛杵はガンダーラ美術のヘラクレス像が持っていた棍棒が源流とされといるので、この棍棒のイメージがインドに流れこんで現在のようなヴァジュラが誕生したと考えられます。
日本の仏像などが手に持っている金剛杵もそれに近い形状ですね。

シャクラダヌス(弓)

シャクラダヌスという弓も持っています。
この矢を使って、インドラは魔族であるアスラ族またはラークシャサの王ラーヴァナの大軍を一撃で全滅させたというエピソードを持っています。

ちなみに、インドラには別名が数多くありますが、その一つ【ウグラダヌヴァン(恐ろしい弓を持つもの)】は、このシャクラダヌスにちなんだものでしょう。

パランジャ(剣)

またの名は【雷剣】と言います。
インドラが雷帝と呼ばれていますから、そのまんまの名前ではありますが、落雷などを起こすパワーを持っていたのかも知れません。

アイラーヴァダ(白象)

インドラは白い象に乗った姿で現されることが多いようです。
この白い象はアイラーヴァダと呼ばれ【大海から生まれた者】を意味しています。
この意味であれ?と思う方もいらっしゃるかも知れませんね。
あの【乳海攪拌】の時に海から多くの生物が生まれましたが、アイラーヴァダもその中の一つだったのです。

4本の牙に7本の鼻を持つ巨大な象で、インドラが支配する楽園スヴァルガの都であるアマラーヴァティーの入り口を護っています。

インドラ

ウッチャイヒシュラヴァ(白馬)

ウッチャイヒシュラヴァという7つの頭を持ち空を飛ぶ馬です。
頭の数は違いますが、ペガサスのような馬ということでしょう。
これも乳海撹拌の時に海から誕生しました。
最初は魔王バリが所有していましたが、後にインドラの所有となりました。

サラマー(犬)

インドラの愛犬です。
冥界の番犬2頭のサーラメーヤたちの母親犬ですが、普通の犬ではなく『リグ・ヴェーダ』によると、魔族のパニ族と対等に渡り合い、交渉も行なったと言います。
言葉が話せる犬だったのでしょうね。

インドラの別名

多くの別名を持つインドラですが、それだけ信仰されていたという証拠でもあります。
特に有名なものを紹介しますね。

ヴリトラという巨大な蛇で、水をせき止め旱魃を引き起こし、人々を苦しめていました。
インドラはこの蛇を倒したので“ヴリトラ殺し”という意味の【ヴリトラハン】という名で呼ばれるようになったそうです。

他にも【雷神】【軍神】【八大世界守護神】とも呼ばれました。
ギリシャ神話のアレス、北欧神話のトールのような立場だったのではないかと思われます。

仏教名

仏教に取り入れられたインドラは仏法守護の主神の一人とされ【帝釈天】となりました。
十二天の一人でもあって、東方の守護神とされます。

日本では【帝釈】とも呼ばれますが、インドラが【シャクロー・デーヴァナム・インドラ」(神々の王インドラ)】と呼ばれていたのが中国では【天帝釈】と漢訳されて、省略して帝釈となったようです。

雷神にふさわしい性格と能力

人気があり、広く信仰されていたインドラは聖典『リグ・ヴェーダ』では最多の讃歌を捧げられていますが、その数はなんと全体の約25%もあります。
戦闘力の強さでは群を抜いており、悪魔を退治し、神々や人々を救い、守りました。
だからこそ尊崇を集めたのでしょう。

戦いの神にふさわしく、その性格は勇気なあふれ、豪胆で奔放。
敵を容赦なく倒し、人々を護るインドラは自分を信じる者には寛大でありました。
そういう人物にありがちですが、アルコールを好んだインドラは特にソーマ酒が好きだったそうで、ついつい飲み過ぎ食べ過ぎてしまうというなんとも人間的な一面も持っていたと伝えられています。
そういうところも人気の理由でしょうね。

ソーマ酒

ヴェーダの祭祀で用いられる一種の興奮飲料がソーマ酒です。
この酒は神々と人間に栄養と活力を与え、寿命を延ばし、霊感をもたらしてくれる霊薬と言われています。
神々はソーマを飲用して英気を養い、詩人は天啓を得るために飲むそうです。

ヒンドゥー教では、月が神々の酒盃と考えられたため、ソーマ=月の神と考えられました。
インド占星術が扱う9つの天体を神とした九曜【ナヴァグラハ(サンスクリット語で9つの惑星の意味)】というのがありますが、この一柱である月の神チャンドラとソーマは同一視されました。

ソーマについては、ヒンドゥー教だけでなく、ゾロアスター教でも同じ飲料(神酒ハオマ)を祭祀で使うので、この二つは共通の起源を持つと言われています。
実は『リグ・ヴェーダ』の第9巻全体がソーマへの讃歌となっています。
聖典の賛歌があるということは、ソーマの重要性が窺えますね。

三界の王

インドラ

『リグ・ヴェーダ』によるとインドラにはあまり恵まれていない出生と青年時代があったそうです。
インドラの母は地母神であるプリティヴィーですが、息子がわき腹から生まれたので赤子を捨ててしまいました。
子捨ての理由は、インドラが生まれながらにして強大な力を持っていたので恐ろしくなったからとも、パワフルな息子を他の神々の嫉妬から護るためなどと言われています。
理由があるにしても、乳飲み子で捨てられたのでは成長に影響があったはずですね。

母はそうでも父はどうだったのか、と言いますと、父親のディヤウス(天空神)も自分の息子に敵意を抱いていたそうです。
親子敵対の結果、インドラは心ならずも実の父親を殺すことになってしまったのです。
彼は神々の同情を失い、困苦のうちに世界中を放浪する時代を過ごさなければならなくなりました。このあたりの展開は、ギリシャ神話での大地母神(ガイア)と天空神(ウラヌス)の息子(クロヌス)孫(ゼウス)における父殺しと似ていますね。

さて、流浪していたインドラでしたが、ソーマ酒が神々にもたらされると俄然表舞台に飛び出してきます。
水をせき止めたり、洪水を起こして人々を苦しめていた大蛇ヴリトラに神々は次々戦いを挑みましたが、敵いませんでした。
やがて誰一人ヴリトラに立ち向かおうとしなくなったとき、インドラが神酒ソーマをあおってエネルギーを補給し、ヴァジュラを手に戦車で挑んだのです。

すさまじい戦いの末、投げつけたヴァジュラが大蛇の体に突き刺さり、インドラはヴリトラを倒したのでした。
災厄の死に神々も人々もこぞって歓喜しました。
今や、父親殺しとしてインドラを非難する者は誰一人いません。
こうしてインドラは天界、空界、地界の3界の王として君臨することになったのです。

アーリヤ戦士の理想

インドラは神話上の仇敵を倒しただけではありません。
当時のインドを支配していたアーリヤ人にとっての現実の敵“ダーサ”とも戦ったと言われています。
“ダーサ”とはサンスクリット語で【敵】【隷属】などの否定的な意味を表しますが、インドに侵入したアーリヤ人と敵対したインダス川流域に住む先住民族を指します。
要は後から入ってきた強力な民族が、先住民族を追い出しにかかったというわけです。

インドラはダーサの要塞を打ち砕き、勝利しました。
この成功により彼は【プランダラ(要塞、都市を破壊するもの)】と呼ばれ、称えられたそうです。
このような雄々しいインドラの姿は、アーリヤ戦士がかくありたいと願った理想の姿の象徴であると言えるでしょう。

ところが武勇神として名声高かったインドラも、時代が移り、バラモン教よりヒンドゥー教が盛んになっていくと、その地位は次第に低下していきました。
依然として神々の中で優位に位置にある神ではあるものの、場合によっては悪魔に倒されてしまったり、捕まってしまうなど、弱くなってしまったのです。
またインドラの好色さがムダに強調され、人妻に手を出して夫の仕返しで窮地に陥ったりすることもあると言われました。
豪華な白い象に乗ったインドラの姿に代わりはありませんでしたが、そのイメージは勇猛で剛毅果敢な戦神を感じさせるものではなくなってしまったのです。

インドラのイメージは変わっていきました。
しかし、時代が移り神の重要性、配置構成が変わっても、彼は神々の代表者という絶対的な優位性を保ち続けました。
やはり、どれほど時代が経ってもインドラは信仰の中心にいる神だったと言えると思います。

エンタメ世界のインドラ

インドラは強烈なキャラクターなので、エンタメに登場させるにはもってこいと言えましょう。
数多くのゲームやアニメで活躍しています。
雷を司る神というのもキャラ立てしやすいのも、造り手がわからしても魅力なのではないでしょうか。

女神転生シリーズ

インドラ(メガテン)
インドラ(メガテン)

初登場は『真・女神転生』で種族は魔神です。

ヴィシュヌに次ぐ高レベルの悪魔だったのですが『真・女神転生Ⅱ』では、前述の神話のエピソードや劇中のメシア教のヒンドゥー教を貶める政策によって、弱体化したという設定のせいで低レベル(LV72→LV27)になってしまいました。

その姿は金子一馬が開発中に描いた【天魔王】と名付けられた悪魔のデザインが基本となっています。

『女神異聞録ペルソナ』では封神具「寅の腹巻」(雷様には寅の衣装が付きものですね)帝釈天にゆかりがある人物から)を使用して作れる、白いドクロのマスクをかぶり、金色の槍のようなヴァジュラを持った法王のペルソナとして登場しました。

パズドラ

インド神シリーズの光属性を担当する神タイプキャラクターです。
モチーフはインド神話の神ですが、ヴリトラ(大蛇)と対比させたのか、神話とは違い人形ではなくドラゴンの姿になっています。
神話と同じく、ヴリトラとは敵対関係にあるそうです。

女神転生のアイラーヴァタ

インドラではありませんが、彼の乗り物である白い象も登場します。
初登場は『真・女神転生デビルサマナー』で、種族“聖獣”の悪魔です。
四本の牙を持つ豪奢な装飾をまとった白象という神話の図像とあまり変わらないデザインとなっています。

攻撃、補助スキルをバランスよく所持していますが、HPや体力が高く『デビルサマナー ソウルハッカーズ』では、性格が友愛のため身を挺して主人公を守る“友愛の加護”など、防御面に秀でた悪魔です。
悪魔でも、友情とかの感情を持ち合わせている設定なんですね。
と言っても、物語に絡むことはほとんど無く、むしろギリメカラの方が圧倒的に登場作品数や活躍が多いので、アイラーヴァタはどちらかと言えば不遇かも知れません。
なお「真・女神転生Ⅳ」で初めて東京の露天商を訪れた際に問われる『アルカソーダラ』という単語はアイラーヴァタの別名です(“太陽の兄弟”の意)。

『天空戦記シュラト』の雷帝インドラ

声優は昭和50年代には『ダイターン3』などのヒーロー役として人気のあった鈴置洋孝です。
『ファーストガンダム』のブライト艦長、『聖闘士 星矢』の紫龍など、名脇役としても人気がありました。

調和神ヴィシュヌの側近として、信頼篤い存在だったはずが、実は敵であるアスラ族のスパイで、破壊神シヴァの命令を受け、ヴィシュヌを石化させ、天空界混乱のきっかけを作ったのがインドラでした。
親友であるシュラトとガイを引き裂き、戦わせたインドラですが、最後までアスラ族にはなりきれず、結局自分の部下であり、シュラトの仲間であった天王の手に倒れるという運命をたどりました。

『聖伝』CLAMP原作のオリジナルアニメ

この漫画最大の悪役で、諸悪の根源とも言える帝釈天。
残虐非道で恐怖政治を敷き、側近でさえ信じない男。
その冷酷な行動の理由はただ一つ、ある人との約束を果たすため。
インドラの愛犬サラマーについて前述しましたが、『聖伝』の中では戦乱を起こすため、わざといたいけな少女の遺体をサラマーに喰わせ、姉であるカルラ王の怒りを掻き立てるという非道なことも行っています。

この悪逆非道ながらも、ある人との約束に縛られる、良く言えば純情とも思える複雑な性格の帝釈天を演じたのは『ドラゴンボール』のセル役、『シュラト』のシヴァ神など悪役が多い若本則夫でした。

『天空の城ラピュタ』

言わずと知れたジブリの名作です。
この中で敵キャラであるムスカ大佐が「ラピュタの力を見せつけてやろう」と言い、地上に雷(いかずち)を放ちます。
この武器をムスカは「インドラの矢」と呼んでいました。
攻撃力、破壊力の大きさをインドラの武器に喩えたのでしょう。
これは後の叙事詩『マハーバーラタ』にある戦争に用いられた武器【インドラの雷】のことだと思われます。

インドラ まとめ

インド神話をよく知らない人でも、インドラという名前は一度は聞いたことがあると思います。
世界的にも知名度の高い雷神インドラ。
日本でも帝釈天は『寅さん』の映画で知った人が多いと思います。

調べれば調べるほど、一筋縄では行かないインドラの行動にはいろいろな説が飛び出してきます。
その多彩な顔が人気の理由の一つではないかと思われます。