カサンドラの名前は、アポロンの章に登場しました。
彼女はトロイア王家の姫で、父親はプリアモス、母親はヘカベーです。
生き別れの兄パリスが引き起こした事件のせいで、彼女は悲惨な最期を遂げることになったのです。
アポロンを拒絶
カサンドラは美少女だったそうです。
王家の娘として大事に育てられた彼女には求愛者も多かったようですが、中でも一番熱心だったのは太陽神アポロンでした。
アポロンはカサンドラの愛を得ようと数々の贈り物をし、気を引こうとします。
しかし、生まれ育ちに似合わず、意外と疑い深い彼女はゼウスの息子を受け入れようとはしませんでした。
業を煮やしたアポロンは「私を受け入れてくれたら、おまえには予知の能力を与えよう」と言い、カサンドラはその場で優れた予知能力を身につけたのでした。
すると彼女の脳裏に浮かんだのは、他の女に目移りするアポロンとそれを悲しんで泣き暮らす自分の姿でした。
カサンドラは即アポロンの前から逃げ去ります。
自分を拒絶し、予知能力だけを手に入れた彼女への怒りはすさまじく太陽神は呪いをかけたのです。
「カサンドラの予言は的中する。しかし、誰一人としてそれを信じる者はいない」という、恐ろしいものでした。
カサンドラの予言は誰にも顧みられることがなくもトロイア戦争の悲劇へとつながっていくのでした。
トロイア戦争
パリスの審判については様々のところで紹介したので、省略します。
ただ、兄パリスを城に入れることについてカッサンドラは「トロイアに不幸をもたらす。城に入れてはいけない」と予言しました。
しかし、両親も臣下も誰も信じようとせず、逆にカサンドラを「気が触れた王女」として遠巻きにするだけでした。
そしてパリスは人妻ヘレネと駆け落ちし、トロイへ逃げ帰ります。
ここでもカサンドラはヘレネを受け入れることを辞めるよう主張しました。
しかし、男社会では父プリアモスと長兄ヘクトルの言葉が絶対です。
この二人がパリス達を受け入れることを認めた以上、カサンドラが何を言ってもムダでした。
じわじわと傾いてゆくトロイア王家…
アポロンはカサンドラをどんな思いで見ていたのでしょう?
そしてトロイ戦争のクライマックスとも言える【トロイの木馬】が登場します。
この時、正体不明の巨大物を城に入れてはならないと主張したのはラオコーン親子とカサンドラだけでした。
トロイアの神官だったラオコーンはアテナの怒りに触れ、親子ともども蛇の怪物に殺されました。
これを見た市民が、カサンドラの忠告を無視したことは言うまでもありません。
【トロイの木馬】により、ギリシャ軍は城内外から攻め寄せてきました。
老人だったプリアモスはあっさり殺され、ヘカベーを始めとする王家の女性達はとらわれの身になりました。
カサンドラはアテナ神殿に逃げ込みました。
ところがそこでギリシャ側の兵士小アイアースという男に陵辱されます。
自分の神殿での冒涜行為に怒ったアテナは、故郷への帰還の途中小アイアースを溺死させたと言います。
落城の最中に受けた暴力行為…
カサンドラはわかっていたはずです。
それでも、アテナ神に助けを求めずにはいられなかった彼女の心情はどんなものだったのか、想像するのもはばかれるようです。
非業の死
敗者となったトロイア王家の女性達には辛い運命が待っていました。
ヘカベーはオデュッセウスの戦利品となり、ヘクトルの妻アンドロマケはアキレウスの息子の愛妾とされ、カサンドラは寄せ手の大将アガメムノンの愛妾として、ミュケナイへ連れて行かれることになったのです。
アガメムノンは勝者です。
その意に逆らうことはできません。
栄華を誇ったトロイア王家の姫を愛妾として好き勝手に扱う…
アガメムノンはきっと満足していたことでしょう。
山ほどの財宝と若く美しい王女、これに勝る戦利品はありません。
意気揚々とミュケナイへ帰還したことでしょう。
しかし、同行するカサンドラには自分と男に待ち受ける悲劇が見えていたのでした。
ミュケナイの城ではアガメムノンの妻クリュタイムネストラが満面の笑顔で夫の帰還を迎えました。
にこやかに夫の労をねぎらい、旁らのカッサンドラに優しい言葉をかけるクリュタイムネストラ。
その瞬間カサンドラは悲鳴を上げ、倒れました。
「どうなさったんでしょう?」妻の言葉に「いや、この者はこういう性格の姫だ。気にするな」とあしらうアガメムノンはクリュタイムネストラに勧められるままに浴室に入りました。
全裸になり湯船につかるアガメムノンを刺客が襲います。
血の中に沈むアガメムノン。
その情景を予知していたカサンドラにもクリュタイムネストラの手の者の刃が迫ります。
トロイア王家の姫カサンドラは異国ミュケナイでその短い生涯を閉じたのでした。
カサンドラ~予言は的中する!しかし誰一人として信じる者はいない~ まとめ
予知能力があったら…とは一度は誰もが望むことだと思います。
しかし、家族の危機、国の存亡の危機なのに誰にも聞き入れてもらえないどころか「頭がおかしいんじゃないか」と軽蔑されてしまったら…
カサンドラはその辛さを抱いたまま殺されていきました。
いくら神に逆らった罰とは言え、彼女の運命の悲惨さに人間の身としては虚無感しか覚えません。
若々しい美青年の象徴とされるアポロンですが、カサンドラのことを考えるとどうしても好意が持てない神なのです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。