凄惨な同族戦争を描いた叙事詩『マハーバーラタ』多くのキャラが登場しますが、一番人気と言われるのが今回の主役アルジュナです。
文武両道、美形でもあり、女性にもモテモテ…と今ならアイドル並に騒がれたことでしょう。
その彼も悲劇的な運命から逃れることはできませんでした。
アルジュナ|神の弓ガーンディーヴァとバガヴァッド・ギーター
父はクル族の王にして若くして亡くなったパーンドゥ。
母はクンティーです。
ユディシュティラを長兄とする5王子(パーンダヴァ)の3男にあたります。
18日間の同族戦争ではパーンダヴァの勇者として数多くの強敵を倒し、パーンダヴァに勝利をもたらした第一の功労者と言われます。
この戦いについて同族で戦うのは良いことだろうかと悩んだアルジュナに親友であるクリシュナがその正体を現し「正義のために戦うことがそなたの義務だ」と説き伏せました。
実はクリシュナは維持神ヴィシュヌの化身だったのです。
アルジュナは人間の代表として神に対して“戦う意味、人間としてのあり方、全ての疑問を提示する役目”を負っていたと言えるかも知れません。
弓の名手のアルジュナは武勇一辺倒ではなく、繊細な面も持ち合わせていました。
人間味のある英雄だったのです。
別名:アインドリ、ガーンディーヴァダヌヴァン
アインドリには【インドラの子】という意味があります。
実はパーンドゥには“女性と交わると死んでしまう”という呪いがかかっていました。
ですからクンティーを妻にしても、本当の夫婦ではなかったのです。
しかしクンティーは以前“好きな神の子を産める”というマントラを授かっていました。
彼女が3番目のこの父として望んだのが雷帝インドラだったのです。
だからアルジュナはインドラの子でもあるのです。
ガーンディーヴァダヌヴァンは【ガーンディーヴァ=神の弓を持つ者】という意味です。
パーンダヴァの長兄ユディシュティラはダルマ(正義)の加護を受けた子と言われますが、この説によればダルマの子というわけですね。
名弓ガーンディーヴァ
創造神ブラフマーが作った弓とされ、酒の神ソーマから司法神ヴァルナへ渡り、火の神アグニからアルジュナへ譲られたという由緒正しい武器です。
アルジュナだからこそ扱えるので、普通の人間は扱えなかったそうです。
発射するときに、弓は雷の音を立てるそうですが、インドラとの関係も感じさせますね。
アルジュナはこの弓を手に入れてからは常に愛用したそうです。
空にならない矢筒
ガーンディーヴァと同じくアグニ神からもらったものと言われています。
弓だけもらっても使いようがありませんから、矢の入った矢筒は必要ですよね。
しかも何回放っても、空にならない、永遠に矢が尽きないのであれば無敵と言えるかも知れません。
4頭の白馬が引く戦車
なかなかステキなイメージが沸いてきますが、こちらもアグニ神から頂いたという戦車です。
猿の旗印を立てた機動性抜群の戦車とされています。
アルジュナはこの戦車を駆って戦いに身を投じたのでしょう。
追放と冒険の日々
武勇に優れたアルジュナはさまざまな場所を旅したようです。
その旅の中で彼は自分だけでなく、兄弟達に深い関わりを持つ女性に会います。
それがパンチャーラ国王の娘で絶世の美女として名高いドラウパディーでした。
国王は娘にふさわしい相手を探すため、競技会を開いたのです。
それは高い弓術の才能が必要とされるものでした。
弓にかけては並ぶ者のいないアルジュナだけがこの競技に勝ち、ドラウパディーと婚約することになったのです。
実はこの競技会にはユディシュティラなどパーンダヴァ全員が参加していました。
でも勝利者はアルジュナでした。
ドラウパディーを連れて家に戻った兄弟達ですが、家の外から母クンティーに「私が何を手に入れてきたかおわかりか?」と呼びかけます。
するとクンティーは忙しかったのか、息子達の様子を確認もせず「何を連れてきたのかわかりませんが、ケンカにならないように兄弟で仲良く分け合いなさい」と答えたのです。
パーンダヴァは母親の言葉に素直に従い(素直すぎでは?)ドラウパディーは5人共通の妻ということにしたのでした。
ドラウパディーの意志は無視なのかと思ってしまう女性もいるのでは?
悲惨な同族戦争
パーンダヴァが従兄弟に当たるドゥリヨーダナの陰謀で13年の追放生活を送る羽目になったことはよく知られています。
兄弟で助け合いなんとか13年を乗り越え、改めて領土の返還を申し出ましたが、ドゥリヨーダナは元から約束を守るつもりなどなく、従兄弟同士の対立はますます深まっていきました。
そして遂に開戦を迎えてしまったのです。
18日間という短期間の戦いではありましたが、血縁同士の死闘ということで一般庶民達にも深い傷を残した戦いとなりました。
前述のようにアルジュナにはインドラの子と言われ、雷帝の力を持っていたと言われました。
5王子の中でもトップの勇士と呼ばれ、親友であるクリシュナとともにパーンダヴァのエースでした。
しかし、この戦いでは自分は無事だったものの、敵側の急襲で一人息子が殺されるという悲劇に見舞われます。
唯一生き残ったアルジュナの血筋が息子の妻の胎内に宿っていた幼児で、この幼児が成長してパーンダヴァの血筋をつなぐことになりました。
親友にして義兄クリシュナとの友情
多くの人間に慕われ、憧れの的となったアルジュナですが、彼にとってなくてはならない人物がクリシュナでした。
元々クリシュナはアルジュナの従兄弟に当たり、その妹スバドラーが妻となったので、義兄ということにもなります。
ちなみに二人の恋は父親に反対されたのでクリシュナが薦めて駆け落ちさせたと言います。
アルジュナとスバドラーはパーンダヴァの領土インドラプラスタへ戦車を走らせましたが、御していたのはアルジュナではなくスバドラーだったそうです。
彼女も武芸に秀でていたのでしょう。
クリシュナは義弟アルジュナを精神的に導くだけではなく、戦いでも彼を戦車に乗せ、自分はその近くで支援し、一心同体の活躍だったと言われます。
また同族戦争の意味について悩むアルジュナに「私は世界を滅亡させる死神なのだ」と言いながら、クリシュナは薄気味悪い姿の神や、輝かしい神などの姿、あらゆるものを含む恐るべきヴィシュヌ神の正体を現したのでした。
ヴィシュヌの化身であるクリシュナが万物を内包し、超越する存在であるということを示すエピソードと思われます。
アルジュナとクリシュナの問答をまとめたのが『バガヴァッド・ギーター』です。
エンタメ世界でのアルジュナ
ゲーム『Fate』シリーズ
このゲームに登場するアルジュナにはクリシュナ(=黒)という別の人格を備えています。
原典のマハーバーラタでの二人は表裏一体のような活躍をしますから、同一キャラの設定も不自然ではないのかも知れません。
二面性を持つ人物像は、原典でクリシュナの一切相(最高神としてのヴィシュヌ)を目にしたアルジュナだからこその特徴とも思われます。
アルジュナ まとめ
武芸に優れていても脳筋男ではなく、従兄弟との戦いに心を痛ませる優しさも持ち合わせたキャラクターアルジュナ。
妻は美しいドラウパディーや駆け落ちまでした愛妻スバドラー、兄弟仲も良く、家庭的にも恵まれている陽性のキャラだと感じます。
人気のある理由もわかりますね。
不満があるとすれば、もう少し屈折率のあるキャラだったら…
と無い物ねだりをしてしまう筆者でした。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。