インド神話の集大成として2編の叙事詩が編まれました。どちらも世界的に有名ですが、今回紹介するのはその一つ『ラーマーヤナ』です。
今まで紹介してきたラーマ、ラクシュマナ、ハヌマーンそしてシーターなどの人物はこの叙事詩の登場人物なのです。
『ラーマーヤナ』|ヴァールミーキが編纂した長編叙事詩
インドで深く信仰されてきた二つの宗教がバラモン教とヒンドゥー教です。
この二つの神話を集大成しながら作られた壮大な英雄譚が『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』です。
『ラーマーヤナ』の方が先に成立したと言われています。まず紀元前5世紀頃に原型となるストーリーが生まれ、紀元2世紀頃に現在の形(全7章で構成)にまとまったと考えられているようです。
作者は明らかではありませんが、聖仙ヴァールミーキと伝わっています。
自分の作品『ラーマーヤナ』の登場人物の一人でもあります。
ヴァールミーキはもともと王家の生まれだったのですが、幼くして捨てられ、森で山賊達に育てられたことから成長すると追いはぎなどをするようになりました。
ある時襲いかかった聖仙から逆に諭され、初めて生きるということを考えるようになったそうです。
思索の結果が長大な叙事詩だったというわけです。
叙事詩は人間が始めた作った詩歌と考えられているので、ヴァールミーキは【最初の詩人】とも呼ばれるそうです。
『ラーマーヤナ』というタイトルは【ラーマ王行状記】の意味で、維持神ヴィシュヌの化身であるラーマ王子が、羅刹王ラーヴァナにランカー島へ連れ去られた妻シーターを救出するストーリーです。
『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』二つの大叙事詩の特徴は、サイドストーリーに神話を多く取り込んでいるというところで『ラーマーヤナ』の主となる物語部分は全体の3分の1程度しかありません。
とは言っても現代までの長い時代人々に愛されていた物語は、まさに波瀾万丈のストーリーと表現しても過言ではなく、名場面が次から次へと登場して起伏に富み、飽きさせない物語になっています。
成立してから何千年を経た現在でも演劇や舞踊、映画などの題材とされ、多くのインド人に愛され続けているのです。
『ラーマーヤナ』のあらすじ
まず羅刹族の王ラーヴァナが苦行するところから始まります。
気が遠くなるほどの長時間の難行苦行の末、創造神ブラフマーに認められたラーヴァナは【神にも魔族にも殺されることはない】という約束を取り付けます。
このときラーヴァナの脳裏に人間という発想はありませんでした。
自分より遙かに劣ったものという先入観があったのでしょう。
ですから【自分を殺すものの範囲】に人間は含まれていませんでした。
ラーヴァナとブラフマーの約束に他の神々は戦々恐々とし、密かにラーヴァナ打倒を目論んだのですが、ブラフマーとの約束のためにラーヴァナ自身を倒すことが出来なかったのです。
そこで一計を案じたのが最高神の一人維持神ヴィシュヌでした。
化身という能力を持っていたヴィシュヌはコーサラ国王ダシャラタの息子ラーマに化身し、人間としてこの世に生まれたのでした。
要するに【ラーマはラーヴァナを倒すために生まれた存在】だったのですね。
容貌も優れ、性格も温厚誠実、文武両道のラーマ多くの人々に慕われました。
彼は美人と評判のヴィデーハ国の王女シーターの婿選び大会に参加し、優勝したので美しいシーターを妻としたのです。
美しい妻を得た優秀な王子ラーマ。
第1夫人の長子ですし、性格にも才能にも問題はありません。
父のダシャラタ王はラーマを次期国王にと考えたのですが、第2夫人でラーマの異母弟バラタを産んだカイケーイー妃が陰謀を巡らせたのです。
彼女は自分の息子を王位に就けようと国王に讒言し、ラーマを森に追放したのでした。
義母の卑怯なやり方に異母弟で熱血なラクシュマナは激怒し、カイケーイーをなじろうとしたのですが、ラーマはそれを抑え、シーターの3人で城を出ると、森へと移ったのでした。
森で狩猟などをしながら暮らすラーマ達3人でしたが、美形で優秀なラーマは異性にモテモテでした。
そんな彼に羅刹族の女シュールパナカーが一目惚れして迫ったのです。
シーターがいたためラーマはあっさりとシュールパナカーを袖にしてラクシュマナに押しつけたそうです。
「兄がダメなら弟でも良いか」と思ったのかわかりませんが、ラクシュマナに言い寄った彼女にラーマの異母弟はたちの悪いジョークを言ったのです。
「おまえは美人だし、もう少し強引に迫れば兄も古女房を捨てて、おまえに乗り換えるかも知れないぞ」と。
シュールパナカーは意外に純粋だったらしく「と言うことは、シーターがいなければラーマは私のもの」と思い込み、シーターに襲いかかったのでした。
義姉の危機を救ったラクシュマナは(自分の責任を忘れたのか)仕返しとばかり、シュールパナカーの鼻と耳をそいでしまったのです。
ラクシュマナの行為も残酷すぎますが、ここで問題になるのがシュールパナカーの兄です。
実はシュールパナカーの兄はあのラーヴァナだったのです。
傷ついた妹の姿と悔し涙にラーヴァナは怒り、ラーマへの復讐を誓います。
羅刹王はラーマの大切な者=妻シーターを誘拐し、羅刹族の本拠地ランカー島に監禁してしまったのです。
愛妻シーターの奪還を目指してラーマはランカー島へと軍を進めました。
ラーマはラーヴァナを倒すために生まれた存在ですから、いよいよ本来の役目を果たすときが来たということでしょう。
ラーマの仲間として有名なのはラクシュマナと猿の勇士ハヌマーンです。
特にハヌマーンはめざましい活躍でシーターの監禁場所を発見しました。
ラクシュマナが重傷を負ったときにも、一晩の内にヒマラヤまで飛び、薬草を取って来たので、ラクシュマナが回復したというエピソードもあります。
シーターの居場所を知ったラーマはランカー島に総攻撃をかけ、遂にラーヴァナを倒し、シーターを救い出したのです。
宿願を果たしたラーマはコーサラ国に凱旋し、王位に就いていた異母弟バラタから禅譲を受け、晴れて王となったのでした。
叙事詩『ラーマーヤナ』 まとめ
現在の言葉で表現すれば『ラーマーヤナ』はSFファンジーではないでしょうか。
多くの魔物や幻獣が登場し、主人公達が戦ったり協力し合うという冒険物語でもあると思います。
ヒーローのラーマ、ヒロインのシーター、サポート役のハヌマーン、熱血なラクシュマナなど、特撮などの典型的なキャラ造形がなされているようです。
そこが現在のインドでも根強い人気の理由なのでしょう。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。