カーリーの章で登場した女神ドゥルガー。
彼女もシヴァ神の妻の一人です。
パールヴァティより凶暴で勇猛ですが、カーリーほど残虐ではないといった中間点の妻と言って良いでしょう。
戦い好きな美女というイメージがあります。
虎もしくはライオンにまたがり、手には武器を持つ絶世の美女として描かれるドゥルガーはパールヴァティの化身の中でトップクラスの人気を集めています。
ドゥルガーとは
シヴァ神の妻であるパールヴァティの化身の一人でもあり、神々と敵対するアスラ族を滅ぼすために、神々が生み出した戦いの女神とも言われています。
パールヴァティの化身と言っても、カーリーのような残虐性は少なく、戦いを好む女神ではありますが、知性を感じるという点では同じく戦いの女神と呼ばれるギリシャ神話のアテナを連想させます。
ドゥルガーという名前は元々は、あるアスラ族の王の名前でした。
名を持たない彼女が、そのアスラ軍を撃退し、ドゥルガー王を殺害したときに、その名を自分のものにしたのです。
なにせ敵のアスラ王は戦車を数万台、象も数万頭、兵士は無限と言うぐらいの超大軍だったそうですが、彼女も勇猛な兵士を送り出したり、フルパワーで応戦し、遂に勝利を得たと言います。
そんな強敵の名前を自分の物にすることで、相手のパワーも自分の物にしてしまえるという考えだったのでしょう。
ドゥルガーという名前には【近づきがたい女神】という意味がありますが、確かに簡単には近づけないと言うより、近づきたくない相手のような気がします。
その昔はヴィンディヤ山周辺に住む人々に信仰されていた土着の女神だったのですが、インド神話に溶け込んでゆくと破壊神シヴァの妻という位置に収まりました。
ドゥルガーの誕生
ここでドゥルガーの誕生ついて紹介します。
彼女を称える聖典『デーヴィー・マーノートミヤ(女神の栄光という意味です)』にはドゥルガー誕生のエピソードが書いてあります。
神々と魔族アスラ族の戦いは熾烈で、さすがの神々も劣勢に立たされることが多くなりました。
その神々に頼られた破壊神シヴァ、維持神ヴィシュヌ、創造神ブラフマーの3神がそれぞれ光を放つと、その光の山の中からチャンディーという凶暴な女神が出現したと言います。
チャンディーとはドゥルガーの別名と言われています。
もう一つのエピソードも、やはり神々とアスラ族との戦いに関するものです。
マヒシャースラという王が率いるアスラ軍の猛攻に神々は圧倒されました。
何とか劣勢を回復しようと、自分達の中から出した光を一点に集めて、女神を誕生させたのです。
出現した美しい女神はアスラ族を打ち破る能力を持っており、デーヴァの神々から様々なアイテムを授けられます。
シヴァからはトリシューラ(三叉戟)、クリシュナからはチャクラム(円盤)、ヴァルナからは法螺貝、アグニからは槍、ヴァーユからは弓矢、インドラからは雷と鈴、ヤマからは死の杖、ヴィシュヴァカルマンからは斧をはじめとして様々な武器と鎧、さらにヴァーハナ(乗りもの)として虎(ライオンとも)を与えました。
アスラ族との戦いのため、しっかりと武装した戦いの女神に作り上げたのです。
水牛の姿をしたマヒシャースラ王はデーヴァの神々を脅かすほどの強敵でしたが、ドゥルガーそれ以上に強く、シヴァから授かったトリシューラ(三叉戟)でマヒシャースラを倒しました。
マヒシャースラを殺したことから【マヒシャースラマーディニ(マヒシャの殺害者)】という雄々しい異名も獲得し、死の女神ドゥルガーは神々の期待通り、見事にアスラ族を撃退したのです。
カーリーの出現
しかし、マヒシャースラは消えましたが、アスラ族との戦いはまだまだ続きました。
【どんな神にも殺されない】という力を得たシュンバとニシュンバというアスラ族の兄弟王がデーヴァの神々に戦いを挑みます。
不死身のアスラ族を打ち破る能力と様々な武器を与えられたドゥルガーは戦場であるヒマラヤに向かいます。
アスラ族の兄弟王のひとり兄のシュンバは、到着した美しい女神ドゥルガーを見ていきなりプロポーズします。
しかし、ドゥルガーは「一騎打ちで私に勝ったら結婚してあげる」と断ると、兄シュンバは怒って部下のドムラロチャナの軍隊を動かしてドゥルガーを捕まえようとしました。
しかし、ドムラロチャナはドゥルガーの返り討ちにあって軍隊は全滅してしまいます。
戦いの女神の面目躍如ですね。
シュンバは次に、チャンダとムンダを送り込みますが、ドゥルガーはこれも撃退します。
これ以後、チャンダとムンダを倒したので死の女神【チャームンダー】という名前で呼ばれるようになりました。
最後の敵はシュンバ、ニシュンバたちアスラ族の兄弟王で、アスラ族の大軍を率いているので今までのようにはいきません。
この時ドゥルガーは怒り、額から女神カーリーを出現させます。
カーリー~アスラを壊滅させラクタヴィージャを呑み込む殺戮の女神
パールヴァティの人格とドゥルガー信仰
一説にはパールヴァティが怒ってドゥルガーが出現し、ドゥルガーが怒ってカーリーが出現したとも言われており、現代風の解釈をすれば、パールヴァティは二重人格ならぬ三重人格だったとも思われるようです。
このようにドゥルガーには狂戦士のイメージ漂う女神と言われますが、別の優しい一面も持っていたようです。
叙事詩『マハーバーラタ』等には、海で難破した人を助けというエピソードもりますし、主人公ラーマ王子は戦いの勝利を祈ってドゥルガー女神を祀ったとも書いてあるのです。
単に戦いに強いだけの女戦士だったら現在までドゥルガーが信仰されることはなかったと思われます。
やはり、人間を救ってくれると尊崇されていたのではないでしょうか?
エンタメ世界のドゥルガー
知性もあり、敵には容赦なく戦う死の女神ドゥルガー。
ビジュアル的にもゲームにこれほどぴったりのキャラクターはいないのではと思います。
女神転生シリーズ
メガテンシリーズではペルソナや魔神転生でも登場し、常連の悪魔といえるでしょう。
魔神転生では死の女神にふさわしく鬼神族とされていますが、ペルソナではEMPRESS、つまり皇后に分類されているところがシヴァの妃ということを表しているようで面白いですね。
真・女神転生では地母神に分類されていました。
さて、女神転生での使い勝手でいうと、ゲーム中盤のアタッカーとして重宝されていましたね。
乱舞など攻撃系のスキル群を見てもアタッカーとして最適なことがわかります。
また、シヴァの妃ではありますが、死の女神と呼ばれた原典通り、呪殺系の魔法は無効化する能力がありました。
ただ、少し残念なのがメガテンシリーズでのドゥルガーはトリシューラ(三叉戟)を持っていないんですよ。
女神異聞録ペルソナでもトリシューラ(三叉戟)は見当たりませんね。
トリシューラ=三叉戟(さんさげき)とは、ギリシャ神話のポセイドンが持っているようないわゆる三つ又の鉾、トライデントのことです。
ドゥルガーはデーヴァの神々から様々な武器を授かっていますが、シヴァから授かったトリシューラ(三叉戟)という武器こそドゥルガーを象徴するのではないでしょうか。
ドゥルガー~トリシューラなど神々の武器を与えられた死の女神 まとめ
実のところインド神話最強ではないかと言われている女神ドゥルガー。
アスラ族を殲滅するなどかなり恐ろしい女神なのですが、あまり恐怖感を覚えないのは筆者だけではないと思います。
現在でも多くの信者がいて10月頃にドゥルガーを祝うお祭り“ドゥルガー・プージャー”がインドのあちこちで盛大に開かれるそうです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。