多くの妻をもっていたシヴァ神ですが、その中で一番有名なのがパールヴァティです。
その名前は【山の娘】を意味します。
金色の肌の美しく賢く穏やかな女神で、夫に深く深く愛されたと言います。
選ばれた破壊神の妻
もともとパールヴァティはインドとチベットの間にそそり立つヒマラヤ山脈を神格化したヒマラヤ神の娘とされています。
実は彼女とシヴァの結びつきは計画的なものでした。
最初の妻サティが自殺した後、悲しみのシヴァは苦行に打ち込んでいましたが、悪魔の一人ターラカという巨人が神々の世界に侵攻しようともくろんでいたのです。
このとき「ターラカを倒すのはシヴァの息子だけである」という予言があったので、神々は何とかしてシヴァに子どもを作らせようと考えました。
その時、シヴァの妻として白羽の矢が立ったのが、美貌と知性を兼ね備えたパールヴァティだったのです。
二人の子どももヒンドゥー教徒の中ではとても知名度の高い神々です。
象の頭を持つガネーシャは愛嬌者として人気がありますし、スカンダは神々の期待に応えてターラカを倒した勇者です。
パールヴァティーには【親切な女】を意味するウマーという名や、そのままのシヴァの神妃などの別名があります。
仏教名:烏摩妃
ヒンドゥー教はやがて仏教と結びつき、それぞれの神々が同一視されるようになりました。
パールヴァティは大自在天(シヴァ神)の妻烏摩妃とされました。
夫婦和合アルダーナリシュヴァラ
シヴァとパールヴァティの夫婦は絵画や彫像では寄り添った姿で表現されることが多いようです。
その中で一番極められた状態と言えるのが、陰陽結合の合体神“アルダーナリシュヴァラ”です。
右半身にシヴァ、左半身にパールヴァティを置き、二人で一人という融合させた像や絵画のことです。
陰と陽、男性原理と女性原理が融合することで、非常に強い力を発揮すると言われています。
パールヴァティ=サティ
破壊神シヴァの妻とされる女神は数多くいますが、どの女神も実は最初の妻サティの生まれ変わりと言われています。
シヴァとサティはとても仲睦まじい夫婦でしたが、サティの父親は結婚の時からシヴァが大嫌で、事ある毎に侮辱したり、陰口を叩いていたのです。
夫に済まないという思いに苦しみ、父親を恥ずかしく感じたサティは遂に焼身自殺してしまいました。
しかし、サティの遺体が世界中にばらまかれたため、その場所に生まれ変わりの女神が誕生することになったのです。
その一人が今回のヒロイン、パールヴァティです。
4世紀から5世紀に活躍したと言われる古代インドの有名な詩人カーリダーサは、パールヴァティを“その目は蓮の花、その眉は愛の神が持つ弓。歩く姿はまるで白鳥のように優美”と、とても美しい女神として称えたそうです。
美しく賢い女神パールヴァティとシヴァ神の結婚は神々の計画によって成立したものでしたが、詳しく紹介しましょう。
カーマの矢
悪魔ターラカを倒し、神々の世界を守るためには【シヴァの息子】がどうしても必要とわかった神々がシヴァの息子を産む妻としてパールヴァティを選んだということは上述しました。
さて、愛妻サティの無残な死に打ちのめされたシヴァは一心不乱に苦行に集中し、他のことには見向きもしませんでした。
パールヴァティはシヴァに声をかけて誘ったのですが、相手は乗ってきません。
絶世の美女に誘われても無視するシヴァの精神力も凄いものですね。
と言ってもこのままではシヴァの息子は誕生しません。
困った神々は愛と情欲の神カーマを呼びだすと、その魔法の矢を使い、シヴァに愛欲の情を掻き立てようと考えます。
このカーマというのはギリシャ神話のエロスのような神で、彼の矢に射抜かれてしまえば、どんな強情な神でも愛欲に目覚めてしまうと言われていたのです。
ところが、矢を射かけられたシヴァは恋に落ちるどころか、せっかくの苦行を邪魔されたと激怒し、第三の眼が開くとカーマを焼き殺してしまったのでした。
シヴァへの強い愛のため、苦行に耐える
神々のもくろみは失敗し、カーマの矢でも頑ななシヴァの心を開くことができませんでした。
しかしパールヴァティは諦めませんでした。彼女がサティの生まれ変わりだとしたら、神々の指示がなくても、シヴァを愛していたでしょうから、これからは彼女自身の行動ということになります。
パールヴァティはシヴァと同じような厳しい苦行に耐えることで彼への気持ちを表そうとしました。
山に籠もって苦行を始めたのです。
その姿を見たシヴァ。
女性が信じられなくなっていたのでしょうか、パールヴァティの自分に対する気持ちを試すことにしました。
ここら辺、「気持ちを試すなんて」とちょっとシヴァ神が減点される部分でもありますね。
シヴァがパールヴァティを試した方法は様々ありますが、まず一つは、シヴァが別の男に変装しパールヴァティに近づくと、わざとシヴァの悪口を並べ立てたという説があります。
恋する男の悪口を聞いたパールヴァティは当然ながら怒ります。
それを喜んだシヴァが本当の姿を現して、彼女の気持ちを受け入れ、結ばれたということです。
二つ目はバラモンと呼ばれる僧侶階級の老人に化けたシヴァが、彼女の目の前で川で溺れるふりをしたという話です。
パールヴァティは「自分はシヴァ以外の男性には絶対触れない」という誓いを立てていましたから、溺れている老人を助けることができなかったのです。
しかし、このまま手を拱いていては、老人が流されてしまいます。
優しいパールヴァティは悩んだ末に、誓いを捨て老人を助けようと手を伸ばしました。
その誠意を知ったシヴァは、自分の正体を明かしたと言います。
めでたくシヴァの試験に合格したパールヴァティ。
思いが叶ってシヴァのもとに嫁ぎました。
やがて彼女が生んだ息子=戦の神スカンダが、預言のとおり巨人ターラカを殺したのです。
神々の計画は成功したというわけですね。
おしどり夫婦シヴァ&パールヴァティ
自分の意志ではなく、神々のもくろみで結ばれたような二人でしたが、結婚後は回りが呆れかえるほど、ラブラブ、アツアツの仲良し夫婦になったそうです。
有名な文献『パーガヴァタ・プラーナ』には、【時にパールヴァティは裸でシヴァの膝の上に乗る】こともあったと書いてあるそうです。
ラブラブな二人の証拠ですが、部外者が見たらびっくりしますよね。
実は二人がそんな状態の時に、やって来た者がいたのです。
裸だったパールヴァティは当然のことながら、非常に驚き恥ずかしがって家の奥に逃げ込んでしまいました。
妻の様子にシヴァは「今後は無断で我が家に入る者がいたら、その者は女にしてしまおう」と言ってパールヴァティを慰めたそうです。
世界を隅々まで照らす第3の眼
この夫婦のバカップルぶりを伝えるエピソードは多く存在します。
例えばシヴァの特徴でもある額の真ん中の【第3の眼】ですが、この目が生まれた原因にもパールヴァティが関係していたそうです。
プラーナ文献では、あまりにも苦行に打ち込み続けるので、寂しく思ったパールヴァティはそっと後ろから忍び寄って、シヴァの目を手の平で覆い隠してしまったのです。
恋人同士が「だーれだ?」とふざけるパターンですね。
ところがシヴァは普通の人間ではなく神でしたから、影響が甚大だったのです。
シヴァの目を塞いだため、太陽が消えてしまい、世界は暗闇に沈んでしまったのでした。
人々が闇の世界に怯えた時、シヴァの額に第3の眼が開いたのです。
その目は世界を隅々まで照らしたそうです。
寄り添った姿で表現される二神
前述したアルダーナリシュヴァラは二人が一人に融合した姿ですが、別々であっても、二人はぴったりと寄り添った姿で絵や彫像に表現されています。
ラブラブの証拠のようにパールヴァティがシヴァの膝の上に乗った姿や、パールヴァティの乳房をシヴァの手が包むという姿もあります。
抱擁している二人の構図は、下手をすれば江戸時代の春画と勘違いされそうですが、夫婦仲の良さがわかるものとして人気があるそうです。
エンタメ世界のパールヴァティ
インド神話を元にしたゲームには破壊神シヴァ神はもちろん、その妻であり、協力者であるパールヴァティは欠かせないキャラクターとなっています。
女神転生シリーズ(パールヴァティ)
『真・女神転生Ⅱ』に初登場したパールヴァティは、原典のヒマラヤ山の娘にちなんでか、大地母神種族として活躍しました。
桃色の髪に蓮華を手にした美女の姿です。
女神転生シリーズ(アルダー)
女神転生シリーズにはシヴァやパールヴァティだけでなく、もうひとつの姿“アルダーナリシュヴァラ”としても登場します。
登場した当時は「アルダーってなんだか気持ち悪い悪魔だな」と思っていた私も“アルダーナリシュヴァラ”を知ることでシヴァとパールヴァティの合体した姿だということがわかりました。
向かって左半身がシヴァ。
そして右半身がパールヴァティです。
こんなところでも調べつくされた女神転生というゲーム、そして金子一馬氏の素晴らしいキャラクターは流石だな!と思ってしまいますね。
追記:喜多川阿弥
パズドラ
パールという名前で登場するパールヴァティは虎に乗り黄金の剣を手にした少女の姿で、青く長い髪に蓮の花を飾っています。
かわいらしい姿ですが、なかなか能力は高いようですよ。
分岐は【転生パール】【火パール】【水パール】の3人ですが、汎用性の高い転生パールがオススメです。
モンスト
こちらのパールヴァティも愛らしい少女です。
緑の髪に花飾り、大きな瞳の美少女キャラです。
【神化】【進化】二人のパールヴァティが選べますが、高難易度クエストで使える【神化】がオススメです。
漫画 『3×3 EYES』
主人公である3つの眼を持つ妖怪パイ。
彼女の本名はパールヴァティ-4世。
300年前鬼眼王(シヴァ)によって皆殺しにされてしまった一族の生き残りです。
彼女と同じく妖怪になってしまった少年や仲間と共に人間になるため様々な冒険と戦いを繰り広げるという人気漫画でした。
原作人気はもちろん、OVAやドラマCDなどでも大勢のファンに支持されました。
現在続編『鬼籍の闇の契約者』が連載されています。
パールヴァティ|転生したサティとアルダーナリシュヴァラ まとめ
自由恋愛ではなく、引かれたレールに乗ってシヴァとパールヴァティは結ばれたことになっています。
しかし、結ばれた後は本当に仲の良い夫婦になりました。
だからこそ、現在のインドでも多くの人に慕われるカップルなのではないかと思うのです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。