北欧神話はギリシャ神話やローマ神話と比べると知名度が低いようです。
ゼウス(ジュピター)やアポロンなどの名前は知っていても、さて北欧神話の神って誰?
という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回はちょっとマイナーな空気感漂う北欧神話の神々について紹介したいと思います。
北欧神話ってそもそもどんなお話?
色々と調べた結果筆者の第一印象は「暗い!」でした。
ギリシャやイタリアのような温暖で太陽の光降り注ぐ地中海性気候とは全く違う気候。
1年の半分を雪に閉ざされる北極に近い場所…
そりゃあ、ゼウスのように「お気楽で女好きで、好き勝手なことをしつつも何となく許される」陽性の神になるわけはないですよね。
ただし、北欧神話が【暗い】のには理由があります。
おいおい説明しますが、実は北欧神話とは【終わりが設定されている】話なのです。
その【終わり】とは【ラグナログ】日本語では【神々の黄昏】と呼ばれるもので、神々の死を意味しています。
つまり、北欧神話とはオーディン達神が死ぬまでの物語のことなのです。
それを前提として、今回はオーディンを紹介したいと思います。
最高神オーディン
種族: アース神族
地域: ヴァルハラ宮殿(アースガルズ)
別名: 戦争の神、死の神、知識の神など
巨人族と対立したアース神族に属しています。
その統治地域はアースガルドと呼ばれ、オーディンが住む宮殿はヴァルハラ宮殿と呼ばれています。
オーディンは北欧神話の最高神とされていますが、様々な名を持ち【戦争の神】【死の神】【知識の神】などとも呼ばれます。
さて、オーディンはギリシャ神話の最高神ゼウスと同じように多彩な性格を持っている神ですが、原初の神とされるブーリの息子であるボルと、女巨人ベストラの間に生まれた長男とされています。
ここで疑問が生じませんか?
最高神であり、世界を作ったとも言われるオーディンなのに、両親がいる?
数々の神話につきものの「それは言わない約束」ですね。
ギリシャ神話では最初に地(ガイア)ができ、天が生まれたことになっていますが、北欧神話では真っ暗な世界に巨人と牛がいたことになっています。
この巨人が子供(ユミル)を作り、牛が舐めた氷から巨人ブーリが生まれました。
ユミルは一人で女の巨人(ベストラ)を作り、彼女とブーリとの間にオーディンを初めとする3兄弟が生まれたのです。
最高神には光と影がつきものですが、オーディンも手を汚しています。
実は祖父に当たるユミルを殺したのです。
オーディンはその死体から天地を創造したと言われています。
自分が倒したティターン族を地の底に追いやったゼウスはそれでも色々と苦しめられました。
オーディンも巨人族と戦い勝利します。
しかし、彼は巨人族を生かしておいたのです。
それが後々災いとなるのですが、それを知っていてあえて野放しにしていたとも考えられます。
オーディンは知的好奇心がとても旺盛で、戦いも好きな神でした。
好奇心が高じすぎて、知識への渇望も強く、ほとんど自殺行為の上で最高の知識を得るというきわどいこともやっています。
グングニル
有名な武器として【グングニル】があります。
小人族のドヴァリン兄弟が作った槍で、投げると必ず敵に命中し(百発百中)勝手にオーディンの元へ戻ってくるので、大変便利な武器ですね。
フギンとムニン
ペットではありませんが、【フギン】【ムニン】という2羽のカラスを両肩に乗せています。
【フギン=思考】【ムニン=記憶】を意味し、朝早くにオーディンの元から飛び立っていき、朝食の時に戻って来ては世界中の情報を報告すると鳥たちで、要するにオーディンの監視カメラというわけでしょうか。
スレイプニル
戦争の神でもあるオーディンは馬に乗っています。
名前は【スレイプニル】で【滑走するもの】という意味です。
なぜか8本の脚を持つ、灰色の毛並みの名馬で、海も空も駆け巡るそうです。
ペガサスみたいですね。
ゲリとフレキ
おつきの者としてオオカミが2匹付いています。
ゲリとフレキというあまり綺麗な名前ではありませんが、オーディンはぶどう酒しか飲まないそうなので(偏食?)彼らが他の食事を食べてあげているそうです。
オーディンの所業
前述したように、オーディンは最初の神ブーリの孫にあたります。
天地を造った神でもあり《神々の父》と呼ばれる北欧神話の最高神です。
しかし、彼が天地を造る物語はとても血生臭いものでした。
巨人族であり、祖父に当たるユミルを殺したことは既に説明しましたが、その死体が天地を造ったのです。
流れ出る血は海になり、肉体は大地となり、頭蓋骨は空になったと言われています。
このあたり、自分の父親を追い払ったゼウスと似ていますが、何となく陰惨な雰囲気が漂いますよね。
オーディンは慈悲深い神ではありませんでした。
むしろ人間的と言うか、己の欲望には忠実で、その目的達成のためには手段を選ばず、かなり卑怯なこともしています。
有名なオーディンの絵は【つば広帽子を目深にかぶり、右眼を失った老人の姿】ですが、右目を失ったわけは、知恵を得るためにミーミルの泉の水を飲もうとしたのですが、その代償として右目をえぐり出し泉に沈めたためです。
またファンタジー小説によく登場するルーン文字(栗本薫の『グイン・サーガ』シリーズにも登場しましたね)を得るために、世界樹=ユグドラシルに逆さ吊りになり、9夜9日過ごしたそうです。
しかも、愛用の槍グングニルで自らを傷つけ、血まみれになりながらだったと言いますから、偏執狂と言うべきか、頑固と言うべきか…謎な神です。
好奇心が強いオーディンは詩の才能も欲しがりました。
魔法の蜜酒をのべば詩才が得られると知り、持ち主である巨人スットゥングから奪おうと、その弟バウギを手なづけ手伝いをさせたのです。
そして蜜酒を守っていたスットゥングの娘グンレズを誘惑して望み通りまんまと奪い取ったのでした。
ラグナロクへの備えが世界に混乱を招く
オーディンがほとんど意地のように知識を求めた理由-それはいずれ来る【ラグナログ】に備えるためでした。
自分たちが死ぬ最終戦争。
その兵士として選んだのが人間の戦死者の魂だったのです。
戦死した人間は魂の選定を受け、オーディンに戦士として認められると【エインヘリヤル=優れた戦死者の魂】としてオーディンのヴァルハラ宮殿に招かれると言います。
ここで気になるのは【エインヘリヤル】の選ばれ方です。
戦死したからと言って誰もが選ばれるわけではなかったのです。
オーディンは目をつけた勇士が勝てるように戦争の勝敗を決定したり、エインヘリヤルとしてヴァルハラに連れてきたい勇士を殺したりしたのでした。
ここら辺は、トロイア戦争を彷彿させますね。
ラグナログへの準備として戦死者の魂を集めたオーディンですが、死者を集めると言うことは戦争を増やすと言うことですから、結果として人間たちの戦争はエスカレートしました。
それがやがて終末戦争を招くことになったのは皮肉ですね。
ラグナログで斃れる
最終戦争がついに始まりました。
アース神族の先陣を切ったオーディンは金の鎧と兜に身を包み、グングニルを提げ、愛馬スレイプニルに騎乗したなんとも勇壮な姿でした。
愛用の槍グングニルは、投げれば百発百中で、最強の武器とも言えました。
しかし、オーディンは不死身ではありませんでした。
アース族の味方になったり、敵対していたロキの息子、魔狼のフェンリルに飲みこまれ、死んでしまったのです。
これが【神の死=神々の黄昏】と言われた出来事でした。
最高神でありながら、どこやら人間的、不完全なオーディンは予定されていた運命に従い、死んでいったのでした。
エンタメ作品のオーディン
神としては性格的に弱さの感じられるオーディンですが、こと戦争となると強力なキャラなので、エンターテインメント作品では人知を超えた力が注目されるようです。
銀河英雄伝説
筆者はオーディンという名前を聞いて田中芳樹の長編小説『銀河英雄伝説』を思い出しました。
銀河帝国の首都の名前がオーディンだったからです。
この他にも帝国軍のイゼルローン要塞の主砲の名前として「トールハンマー」が使われていたり、北欧神話の影響が顕著に見える作品です。
ゲームの世界に登場するオーディンは強すぎるパワーのためか、プレイヤーが操作するより主人公の補佐役に収まることが多いように感じられます。
ファイナルファンタジー
日本のゲーム界でオーディンが知名度を高めたのは『ファイナルファンタジー』(以降FFとする)シリーズのヒットのおかげでしょう。
Ⅲ以降はほとんどの作品で主人公の協力者となったオーディンは敵を一撃で斬り伏せるという強いキャラクターです。
女神転生
またヒット作品である『女神転生』『ペルソナ』シリーズでも、高パラメータの強力な補佐キャラクターに設定されて活躍しています。
ヴァルキリープロファイル
ただしオーディンは圧倒的な力を持っているので、主役側ではなく、敵キャラになるケースもあります。
『ヴァルキリープロファイル』シリーズでは戦闘力が高く、策略家の面も持つ強敵。頭も良く戦士としての能力も高いのですから、かなりの難敵です。
ちなみに【ヴァルキリー】というのも北欧神話に登場する神の一人です。
そう言えば、昔『超時空要塞・マクロス』で主人公一条ヒカルが乗っていた戦闘機がヴァルキリーという名前でしたね。
追記:喜多川阿弥
オーディン~スレイプニルに跨りグングニルを振るう神々の父~ まとめ
人間に世界をゆだね、自分たちの世界(オリンポス)で暮らすゼウス達と違い、オーディン達北欧神話の神々は自分たちの死によって人間の世界が始まることを知っていました。
自分たちの死を知りながら、終末に向かって行動できる存在-人間と神との違いはそこにあるのかも知れませんね。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。