お正月につきものの七福神。
その中に小槌を持ち、肩に米袋を担いだなんとも福々しいおじさん姿の神がいるのはご存じですね。
それがお年寄りは親しみを込めて「大黒様」と呼ぶ大黒天なのです。
大黒天とは?
元々はインドのヒンドゥー教の最高神シヴァ神の化身とされ、サンスクリット語では【マハーカーラ】と言う神を指します。
日本では漢字を当てて【摩訶迦羅】と書かれます。
では様々な宗教で大黒天がどんな変身をしたのか、調べてみましょう。
1.密教
ヒンディー教のマハーカーラが元になってできた密教の神です。
初期の大黒天は胎蔵界曼荼羅の最外院北方に属し、自在天(シヴァ神)の化身として、シヴァと同様に四本の手それぞれに三叉戟、棒、輪、索(綱、ロープ)を持った像として描かれました。
その後、ヒンドゥー教の三神一体(ヒンディー教の神、ブラフマー、シヴァ、ヴィシュヌの3神が同一神という考え方)に対応し、三面六臂(興福寺の阿修羅像もそうですね)で怒りの黒色形相で描かれるようになったのです。
日本においては伝教大師最澄が毘沙門天・弁才天と合体した三面大黒を比叡山延暦寺の台所の守護神として祀ったのが始まりと言われています。
モンストの大黒天とメガテンのマハカーラ
メガテンシリーズではヒンドゥーの神マハカーラとして大黒天が登場しています。
このメガテンシリーズでは三面六臂で描かれています。
実際のヒンドゥー教のマーハカーラの図を見てみると、背景に炎があることが多いですが、なぜか怒りの形相からか、ジオダインなどを使う雷属性のイメージが強いキャラでした。
モンストの大黒天もやはり電撃を使う雷属性のイメージですが、モンストでは雷という属性がない為、光属性として登場しています。
また、モンストでは大黒様のお面のようなモンスターを倒すと怒りモードになって強烈な攻撃で即死するという恐ろしい面もマハカーラを彷彿させます。
追記:喜多川阿弥
2.仏教
密教の大黒天が元になってできた仏教の天部(菩薩と人間の間にいて、人間に仏教を説く者)に属する神です。
チベット仏教では多種多彩な姿で現され、一面二臂、一面四臂、一面六臂、三面二臂、三面四臂、三面六臂など様々な姿があります。
チベット・モンゴル・ネパールなど東西交易の要衝地では、貿易商から財神として信仰され、チベットでは福の神として民間でも信仰する人が多く出るようになりました。
3.神道
神道でもやはり密教の大黒天が元になっています。
スサノオの息子で国譲りの神として知られる大国主命と神仏習合してできた神道の神で、前述したように七福神の一柱としても有名です。
その姿は頭巾をかぶり、右手に小槌、左手に袋を持ち米俵の上に乗っているのが基本的なスタイルで、福徳を与えてくれる神として庶民の間でも親しまれて来ました。
また同音のためか【大黒→大国】と混同する人も多く、大国主命と同一化して信仰する風習もあるそうです。
大黒天の持ち物(アイテム)
その1.打ち出の小槌
一寸法師でも有名な【欲しいものの名前や、願い事を唱えて振ると、その願いどおりの物が出現したり、願いが叶う】という宝物です。
平安時代末期の仏教書『宝物集』によると【打ち出の小槌を振ると宝物だけではなく生き物(牛や馬)食物や衣服など意のままに全て出現させる事ができる】そうですが、【小槌によって出現した物は、また全て鐘の音を聞くと消え失せてしまう物であり、結局はこの世に実在するものではない】ということです。
いかにも【無情】を説く仏教書らしい解説だなあと筆者は思うのですが、いかがですか?
『一寸法師』は室町時代の『御伽草子』の中のエピソードの一つとして載っていますが、彼は鬼を退治し、その鬼が持っていた打ち出の小槌をお姫様に振ってもらって、願いの通り身体を大きくしてもらっています。
ということは、元々は打ち出の小槌は鬼が所有していたものらしいのです。
しかし、その打ち出の小槌がいつから大黒天のアイテムになったのかは、定かではありません。
ひょっとすると大黒=大国からの発想で、国譲りに絡んでそうなったのかも知れませんね。
その2.袋
大黒天は大きな袋を担いでいますが、その中には七宝が入っていると言われています。
七宝とは【寿命、人望、清麗、威光、愛嬌、大量】と言われ(七宝なのに六宝じゃないかというツッコミはなしでお願いします。理由はわかりませんでした)人間に必要な精神的な宝と思われます。
袋を背負っているのはなぜかと言うと、大国主命が関係してくるのです。
彼が日本神話に初めて登場した【因幡の白兎】のエピソードでは大勢の兄たちに命令され、山ほどの荷物を入れた袋を背負わされていました。
大国主命と大黒天が混同されたため、大黒天自身が袋を担いでいるようになったようです。
その3.ネズミ
ネズミは大黒天のお使いとされています。
米俵に乗っている姿で描かれることが多い大黒天。
筆者は小さい頃「米を粗末にするな」と言われていたので、食べ物に足をかけるのは「え?罰があたるんじゃ?」と思うのですが、大黒天は豊穣の神ですから、自分のものに乗っているわけで、それは良いんでしょうね。
で、ネズミです。
米を食べるネズミがなんで大黒天のお使いなのかも疑問ですが、それにもまた大国主命との混同が関わってくるのです。
大国主命は父であるスサノオの計略によって焼き殺されそうになりました。
これにはスサノオの娘スセリ姫に大国主命が求婚したのを嫌ったためと言われています。
(大国主もスセリ姫もスサノオの子どもですから兄妹婚になるわけですが、古代のことですから余り気にならないようですね)
絶体絶命の大国主を火から救ったのがネズミでした。
この逸話の主人公大国と大黒が同一視されて、ネズミが大黒天のお使いになったと言われています。
大黒天~打ち出の小槌をもつシヴァ神の化身と三面六臂の姿~ まとめ
いろいろとエピソードを紹介しましたが、大国主命と混同されたためのものが多いですね。
元々のヒンディー教ではそれなりに活躍したのでしょうが、日本神話と結びついたために、飲み込まれてしまったような気がします。
でも、浜辺で泣いている白兎を助けてあげたのは、美形の青年ではなく福々しいおじいさんだった-というのもほのぼのしませんか?
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。