クリシュナはインド神話きってのイケメンと呼ばれるほど多くの絵でもとびきりの美形に描かれています。
そして彼もまたヴィシュヌの化身の一人です。
インドでのクリシュナ人気はすごいもので、インド人の友達ができればその中に必ず「クリシュナ」という名前の人がいるといわれるほどです。
現代インドでも信仰する人が多い人気の神様を今回は紹介します。
クリシュナとは?
ヒンドゥー教徒が一番親近感を覚える神と言われています。
古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』では英雄アルジュナの導き手となるおいしいポジションを確保した最高神ヴィシュヌの8番目の化身です。
ヴィシュヌの化身ということは神族ですが、人間の姿で現れて神通力のような魔力を持つことからモンスペディアでは魔族とさせていただきました。
ちょっと前のアメリカではモテる男性の条件は【tall,dark,handsome】と言われていたそうですが、クリシュナの容貌はまさにピッタリ当てはまりました。
つまり、浅黒い肌の色に非常にハンサムだったのです。
また「私だけを信じなさい」と強要するのではなく、バクティ思想(親愛)という、形式や身分に囚われることなく、ただ神を信じ愛するという至って純粋、簡単な思想を説いたとされています。
このわかりやすさ、取っつきやすさもあって、クリシュナが民衆人気ナンバーワンと言えるほどのアイドルもしくはスーパースターであると言っても過言ではありません。
ヴァジュラナーバ
クリシュナは【ヴァジュラナーバ】という名前の円盤の形をした武器を持っているそうです。
本体であるヴィシュヌが持つスダルシャナ(太陽光で作られた輪)と同じものと考えられますが、ヴァジュラナーバは火の神アグニから授かったもので、確実に的に当たるチャクラム(外側に刃の付いたドーナツ型の輪)とされています。
ヴァジュラナーバは優れた武器でした。
数々の戦いでクリシュナはこれを駆使して大活躍しました。
この武器は相手の生命力を吸い取る力も持ち、自由自在にその大きさや重さを変えることもできたと言われます。全くもって、便利で優秀な武器ですね。
クリシュナの誕生
ではクリシュナの生涯を紹介しましょう。
『マハーバーラタ』などに描かれているクリシュナの一生はたくさんのエピソードに彩られています。
その中から、誕生のエピソードを紹介します。
悪王カンサは「ヤーダヴァ族のヴァースデーヴァと妻デーヴァキーの間の8番目の子どもにおまえは殺されるだろう」という自分の命にかかわる予言を受けました。
悪王という形容詞が頭に付くぐらいですから、相当非道な王だったのでしょう。
そういうのに限って、命汚いというのはいずこも同じですね。
命を惜しんだカンサは夫婦を監禁し、産まれた子どもを次々に殺してしまいました。
子どもを産ませないよう別々に監禁すればいいのに…というツッコミは無しですか。
さて、運命の8番目の子どもが産まれようとした時、ヴィシュヌが出現し、その子どもをカンサにバレないようにすり替えなさいと命じたのでした。
多分、別の子どもにすり替えたのでしょうね。
ギリシャ神話のゼウスのように石にすり替えたら、すぐバレてしまいますし。
ヴァースデーヴァ夫婦は自分の子どもを無事に逃がしました。
カンサは、予言の子がまんまと逃げたと知って、女悪魔プータナーを追っ手に放ったのです。
8番目のこども=クリシュナは牛飼いの村の牧人ナンダの妻ヤショーダーの子にすり替わっていました。
さすが悪魔、プータナーはクリシュナの正体に気づき、毒の乳を吸わせようとします。
しかしクリシュナはヴィシュヌの化身、神通力を持っていました。
乳に吸い付くと、毒もろともプータナーの命も吸い出すクリシュナ。
プータナーは死んでしまいました。
プータナー以降追っ手は現れなかったようで(それでいいのか、カンサ)クリシュナは牛飼いの村ですくすく育ち、養母ヤショーダーが作ったバターを盗み食いするなど、子どもらしいいたずらもしていたと言われています。
成長したクリシュナは、沐浴中の牧女たちの服を隠して困らせるといういたずらもしていたようですが、彼女たちは美形のクリシュナに夢中で、困らせられても逆に喜んだようです。
これがハンサムでない男がすると犯罪なんでしょうが、美形なら許されるということでしょうか。
悪王カンサの格闘技大会
青年になったクリシュナは大衆の面前で、悪王カンサを倒しました。
庶民であるはずのクリシュナの名声が広がるに連れて、カンサは不快に感じたことでしょう。
やがてクリシュナこそ殺しそこなった幼児、自分を殺す予言の幼児の成長した姿であることを悟ったカンサは、今度こそ彼を殺そうと格闘技大会におびき出します。
そして悪魔や巨人と戦わせました。
しかし、クリシュナはこの刺客たちをあっさりと倒したあげく、カンサを玉座から競技場に引きずり落とします。
そして悪王カンサをいとも簡単に踏み殺してしまいました。
自分を殺す人間を幼子の時に始末しようとして失敗し、結局殺されてしまうというエピソードはギリシャ神話(ペルセウスやオイディプスなど)にも多くありますが、予言は成就したということですね。
インドラの大雨
雷神インドラも人々の崇拝を集める神でした。
が、クリシュナはそのお祭の邪魔をしたことがありました。
すると怒ったインドラは大雨を降らせたのです。
クリシュナがヴィシュヌの化身とわかった上でのインドラの行動なのでしょう。
さて、大雨に難渋している人々を見たクリシュナはゴーヴァルダナ山を持ち上げると、その下に多くの人々や家畜を避難させ大雨から守りました。
要するに自分のしたことの後始末をしたというわけですね。
顔を潰された形でしたが、インドラは怒らず、逆にクリシュナを畏敬したと言われます。
「やるな、若造」と言ったところでしょうか。
クリシュナは実在したのか
興味深いのは、クリシュナは実在した宗教的指導者を神格化した存在ではないかという説があるのです。
なぜかと言うと、それ以前存在していた神々よりもクリシュナの力が優れているという設定(人々に加護を与える)だったり、クリシュナを最高神とみなすようなエピソードが多いのはなぜかと考えると、ヒンドゥー教の指導者達が新興宗教の勢いを自分たち側に取り入れようとしたためではないかと分析されているのです。
アルジュナ王子への名言
中年以降のクリシュナですが『マハーバーラタ』ではクシェートラの決戦で大切な役目を果たしています。
それにしても【中年】という言葉は意外な感じがしますが、神の化身で神通力があっても、体は人間ですから歳は取るんですね。
クシェートラの戦いというのは、別名【マハーバーラタのラグナログ】とも呼ばれるカウラヴァとパーンダヴァ族との最終決戦です。
クリシュナはパーンダヴァ側の味方となり、その息子の一人であるアルジュナの精神的支柱となり、彼に勝利をもたらしたと言われます。
クリシュナがアルジュナに与えた助言の基本となったのが、クリシュナ信仰の教典とされる『マハーバーラタ』の中の『バガヴァッド・ギーター』です。
『バガヴァッド・ギーター』は【神の歌】という意味を表し、その中ではこう記されています。
一族同士での争いに悩み、この戦いが良い結果になるはずがない
これは、苦悩するアルジュナに対するクリシュナの回答が詳細に記載されていると言われます。
とても哲学的で意味深な言葉が記載されているのですが、わかりやすくかみ砕くと【今の自分の立場から逃げたり、その行為に結果を求めようとすることは間違っている】というのがクリシュナの意見とされています。
その言葉がアルジュナを励ましたと言われます。
クリシュナの名言を紹介しますね。
人は誰もが身分や仕事などの社会的な地位を持っている。
言うなれば義務を負っている。
その義務を果たしながら、最高神に捧げる思いで行動し、どんな結果であっても、それに対する執着から離れて、全てのものに敵意を感じないこと。
その思いこそ心を平穏にし、永遠の境地に達するために必要なのだ。
ちょっとした人生訓のような感じの言葉ですが、わかりやすいと思います。
『マハーバーラタ』とは元来古代インドで勢力を誇っていたクシャトリヤ(王侯・武人階級)に向けたものだったようですが、多くの人がこの書を好んで受け入れました。
身分を超えた人間のあり方と心の救済がわかりやすく書いてあったためでしょう。
この書を好んだのは古代の人間だけではありません。
近世以降、西洋の知識人でも愛読する人は多く、有名なところでは原爆の父と呼ばれるロバート・オッペンハイマーなどもその一人と言われています。
クリシュナの最期
そのイケメンぶりで女性のみならず多くの国民から愛されたクリシュナ。
そして時代も国をも超える数々のすばらしい名言を残したクリシュナ。
しかしその最晩年は意外とショボく、運が悪いことに、鹿と間違われて、唯一の弱点であるかかとを猟師に射られて落命したのでした。
森で狩りでもしていたのかと思いますが、唯一の弱点を持っていたというのがギリシャ神話に登場するアキレウスを連想させますね。
勇敢な戦士には何かしらの弱点が付きものなのでしょう。
それにしても、多くの人から敬愛された偉大な指導者クリシュナにしては、なんともあっけない最期でした。
エンタメ世界のクリシュナ
イケメンで、武術に優れ、アルジュナへの助言でわかるように知性もあるクリシュナ。
エンタメ要員としてはもってこいのキャラですよね。
女神転生シリーズ
FC版『女神転生』に魔神として初登場しました。
鎧と剣と盾で武装したキャラデザインは原典の戦うクリシュナのイメージが強いようです。
この作品には、敵である悪魔を自分の味方にできる【仲魔システム】があるのですが、クリシュナは仲魔にできる悪魔の中では最高レベルでHP・MP・全能力値も最高の設定です。
ボス悪魔以外では名実ともに最強のキャラとなっています。
確かに原典でも強力ではありますよね。
続編の『女神転生Ⅱ』以降はクリシュナの本体であるヴィシュヌが登場したので『真・女神転生if…』では主人公のパートナーである男子高生チャーリー専用ガーディアンとして活躍しますが、それ以外ではほとんど登場しなくなりました。
パズドラ
キャラデザインが【やんちゃな子ども】といった感じで、エネルギーは感じますが、筆者としてはイケメンには10年早いかなと思います。
灼天の勇将神と呼ばれているようです。
モンスト
こちらのクリシュナは横笛を吹く女性のような妖艶さの漂うキャラデザインです。
と思ったら、胸があるんですね。
女性設定のようですが、インド神話の神々は両性具有の姿も多いので、クリシュナが女性形になるのも不思議ではないのかも知れません。
追記:喜多川阿弥
クリシュナ~インド神話きってのイケメンと英雄アルジュナ~ まとめ
頭も良く、武術に優れ、なおかつ美形という少女マンガの王子様のようなクリシュナ神。
その最期にはガッカリ感が漂いますが、王子様が100歳まで生きて、白髪の老人姿で天寿全うというのも残念な気がしますね。
かかとを射られての事故死については、ヴィシュヌも「クリシュナはこのまま消えてしまった方がヒーローとして人々の心に生き続けるだろう」と思って、敢えて矢を避けなかったのかも知れないと推測します。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。