世界のあちこちに伝わる神話では神は歳を取らないし、不老不死とされています。
しかし、北欧神話は違います。
最初から滅びが予言されていた神話でした。
そして神々も歳を取ります。
歳を取らず、若いままでいるためには【若返りの林檎】が必要でした。
その林檎をもぎ取ることができるのはただ一人の女神イズン(イズーナ)だけだったのです。
神々に黄金の林檎を与える女神
種族: アース神族
地域: アースガルズ
別名: 若さの女神、イズーナなど
イズンは別名として【若さの女神】と呼ばれています。
またイズーナという名前で呼ばれることもありました。
イズンはアースガルドの神々に【若返りの林檎】を与える役目を持っていました。
この林檎を食べることで、オーディン達は歳を取らず、いつまでも若さを保ち続けることができたのです。
この林檎の世話はイズンだけが担っていたので、他の神々は触ってはいけないことになっていました。
彼女自身は美しい容姿に清らかな心の女神で、皆に愛されていたと言います。
彼女はオーディンの息子、詩神のブラギと結婚していました。
若返りの林檎(黄金の林檎)
イズンに深い関わりのあるアイテムは何と言っても【若返りの林檎】です。
アースガルドの神々は歳を取らないで若いままでいるために、定期的にこの林檎を食べていました。
アース神族にとっては【第1の宝物】と形容するほどの至宝だったのです。
この林檎はイズンにしか扱うことができません。
たとえ最高神オーディンであっても、触れることができないのです。
イズンは毎朝林檎を収穫するとかごに入れておきます。
神々はそれをもらって口にしていたのでした。
神々の老い
かつてアースガルドの神々が老い始めたことがありました。
その時、黄金に輝く林檎を食べると若さと力が戻って来たと言います。
それ以後アース親族はこの黄金の林檎を【第1の宝物】と呼んで大切に保管するようになれました。
イズンは若返りの林檎を心を込めて栽培し、アースガルドの神々に食べさせて、若さと繁栄をもたらすという大変重要な役割を任せられた女神です。
収穫した林檎をトネリコの樹で作ったかごに入れて、大事に保管していました。
北欧神話ではトネリコは重要な樹と言われ、9つの国を支える世界樹ユグドラシルは実はトネリコの樹だったとも言われています。
イズンは林檎の数が不足しないよう、あるいは誰かに盗まれることのないように気を配りながら誠実に毎日仕事に励みました。
アースガルドの神々は彼女の林檎を定期的にもらって食べることで、歳を取ることもなく、若さと体力を保ったまま、安心して日々を送ることができたのでした。
ところが、この状況はある日一変してしまったのです。
邪神ロキの悪だくみのせいで、林檎の番人イズンが誘拐されてしまったのです。
至宝の林檎とロキの奸計
ある時、巨人シアチに捕まってしまったロキは、自由にしてもらう代わりにイズンと若返りの林檎をシアチに与える約束をしてしまいます。
解放されたロキはイズンのもとに来ると、うまい言葉でイズンに語りかけました。
「あなたが持つ若返りの林檎とそっくりの林檎を見つけました。きっとあなたもその林檎を見たらすばらしいと思うに違いありせんよ。どうですか、これから行ってあなたの林檎とどちらが優れているか比べてみませんか?」
イズンは自分の仕事にプライドを持っていましたから、他の林檎がそんなにすばらしいはずがないと考え、ロキの策に乗ってしまいます。
イズンはロキに指示されたとおり、アースガルドを出て、外界のある森に足を踏み入れてしまいました。
その途端、鷲に姿を変えた巨人シアチが現れると、その鋭い爪にイズンの体を掴んで自分の館へ連れ去ってしまったのでした。
さてイズンは行方不明、そして<若返りの林檎はイズンしか取れない>とあって、アースガルドは大混乱に陥りました。
若返りの林檎が食べられなくなった神々は、すぐさま老い始め、髪は白くなり、腰も曲がって老人の姿になってしまったのです。
なぜイズンが消えてしまったのか、調べていたオーディン達はロキの陰謀を知り、彼を捕らえました。
そして「すぐにイズンを取り返して来い」と脅迫したのです。
神々達の剣幕に怯えたロキ。
オーディンの妻フリッグの物である鷹に変身できる羽衣を借用すると巨人の国ヨトゥンヘイムへ忍び込みます。
巨人シアチが不在の時に、ロキは木の実に変身させたイズンをその館から連れ出しました。
しかし、さすがに気づいたシアチは鷲に変身すると猛スピードで追いかけて来たのです。
鷹と鷲…鷲の方が大きくてスピードもありますね。
追い付かれそうになった鷹(ロキ)はギリギリでアースガルドへ逃げ込み、シアチを待ち構えていた神々が城門の前に薪を積み上げていました。
門の中へ入っていったロキを追いかけながら、城門に近づくシアチ。
その瞬間、神々が薪に火を放ったため、羽に火が移ったシアチは墜落し、捕獲され殺されることになったのでした。
こうしてイズンはアースガルドに戻ることができたのです。
彼女の帰還と同時に若返りの林檎も再び稔り、神々の口に入るようになりました。
アースガルズの神々は林檎によって再び若さと力を取り戻し、イズンは夫の元に戻り、彼の歌と合わせて神々の心を喜びで満たすことができるようになったのです。
このエピソードは豊穣の物語とも解釈され、イズンが巨人シアチに掠われることが冬の到来を意味し、神々のもとに戻ることは春の訪れを意味しているという説があるそうです。
そう言えばギリシャ神話のペルセポネ(コレー)のエピソードとも共通するものがありますね。
清純?淫乱?
イズンはアースガルドの至宝である若返りの林檎を管理する役目を持っていたので、他の神々から尊重されていました。
任務のせいだけではなく、彼女自身が【晴れやかで優しい娘】【清らかな心の持ち主】と称えられていたように、そのすばらしい人柄でも皆に愛されていたようです。
しかし、ロキは違ったようです。
清純なイメージのイズンですが、ロキは彼女を罵倒しました。
自分が罠にかけた被害者を罵るとは「おまえが言うな!」という感じですよね。
ロキの言葉は「あらゆる女の中でイズン、おまえは最高の淫婦だ。自分の兄を殺した男を、美しく磨いたその腕で抱いたのだからな!」というものでした。
しかし、北欧神話にはイズンの兄は登場しませんし、【兄を殺した男】というのが夫ブラギのことなのかどうかも不明です。
ただし、ロキの言葉からあるエピソードが連想されるそうです。
それは巨人族娘であるゲルダとの関連性です。
ゲルダに一目惚れし、大切な剣を手放してまで結婚した豊穣の神フレイは、実はゲルダの兄ベリを牡鹿の角で撲殺した犯人でした。
そしてゲルダは求婚の贈物として若返りの林檎ももらっています。
数々の符号が一致することから、イズンとゲルダは同一人物とも考えられているそうです。
エンタメワールドのイズン
ゲーム作品ではイズンは若返りの林檎とともに【回復系の能力を持つキャラクター】として登場することが多いようです。
確かに不老の力は回復系ですし、ありがたい能力ですね。
別名である「イズーナ」がイズンと別人として登場することもあります。
パズドラ
この場合は双子キャラになっています。
イズンとイズーナが寄り添って林檎を持っています。
イズイズと略されていて仲のよさそうな双子キャラがとても可愛いですね。
ルーンエンハンスというスキルで仲間の攻撃力が2倍になったりとサポートキャラとして活躍しています。
また、若返りの林檎からの発想か、双星神の魂というリーダースキルは回復力と攻撃力が2倍となる強力なモンスターです。
ロキが罵ったイズンの持つ二面性がイズーナという双子として表されたのかも知れませんね。
追記:喜多川阿弥
イズン(イズーナ)~黄金の林檎に触れることが許された若さの女神~ まとめ
アースガルドの至宝【若返りの林檎】それだけでも特別感があるのに、そのりんごを扱えるのはただ一人の女神という設定だけでも、創造欲を掻き立てられるような気がします。
イズンは今のところあまりゲームでは注目されていないようですが、この圧倒的な特別感はおいしいとこ取りのキャラクターとして外せない存在ではないかと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。