北欧神話上、最高に美しい愛の女神がフレイヤです。
フレイヤという名前はドイツ語で女性を意味する【フラウ】の語源とされていますし、Friday(金曜日)はフレイヤの日と呼ばれ、欧米では美しい彼女にあやかって金曜日に結婚するのが好まれているとも言われています。
ただし、彼女は美しいだけではない女神でした。
自由奔放すぎなフレイヤ
種族: ヴァン神族/アース神族
地域: ヴァナヘイム/フォールクヴァング(アースガルド)
別名: 愛と美の女神、豊穣の女神、戦争の女神など
フレイヤはアース親族以前にいたヴァン神族に属する女神です。
ヴァン親族として住んでいたのがヴァナヘイム、アース親族となってからはアースガルドのフォールクヴァングという宮殿に住んだと言われています。
富と海運の神ニョルズを父に、豊穣神フレイを双子の兄に持つと言われ、【愛と美】【豊穣】【戦争】を司るとされています。
ヴァン親族とアース親族の争いの際、ニョルズ、フレイとともに人質としてアースガルドへ来て、そのままアース神族の一員として認められるようになりました。
ギリシャ神話の愛と美の女神アフロディーテも、その美貌と自由すぎる性格が色々な騒ぎを巻き起こしましたが、フレイヤも負けないほどたくさんの恋愛問題や争いの原因となりました。
ブリーシンガメン
火のような輝きを放ち、見た者全てが魅了されるという黄金の首飾りです。
フレイヤはこの首飾りがどうしても手に入れたくて、製作者の4人の小人の機嫌を取ろうと、言われるままに一人一人とベッドを共にしたと言われています。
ロキがいたずら心からこれを盗もうとしましたが、アースガルドの入口である虹の橋の番人ヘイムダルによって阻止されました。
ダーインスレイヴ
デンマーク王ヘグニが所有していて、一旦抜かれると、人の生き血を吸うまで鞘に収まることがない魔剣と言われています。
また、この剣で傷つけられると傷は二度と癒えないという恐ろしいことも伝わっています。
フレイヤの陰謀でセルクランド王ヘジンと戦うことになったヘグニはこの剣を抜いてしまい、惨劇が巻き起こされたのでした。
猫が引く戦車
どんな大きさなのか疑問に思いますが、フレイヤは外出にいつもこの戦車を使用していました。
2匹の猫がフレイヤを乗せた戦車を引く姿が多くの絵に描かれています。
鷹の羽衣
男神より、主として女神が使用する羽衣で、身につけると鷹に変身することができるそうです。
鷲の羽衣もあるそうですが、飛行速度はそれよりはやや劣ると言われています。
フレイヤの所有物ですが、なぜかたまにロキに貸し出すこともあるそうです。
ヒルディスヴィーニ
フレイヤのペットとも言うべきイノシシです。
一説では彼女の恋人である人間族のオッタルを変身させた姿と言われています。
美しさは罪?愛と美の女神
目が覚めるような美貌と魅惑的な肉体を持つ女神フレイヤ。
人々に愛を与える恋愛の女神であり、誰かの愛を得たいと思ったらフレイヤの名を唱えると良いと言われていました。
アースガルドでは並ぶ者がいないと言われるほど、すばらしいフレイヤの美貌は、アース親族と敵対する巨人族にも有効で、彼らの心に愛欲を目覚めさせました。
例えば、雷神トールの大槌ミョルニルを盗んだ巨人スリュムですが、トールに詰め寄られたとき、槌を返す代わりにフレイヤとの結婚を要求したそうです。
この要求は当然ながらアース親族は受け入れませんでした。
ただし、トールとロキは「フレイヤと結婚させる」とスリュムを騙し、まんまとミョルニルを奪い返しました。
またアースガルドに乱入して泥酔し大暴れした巨人フルングニルは「アース神族は皆殺しにしてやる。ただし、フレイヤとトールの妻シヴだけは自分の国に連れて帰る」と暴言を吐き、アースガルドから追い出されたそうです。
こんなふうにフレイヤの美貌は、たびたびトラブルの原因となったのです。
己の欲望にはひたすら忠実
フレイヤの性格を一言で表現すれば【己の欲望にひたすら忠実で自由奔放】ということでした。
それの証拠が【ブリーシンガメン】です。
これは見る者全てを魅了する黄金の首飾りのことで、ブリーシンガメンを目にした途端、フレイヤは非常に気に入り、自分の物にしたくなったのです。
ブリーシンガメンを作ったのは小人たちでした。
フレイヤは首飾り欲しさのあまり、夫にも何も告げず家を抜け出し、山や谷を越えて小人の元にたどり着いたのです。
フレイヤの申し出に小人たちは首飾りを譲る代わりに条件を出しました。
それは【フレイヤが自分たち一人一人とベッドを共にすること】という人妻に不倫を強いるものでした。
北欧神話では近親相姦を始め、不倫などはよくある恋愛関係なのですが、小人たちに体を自由にされるのは嫌悪感があったフレイヤでしたが、ブリーシンガメンの持つ輝きには抗えなかったのです。
小人たち一人一人と寝たフレイヤは念願どおり、輝く首飾りを手に入れアースガルドへ戻って来ました。
ところがブリーシンガメンを得た代償は大きなものでした。
首飾りを手に入れるために小人たちと寝たフレイヤの所行を知った夫のオーズが家出してしまったのです。
夫を愛していたフレイヤは慌てて世界中を飛び回り、オーズを捜したのですが、結局見つかりませんでした。
夫と離れてしまった悲しみでフレイヤが流した涙は深紅の黄金に変わったと言われています。
もう一つの顔、戦争の女神
愛と美の女神と呼ばれる一方、フレイヤには別の顔があります。
彼女は最高神オーディンと並び戦争の女神とも言われているのです。
神界を訪れる戦死者の半分はフレイヤ所属の兵士となり、彼女の館フォールクヴァングに導かれたそうです。
【フレイヤのもとに行く】という言葉は【死ぬこと】を意味していました。
このことから、オーディンの妻フリッグとフレイヤは同一神という説があります。
しかし、バルドルのエピソードに見られる【母】の面が強いフリッグと【女】第一のフレイヤが同一神とは思えないのですが…。
先ほど紹介した首飾り事件のエピローグもフレイヤが持つ戦いの神としての一面を物語っているようです。
首飾りを得るためにフレイヤがやったことをロキがオーディンに告げ口したため、怒った最高神はロキにブリーシンガメンを盗ませたのです。
夫を失ってまだ手に入れた首飾りを返してくれと懇願する彼女に対してオーディンは条件を出します。
それは「人間の国王二人を戦わせて、永遠に戦い続けさせられたら、おまえの首飾りを返してやろう」という人間にとってはとんだ迷惑の災いでした。
首飾りを返してもらうためにはフレイヤにためらいはありません。
オーディンの命令に従って、のちに【ヒャズニングの戦い】と呼ばれるようになったデンマーク王ヘグニとセルクランド王ヘジンとの間に戦乱を引き起こしたのです。
ここに登場するのがヘグニの持つ魔剣ダーインスレイヴでした。
デンマークとセルクランド両国は兵士達が皆殺しになっても復活して再び戦うという終わりなき悲惨な運命の輪に閉じこめられとしまったのです。
この戦争以来、ブリーシンガメンは優れた人間の勇士同士を争わせる呪いの首飾りと呼ばれるようになりました。
首飾りが愛や憎しみなど様々な人間の欲望をかき立てるのは、ギリシャ神話の【ハルモニアの首飾り】を連想させます。
このハルモニアはアフロディーテが愛人アレスとの間に生んだ娘です。
アフロディーテも愛と美の女神ですし、多くの男神と浮き名を流したこともあり、フレイヤとの共通点が多々ありますね。
フレイヤは魔女?
フレイヤは魔術にも優れていたと言われています。
ヴァン神族に伝わる魂を操る呪術【セイズ呪術】をオーディンに教えたのはフレイヤだという説もあります。
魔術に長けているということから、前回紹介した魔女グルヴェイグとも同一神と思われることもあるそうです。
利用したりされたりするロキはケンカの時、フレイヤを「ここにいる神や妖精は全員、おまえと遊んだ相手じゃないか」と罵倒したそうですが、性に奔放ではあっても、求められるとイヤとは言えない気の良い女性でもあったのでしょう。
その反面、自分の愚かさで失ってしまった夫への思いは純粋だったように思えます。
エンタメ世界のフレイヤ
美人でセクシー、戦いの神とも呼ばれるとあって、フレイヤはゲームにはもってこいのキャラクターですね。
フレイヤというキャラが登場するゲームは様々ありますが、ただの美女設定だけではなく、実際に戦闘にも参加する戦士という属性が与えられているようです。
ヴァルキリーコネクト
このゲームでは聖女と呼ばれていますが、敵を誘惑して攻撃するなど、神話の性格に似た設定がされています。
フィンガーナイツクロス
ファンタジーアクションゲームの『フィンガーナイツクロス』では火の属性を持つフレイヤというキャラクターが登場します。
なかなかの美人設定ですが、【妖艶な悪魔】と言われるぐらいですから、一筋縄ではいかないようですよ。
フレイヤ~黄金の首飾りの逸話にみる争いを引き起こす美貌と欲望~ まとめ
見る者を魅了し、異性の欲望をかき立てる美女フレイヤ。
自分の欲しい物を手に入れるためなら、何でも利用する残酷なところもありますが、その反面純真な心も持ち合わせた女神のように思えます。
彼女には対立するもの、矛盾するようで実は表裏一体な面を持っていました。
例えば【愛と美】【豊穣と多産】【戦争と死】など。
フレイヤは女性を具現化したものでもありました。
まさに北欧神話に咲いた大輪の華にふさわしい存在だと思います。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。