アシュヴィンという神様をご存じですか?
一見するとドイツ系の名前のようで、インド神話の神とは思えないですよね。
知名度もあまり高くはないのですが、美形の双子神とされ、神々を治療する医学神として重要な役目を持っていました。
『リグ・ヴェーダ』では50を越える賛歌を捧げられている神です。
アシュヴィンとは?
アシュヴィン双神と呼ばれるように、区別の付かないほどよく似た双子の神とされています。
輝きに満ちた姿をした若い美青年で、災いから護ったり、長寿、安産の神としても知られています。
知名度の高い雷神インドラ、火の神アグニなどと同様に最も古い時代の神です。
元々は何らかの自然現象との関係があるとされていますが、何と関係があるのかは不明です。
双子神ということから、対になる【天と地】とか【昼と夜】などと考えられてきたようですが、美青年であり、輝く体と言うことからでしょうか【明けの明星】と【宵の明星】とされているようです。
また、光と水蒸気であり、あらゆるものに浸透していくことを暗示しているという説もあります。
双子神は翼をもつ馬(鷲という説もあります)が引く3輪の車に乗って天空を駆け、蜜の滴る鞭をふるって人間に治療を施したと言います。
神々の治療を行うこともありました。
蜜のしたたる鞭
アシュヴィンは蜜が滴る鞭を振るって人々に恵みを与え、寿命を延ばし、身体の欠陥を除くと言われます。
鞭とは言え、叩くのではなく、その先から蜜が滴り人間に滋養を与えるということのようです。
アシュヴィンの別名
双神、医療の神というのは当然ですが、ナーサティヤという名前もあります。
これは【治癒する者】という意味があり、まさにアシュヴィンの本質を表しているものではないかと思われます。
アシュヴィンの起こした奇跡~失恋
文献『シャタパタ・ブラーフマナ』にアシュヴィンのエピソードが載っています。
チャヴァナという年老いた聖仙がいました。
あまりにも歳をとっていて、体も縮こまり、顔もシワだらけだったのでしょう。
意地の悪い少年達が石を投げて迫害したのです。
チャヴァナの正体を知った少年の父親は謝罪しました。
そして美しい娘スカニヤーを彼の妻として差し出したとされています。
美少女スカニヤーがチャヴァナの妻と理由には他の説もあります。
彼女が父親と一緒に遊んでいるときに土の塚を突いたら、それはチャヴァナの目だったのです。
彼を失明させてしまったお詫びとして自ら進んで妻になったと言われています。
土の塚に埋もれていたのか?と謎な状況ですが、真相は修行に励みすぎたチャヴァナの上に土が降り積って重なり、人間とはわからないほどの状態になっていたらしいです。
普通の土の塊と思って突いたら人間がいた…というわけですね。
このような経緯で結婚したのですが、スカニヤーは年の違う夫を愛し、尽くしたと言われています。
さてアシュヴィンですが、このスカニヤーが沐浴をしているところに通りかかり、彼女に一目惚れしてしまったのです。
人間の病気を治して各地を歩き回っていた双子神は人妻スカニヤーに「こんな老人の妻になって若さをすり減らすよりも、若く健康な私達のどちらかを夫にしませんか?」などと誘いました。
神が人間の妻を見初めた場合、夫に化けてアバンチュールを楽しむとか、ひどい場合は夫を始末して妻を奪うというのがよくあるパターンですね。
しかし、医療の神だからなのか、アシュヴィンは言葉で誘うだけで、恋敵チャヴァナを傷つけようとはしませんでした。
それどころか、“敵に塩を送る”ようなことを行ったのです。
美しい双子神の誘いをスカニヤーは断ります。
そして「あなた方は神としては不完全です」と指摘し「夫チャヴァナの若さを取り戻してくれたらその理由を教えましょう」と言ったのでした。
スカニヤーをきっぱりと諦めたアシュヴィンは、老人を泉で沐浴させます。
すると、老人のシワはすっかり消え去り、姿勢も良くなり、若々しい青年の姿となったのでした。
アシュヴィンが神として不完全だった理由、それは人間に近すぎたことでした。
治療するにはどうしても、患者の体に触れなければなりませんね。
その接触が多すぎたので“清浄ではない”と神々に判断されたのです。
また、人間を癒すために神のいる天界より人間界にいる時間の方がどうしても長くなります。
そのせいで“低級神”と見なされたこともあります。
我々、人間の身としては、助けてくれるアシュヴィン神が見下されているのは、何か釈然としない思いですよね。
スカニヤーの機転とアシュヴィンのおかげで若返ったチャヴァナは感謝のお礼として、神々の飲み物【ソーマ】を捧げました。
ソーマは神々しか飲むことが許されていなかったのですが、チャヴァナが供えてくれたためアシュヴィンは飲むことができました。
そして目出度く神の仲間入りをしたのでした。
恋に溺れず、正々堂々と恋敵に対したアシュヴィンの誠意の勝利と言えると思います。
ギリシャ神話の医学の神アスクレピオスも誠意のある神というイメージがありますが、やはり人を癒す神は清廉であって欲しいという希望があるのでしょう。
エンタメ世界でのアシュヴィン
アシュヴィンは、エンタメ世界ではあまり登場しませんが、以外に知られているようです。
PSPゲームソフトの『遙かなる時空の中で4』やスマホゲームの『刻のイシュタリア』などにも登場し、特に『刻のイシュタリア』では、原典同様の双神として描かれています。
競走馬『アシュヴィン』
翼を持つ馬を乗り物にしているアシュヴィン。
それにちなんで、アシュヴィンという名前の競走馬がいました。
アシュヴィン双神|医療を司る輝きに満ちた双子神 まとめ
アシュヴィンはドラマチックと言える愛憎ドラマには無縁の神でした。
前述したように、人間や神まで治療する医神が感情に流されては…ということなのでしょう。
スカニヤーには振られましたが、人間の女性クンティーと結ばれたアシュヴィンは双子をもうけたそうです。
このエピソードも、至って平凡で、結局アシュヴィンは優等生的な神だったのだと思ってしまいます。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。