軍神アレスと聞くと「おお、カッコイイ」凛々しい軍人の姿を連想する方も多いと思います。
アレスはゼウスとヘラの息子で、血筋から言えばオリンポスの正当な嫡子なのですが…
なぜか重んじられない神なのです。
争い好きな困った君
オリンポス12神の一人で戦い大好きな軍神アレス。戦略や戦術など関係なく、ただ戦うのが好きな神と言われています。
戦いは日常茶飯事だった古代ギリシアでさえ、秩序のない血みどろの戦闘は野蛮だと軽視する傾向があったため、この神はあまり人気がありませんでした。
彼のエピソードで一番有名なのは、人妻アフロディーテとの不倫関係で、軍神なのに敗けた話ばかりが多く、どこが戦いの神なんだと思われてしまう、情けない部分もあります。
しかし場所が変わって、ローマ神話になると建国の祖ロムルスの父神マルスと同一視されるようになり、今度こそ軍神として人々の尊敬を集めるようになりました。
黄金の額帯をつけた神馬
アレスは普段は徒歩で戦うのですが(この点も軍神らしくないような気がします)復讐の女神エリニュスとの間に産まれた足の速い4頭の馬に戦車を引かせることもあったようです。
火星(マーズ)
その名の通り、赤く輝く火星は「血と争いを連想させる」として、軍神アレスと重ねられました。
また火星の惑星記号はアレスの武器である槍をモチーフにしたという説もあります。
ちなみに火星の衛星フォボスとダイモスはアレスとアフロディーテの間に産まれた恐怖の神ポボスとデイモスから名前が取られているそうです。
浮気や敗走、情けない軍神
同じ戦いの神とは言え、栄誉や計略などの知性的な部分を司るアテナと比べ、破壊と狂乱を担うアレスは人間からは敬遠される傾向がありました。
そのためなのか、戦での華々しい活躍というエピソードは少なく、逆に情けない姿で描かれる方が多かったのです。
有名な美の女神アフロディーテとの不倫では、人目もはばからず情事に励む二人にさすがに怒った夫のヘパイストスは罠を仕掛けました。
二人がベッドにいるところを目に見えない網で絡め取ってしまったのです。
ヘパイストスの作ったものですから本人でなければ外せません。
裸同然の二人は神々の笑い者にされたと言います。
また、トロイア戦争ではアフロディーテでトロイア側についたため、自分も味方したのですが、神なのにギリシア側の英雄ディオメデスに槍で刺され、オリンポスに逃げ帰ったとか。
ディオメデスにはアテナの加護があったとは言え、情けないですね。
さすがにゼウスも叱ったと言います。
またヘラクレスにも半殺しの目に遭ったとか。
ヘラクレスはゼウスと人間の間に生まれた異母兄弟です。
半分人間の血が入っている相手にも負けたんですね。
また巨人族のアロアダイとも決闘したのですが、いとも簡単に投げ飛ばされて捕まってしまいました。
そのあげくに青銅の壺に1年以上も閉じこめられてしまったのです。
13か月後に伝令の神ヘルメス(彼も異母兄弟)が助け出した時には、飲まず食わずだったでしょうから、アレスはすっかり衰弱していたそうです。
つくづくかっこ悪いですよね。
情けない姿から一転、ローマ神話では勝利の神へ
そんなアレスですが、ちゃんと敬愛されている場所もありました。
古代ギリシアの都市国家で最強と言われたスパルタでは勝利が逃げないように、アレスの像には足枷をかけていたそうです。
地域によってはアレスは勝利の神とされていたようです。
さらに時代が下がってローマ帝国になると、アレスは建国の祖ロムルスの父であるマルスと同一視されるようになりました。
マルスはもともとローマにいた農耕などの神だったそうです。
戦いを仕掛ける時期が農繁期を避けることから、戦いの神となり、ギリシアから入ってきたアレスと合体したようですね。
ちなみにマルスは勇敢な戦士でもあり理想の青年とも言われており、アレスとは正反対の性格に思われます。
いずれにしても、ローマに入ったアレスは勝利をもたらす軍神として敬愛されるようになりました。
本国ギリシアでは軽んじられていたきらいがありましたが、ここに来てギリシア神話随一の出世頭になったのですね。
火星がマーズと呼ばれるのは、実は軍神マルスが語源になっているのです。
また、3月を表す英語《March》はマルスに捧げられたことから名づけられました。
結局はマルスと同一視されたことによってアレスの株が上がったということになります。
アレス(マーズ)~黄金の額帯をつけた神馬がひく戦車に乗る軍神~ まとめ
アニメ『六神合体 ゴッドマーズ』というのがありました。
原作者は『三国志』で有名な横山光輝氏です。
宇宙からやって来た青年マーズは地球征服の先兵だったはずが、逆に地球を守るために活躍するという話でした。
また『美少女戦士 セーラームーン』のセーラーマーズこと火野レイは黒髪をなびかせ凛々しく戦っていましたね。
やはりマーズというのは正々堂々と戦うイメージが強いようです。
基本であるアレスが何とも情けなく、哀れだったために、せめてマーズは格好良く…
と思う人が多いのでしょうか?
アレスは乱暴で残酷なところはありますが、単純な性格ですし、女性からしたら複雑で気むずかしいゼウスやアポロンよりはいい伴侶なんじゃないかとも思えるのです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。