安彦良和原作アニメ『アリオン』に登場するテュポーンは背中に苔の生えた空を飛ぶ大蛇です。
オリンポスの番人として、主人公達に襲いかかってきます。
あんな大きな蛇に襲われたら普通の人間はひとたまりもないでしょう。
『ゴジラ』にも蛇(龍?)の怪獣マンダが登場します。
当然ながらゴジラにやられてしまうのですが、ギリシア神話最大の怪物テュポーンを倒したのは誰でしょう?
テュポーンとタイフーン
ギリシア神話上、最大であり最強と呼ばれる怪物です。
宇宙に達するほどの大きさだという説もあります。
そんな巨体が地球に収まるのか?
という疑問は無しにしてください。
神話ですから。
体から100匹の竜が生え、目からは炎を放ち、胴は人間、下半身は蛇がとぐろを巻いているなど不気味な姿に描かれることが多いです。
また、暴風の化身の神でもあり、英語の【タイフーン】はテュポーンが語源だとも言われています。
彼は上半身美女、下半身蛇のエキドナとの間に多くの怪物-100もの竜の頭を持つと言われるラドン(鳥の怪獣ではありません)頭が9つある水蛇ヒュドラ(ヘラクレスの12の功業の章で登場しましたね)ライオンと山羊と蛇の姿を持つキマイラ、3つの頭を持つ犬ケルベロス(地獄の番犬、これもヘラクレスかかかわりがあります)などを産んだと言われています。
テュポーンは大きい図体にものを言わせ、肉弾戦に持ち込むという単純な戦い方をしたわけではなく、声も武器として利用したそうです。
どんな声なのか想像できませんが、人間や動物の声を使い分けたのです。
驚くことに子犬の鳴き声で敵を油断させて倒したこともあったと言いますから、意外と頭脳派だったようですね。
ラスボスにふさわしい最強の怪物
ゼウスはティターン族との戦い【ティタノマキア】と巨人族ギガースとの戦い【ギガントマキア】の二つの大きな戦いを制し、名実共に神々の頂点に立ちました。
そんな全能の神ゼウスに立ちはだかった最後の強敵がテュポーンでした。
なぜかと言うと大母神ガイアがここに来て、孫に腹を立てたというのです。
と言うのは、孫ゼウスと闘ったティターン族も巨人族ギガースもガイアにとっては子どもだったからです。
しかし、そもそも自分に逆らう子どもたち=ティターン族を倒すためにガイアはゼウスに肩入れしたはず。
その望みが叶ってティターン族が倒されたわけですから、今さら「私のかわいい子どもたちを倒した孫ゼウスが憎らしい!」というのは身勝手な言いぐさですよね。
そんな屈折した思いからガイアはタルタロスと交わってテュポーンを産んだのでした。
そしてゼウスにこの巨大な怪物を差し向けたのです。
テュポーンは前述したように、宇宙に届くほどの巨体で、両手は世界の果てから果てまで広げられるほど、とにかく巨大な怪物です。
目からは激しい炎を放ち、口からは溶岩を発し、火炎や暴風を伴って暴れ回り、大地を焼き払い、あらゆるものを破壊するほどのまさにゲームで言うところの【ラスボス】のようなすさまじい描き方をされています。
ゼウス、大蛇テュポーンを倒す
さてテュポーンとゼウスの戦いが始まりました。
初戦、テュポーンはゼウスに勝利します。
ゼウスの手足の腱を切って、岩窟に閉じこめたのです。
さすがのゼウスも足の腱が切れたのでは歩けません。
しかし、ゼウスには味方がたくさんいます。
息子であるヘルメスとヘラクレスが手足の腱を盗み出し、父親を救い出したのです。
余談ですが、神の腱は取り出せるんですね。
うまいことゼウスを閉じ込めたテュポーンですが、勝利におごらず、いろいろと策謀を巡らしていたようです。
このあたりが頭脳派の証拠ですよね。
まず勝利を確実にするため、運命の女神モイライに、自分に【勝利の果実】を与えるように脅迫したのです。
しかしモイライは武器を取って戦うほど勇ましい神々で、しかもゼウスの味方でした。
でも、相手は宇宙まで届くほどの巨大すぎる怪物テュポーン、逆らったら自分たちが危ないと思ったのでしょう、モイライは勝利の果実ではなく無常の果実を与えたのです。
無常の果実
【無常の果実】とは望みが絶対叶わないという果実で、勝利の果実と信じて食べたテュポーンには願い=勝利は訪れず、敗北する運命を受け取ることになったのです。
ところで【無常の果実】の効力が何回分なのかは不明ですが、かなり強力な武器だと思いませんか?
例えばスポーツ選手がいくら血のにじむような努力をしてオリンピックに臨んでも、これを食べてしまったら、表彰台はおろか最下位になってしまうのですから。
無常であり、無情ではないかと思ってします。
火山の下敷きになったのか?
ヘルメス達に救出されたゼウスはテュポーンと再び戦います。
オリンポスの主神は雷霆と雷火を落とし、怪物の100の頭を焼き尽くしました。
すさまじい悲鳴を上げ、倒れた彼の体からは恐ろしい熱気と火炎が噴き出し、大地を焦がしたそうです。
ゼウスはその体の上に火山を投げ飛ばして大蛇を下敷きにしました。
一説によると、その火山はイタリアシチリア島のエトナ火山で、現在も続く噴火は下敷きにされたテュポーンが暴れているせいだと考えられてきたそうです。
火山ということは、大地ですから、テュポーンはガイアのふところに帰ったとも言えるような気がします。
鯨座
ペルセウスの章で紹介した怪物ケートスはポセイドンの命令でエチオピアを襲い、アンドロメダを犠牲として求めました。
このケートスが星座になったのが鯨座と言われます。
実はケートスはテュポーンの子どもという説があるので、ここに紹介しました。
テュポーン~タイフーンの語源!?無常の果実を食べてしまった巨竜~ まとめ
姿は巨大な蛇で、世界を焼き尽くすような力を持つ怪物-となるととても感情移入はできない神ですが、誕生のいわれを知ると複雑なものを感じますね。
ウラヌスから始まり、クロノス、ゼウス、そしてテュポーン。
全てにガイアの影がちらつきます。
大母神とは言え、あまりにも自分の感情に固執しすぎるガイア。
怪物テュポーンは母の命令に従う《良い子》だったのではないでしょうか。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。