オシリス|優しき穀物神の善政と冥界の王

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オシリス

エジプト神話のスターの登場です。原初神であるヌンやアトゥムは深い霧に包まれた存在で、エピソードにも乏しいのですが、オシリス以降の神は逸話も多く、現代人の心情に通じるものもあり、グッと近い存在となってきます。
今回の主役オシリスは恵みを授ける豊穣の神として信仰されました。

オシリスとは?

父親はゲブ、母親はヌトです。このヌトが出産の際、知恵の神トトに助けてもらったエピソードは前に紹介しましたね。
つまり、オシリスは神同士の夫婦から誕生したわけですから、神としては超一流の血統を引いているわけです。弟にセト、妹にイシス、ネフティスがいます。オシリスは長男だったので、神の頂点に立つことが予定されていた存在でした。
古代エジプトの神々の中でも重要な神の一人で、あの世(冥界)を治める神とされています。ギリシャ神話のハデスにあたる神ですね。
豊穣の神としてエジプトに善政を敷いたそうですが、彼の功績を妬み、王位を狙った弟セ卜によって暗殺されました。しかし、妹であり妻でもあるイシスによって生き返り、彼女との間に息子(ホルス)をもうけたと言われています。セトとホルスの間には王位を巡る争いがあったのですが、ホルスが制し、めでたくエジプトの王位に就くと、安心したオシリスは冥界に下り、冥界の王になったとされています。

オシリスの別名

【ウシル】というのは古代エジプト語で読んだ名前だそうです。
また【イウ・ス=イル・ス】は古代の表記法による名前と言うことです。
【冥界の王】【冥界の神】【豊穣の神】に関しては後ほど紹介しますが、オシリスの業績に関わっての呼び名です。

生き返ったオシリス

多くの土地で信仰されたオシリスですが、特に篤く信仰されていたデルタ地方のブシリスと、上エジプトのアビドスにはオシリス固有の聖地があったそうです。
中でもアビドスには祭儀用の墓標が残るオシリス神殿があり、現代でも巡礼者が多く訪れ賑わっているそうです。ここでは年1回の大祭で『オシリス復活劇』が上演され、参詣客もエキストラとして劇に参加できるそうです。

善き政治家&優しき穀物神

オシリスは、豊穣を司る穀物神としての顔と、温厚な性格の理想的な王としての顔の両面を備えていたとされます。何とも申し分の無い性質の神で、民衆から王族にいたるまで幅広く敬愛され、信仰されたというのも頷けますね。
前述しましたが、大地の神ゲブと天空の女神ヌトの間に誕生したオシリスには豊穣の女神イシス、砂漠の神セト、葬祭の神ネフティスという3人の弟妹がいました。嫡男であり長子だった彼はゲブの後継者として地上の統治者となったのです。
オシリスは穀物神でもありましたから、エジプトの人々に穀物やブドウなどの農作物の作り方を教授したそうです。さらに、国中を巡回し隅々まで目を配り、人々の生活に心を砕いたと言います。
これほどのリーダーの統治下なら言うまでもなく、その治世は穏やかであり、人々はオシリスに敬愛の念を捧げていたことでしょう。

兄弟殺し

兄の名声を良く思わず、嫉妬する者がオシリスのすぐそばにいました。実の弟であり、砂漠の神であるセトです。彼は破壊神であったとも言われます。
自分も同じ両親の血を引いているのに、兄だからという理由で父親の後継者になったことがおもしろくなかったのかも知れません。
密かに兄暗殺を企んだセトは一計を案じました。オシリスの体格にぴったりの棺を作ったのです。
何も知らない兄を宴会に招いたセト。その場に立派な棺を持ち込みました。豪華な作りの棺に居合わせた人々が驚嘆するのを見たセトは「これは私がわざわざ作らせた棺だが、この棺にぴったり合う者に棺を進呈しましょう」と切りだしたのです。
見事な作りの棺に目がくらんだのか、その場の人々は次々と棺の中に入っては「ダメだ」と出て来ること派を繰り返していました。最後にオシリスが棺に入ったのですが「おお、私にぴったりだ」という言葉を言い終えないうちに、セトは棺の蓋を閉じてしまったのです。そして間を置かず棺の隙間を塞いで(鉛を流し込んだという説もあります)ナイル川へ流してしまったというのです。

オシリスの死を知った妹であり妻であるイシスは嘆き悲しみ、夫の入っている棺を捜し求めてエジプト中を彷徨ったそうです。彼女はエジプトより遙かに遠いビブロス(シリアの地中海沿岸にある貿易港)でやっと棺を発見しました。しかし、執念深いセトはイシスの隙を突いてオシリスの遺体を奪ったのです。しかも兄の遺体をバラバラにした挙げ句、エジプト全土に撒き散らしてしまったのです。

オシリス復活

セトによってバラバラにされたオシリス。彼が死んだことは明確でした。
しかし、夫を諦めることのできない妻イシスは、再びエジプト中をオシリスの遺体を探し回ったのです。彼女は大変な苦労の末、バラバラになった夫の遺体を集めることに成功したのです。ただしオシリスの体の一部(男性自身)はナイル川の魚に食べられてしまったので、欠損していたそうです。
イシスは妹ネフティスと養子アヌビスと協力してオシリスの遺体をつなぎあわせました。そして自分の精気を送りこんでオシリスを生き返らせたのです。ここまで来ると、もはや執念としか言えませんね。
ところでオシリスの性器だけは復活できなかったのですが、呪力を持っていたイシスがその力で性器を蘇らせて夫婦関係を結び、息子ホルスが誕生したとされています。
生き返ったオシリスですが、地上の御座には戻らず、冥界に下り冥界の王になったそうです。死んだ人間が現世の権力を握ることはできないと思ったのでしょう。

オシリスは最初にミイラになったので、彼を表現する壁画や絵には白い衣のミイラ姿で描かれます。また、交差した手には王権の象徴である鞭と杖を持ち、上エジプトの王の証である白冠を頭に載せています。
冥界の王としての務めは、死者の中から心の正しい者を選び、永遠の魂を与えるという役目なので、厳正な評価が必要なためか、生前よりも厳しい性格になったと想像されました。民衆の多くが死んだ後で、オシリスが行う死者の裁判を乗り越え(心が正しいと判断され)、永遠の命が与えられることを強く希望していたと言います。

バラバラ死体の意味

前述のとおり、オシリスはエジプト最古の神の一人で農耕生活の中から産まれた神とされています。
兄弟のうち、オシリスは穀物を象徴し、弟セトは暴風を象徴していたと言われます。セトがオシリスを殺したということは、暴風がせっかく実った穀物を地上に吹き散らしてしまう様子を表しているという説もあるそうです。そして穀物神であるオシリスが蘇生したということは、地中に埋められていた種が芽を出しことを現しているとも言えそうです。

セトによってバラバラにされたオシリスの遺体が埋められたとされる地域では、オシリスへの信仰が盛んに行われていました。特にブシリス(オシリスの背骨が埋められた場所)や、アビドス(頭部が埋められた場所)が有力な信仰地域となりました。ちなみにアビドスは今は荒れ果てた場所となっていますが、エジプトでも最も美しい物の一つと言われるセティ1世葬祭殿が残っていて、観光客も多いそうです。

その遺体がエジプト全土にバラバラに撒き散らされることによって、穀物の種(=オシリス)も各地に蒔かれるということになります。それがエジプトに恵みをもたらすものと信じられていたようです。だからこそ、残酷ではありますが、オシリスの遺体はバラバラにまき散らされなければならなかったということなのでしょう。

エンタメ世界のオシリス

少女マンガ『イシス』山岸凉子

神と人間が共存していた古代エジプト。わずか10歳で王位に就くことになったオシリスは、自分の力と身分におごる少年。双子の弟であるセトは自分とそっくりの顔を持つ、これまた我が儘で自分こそ王だと主張する少年であり、異母妹ネフティスは多情で迫られると断り切れず、オシリスとセト、二人と関係を持つ男好きのする美少女。そして妻となるイシスは息を吹き込んで死んだ虫を生き返らせるという不思議な力を持っていました。権力争いとネフティスを挟んで対立する兄弟はセトのオシリス殺しへ発展します。しかし、ここでイシスがオシリスを生き返らせ…。
エジプト神話に乗っ取って展開する話ですが、山岸凉子らしい男女の憎しみや、恐ろしさ、悲しさも感じるストーリーです。

ボードゲーム『オシリスへの船出』

遺体を載せた船が冥界の王であるオシリス神の審判を受けるためにナイル川を進んでいくのですが、その間に死者の栄光を讃える記念碑を作らなければならないという設定のゲームです。
閻魔様の裁きを受けるようで、地獄の審判というのを連想してしまいますね。

オシリス|優しき穀物神の善政と冥界の王 まとめ

善政を敷き、敬愛されたオシリス。そしてその悲劇的な最期もあって、人気が集まるのも当然かなと思います。と言っても、実はネフティスと一度の不倫で子どもが出来た(アヌビス)とか、そのときはネフティスをイシスだと思って関係してしまったとか…などと、「自分の妻を間違えるってどうよ」と思うようなエピソードもあるのですが、それを含めてもオシリスが魅力的だったと言うことは間違いないようですね。

  • 2021 03.06
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