名前を聞くとあまり神らしくないと感じてしまう【ゲブ】と【ヌト】。まるでギャグのような名前ですが、この2神は現在でも慕われている有名な神々の親になる神なのです。
兄妹神であり、夫婦神でもあった2神はその仲の良さでも有名なのですが、その仲の良さがちょっとした問題を引き起こしてしまうことになりました。
兄妹神&夫婦神 ゲブとヌト
原初の水=ヌンから誕生したアトゥム神は自分一人で息子シューと娘テフヌトを作り出しました。この二人は夫婦となり、息子のゲブと娘のヌトを産みました。息子ゲブは【大地の神】であり、娘ヌトは【天空の女神】となったのです。
ここで不思議な感じがしませんか?
古代宗教ではギリシャ神話などのように大地神となったのはガイア(=女神)です。“母なる大地”という言葉のように、生命を生み出す大地は女性とされていました。エジプトでは逆のようですね。
ゲブとヌトは両親と同じく(他に相手もいませんから)夫婦となりました。が、あまりにもラブラブ過ぎました。夫婦仲が良いのは良いことですが、この二人、時と場所を構わず、愛し合ったのです。つまり年中、エッチしていたということですね。しかも、交わったまま離れようとしなかったのです。
大地と天がくっついたままという状況は、太陽や神々(大気とも言われます)の通り道がないということです。世界は暗闇のままだったのです。
この状態に父神シューは困惑し、やがて怒髪天となりました。熱烈な抱擁中の息子夫婦の間に割って入り、二人を引き離したのです。要するに、息子夫婦のエッチの最中に踏み込んでひっぺがしたというわけです。父も父ですが、シューをこれほどの行動まで追い詰めたゲブ達の熱情というのも、すさまじいと思いませんか?
夫婦の間に立つシュー
ゲブとヌトを引き離したシューは娘ヌトを遙かな高みまで持ち上げたので、天と地の間に空間ができました。やっと太陽の通り道と人間が誕生し、生活できる場所が確保されたのです。
このシーンが壁画などに表されていますが、何とも不思議な構図になっていて、エロチックでもあり、大げさでもあり、笑って良いのか、神聖なものと考えて良いのか悩むところです。
というのは、横たわった大地神ゲブの上に、手足を地上に伸ばした天空の女神ヌトが覆いかぶさっているのです。彼女の弓なりになった腹部に星が輝いていて(これは天の川を表しているそうです)、二人の間に立ちはだかり、両手で娘を支えるシューが描かれているのです。
ある壁画には愛妻ヌトと引き離され、嘆き悲しみながら地面に横たわるゲブの体の一部が棒のように長く上へ伸びているものがあります。これは男根を表していて、ゲブがヌトを狂おしく求めている姿とされています。ここら辺がエロチックさを感じるところでもありますが、息子と娘の間で二人の交わりを邪魔している父親の姿というのは滑稽さを覚えるところですよね。
ゲブの笑い
大地神ゲブは豊穣の神でもありますが、その反面荒ぶる神としての顔も持っていました。人間や自然に災厄をもたらす地震は【ゲブの笑い】だと信じられていました。また各地にある山々は【ゲブの噴出】と呼ばれましたが、ヌトと引き離されるときに怒ったゲブが体を震わせたために隆起したとされています。
怒れば山が出来るし、笑えば地が震える…ゲブを喜ばせることも考え物ですね。
太陽の母 ヌト
妻であるヌトの姿は星で覆われた裸体、或いは星をちりばめた服をまとって描かれます。彼女は毎日、沈む太陽を飲みこんでは翌朝になると再び産みだしていると言われました。このため、ヌトは【太陽の母】とも呼ばれるそうです。ヌト自身にちりばめられた星々も実は彼女の子どもです。その星々を飲みこんで再び産み出すという様子から、自分の子を食べてしまうという雌豚に擬えられることもあるとか。ちょっとかわいそうですよね。
ゲブの笑いは地震になりますが、ヌトの笑いは雷鳴となったそうです。また彼女の涙が雨になったそうですが、エジプトは降雨量の少ないところですから、ヌトは泣かない女神だったようですね。
祖父アトゥムの呪い
実はヌトはゲブと離される前に妊娠していたそうです。毎日イチャついていれば、まあ当然の成り行きでしょう。
ところがなぜか祖父にあたるアトゥム神がこれを怒って1年360日間、出産できないという呪いをかけたのです。二人を引っぺがしたシューが呪うのならわかりますが、いきなりアトゥムが出て来るのにびっくりしますよね。神話だから…多少の無理目展開は考えないことにしましょう。
さて大きくなるお腹を抱えながらも、出産できないヌトはとても苦しみました。彼女の苦境を哀れんだ知恵の神トトが動きます。トトは時を司る月に掛け合って360日と別に5日の閏日を手に入れました。こうして1年が360日ではなく、365日になったのです。
閏日にヌトは無事にオシリス、イシス、セト、ネフティスの4兄妹を出産できました。この4人はエジプト神話でもトップクラスの有名な神々となります。
一説にはハヤブサの神ハロエリス(大ホルス)を加えて、5兄妹をヌトが産んだとも言われています。
エンタメ世界のゲブとヌト
漫画『ジョジョの奇妙な冒険』荒木飛呂彦
第3部にゲブ神というスタンドが登場します。盲目というハンディキャップはありますが、破壊緑もすさまじく、スピードもあり、すぐれたスタンドと言われます。
漫画『イマドキ・エジプト神』美影サカス
なぜか現代に降臨したエジプト神たちの4コマ漫画です。
「自分が笑うと地震が起きるらしい」と気象庁に電話相談するゲブという漫画があります。ゲブネタはこれだけでした。ヌトネタはありませんでした。
ゲブとヌト|時と場所を選ばず愛し合う大地の神と太陽の母 まとめ
ゲブとヌトの話は夫婦仲の良さも行き過ぎるとはた迷惑かも…と思わせますね。でも、この2神に関するエピソードは人間的で好感が持てると思う方も多いのでは?
アトゥムやシューはゲブとヌトを引き離そうとしますが、二人の母であるテフヌトはこの間、一体何をしていたんだろう?と筆者としてはそっちも気になります。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。