ギリシャ神話の最高神ゼウスは女好きでも有名です。
目を付けた相手に迫るのに手段を選びません。
人妻なら夫に化けるし、白い牝牛に化けて少女を掠ったり、女に化けることもあります。
ダナエを手に入れるとき、ゼウスが化けたのは何と“黄金の雨”でした。
ダナエとは?
ギリシャのペロポネソス地方東北部のアルゴス王家に一人娘として生まれた王女ダナエは美少女として名高く、父アクリシオスは娘が成長したら婿を迎えて王家を継がせるつもりでした。
ところが思いがけない神託が下ったのです。
それは「アクリシオス王は娘ダナエの子によって命を奪われるであろう」という父王にとっては青天の霹靂のようなものでした。
可愛い一人娘とは言え自分の命が大事だったアクリシオスは入口が1箇所しかない高い塔を造らせると「一生その中で暮らせ」とばかり、ダナエを閉じ込めてしまったのでした。
もちろん厳重な見張りも忘れません。
いくら予言があっても男が出入りできないなら、ダナエに子どもが生まれるはずはない……そう考えたのでした。
ゼウスの行動
さてアクリシオスが娘を閉じ込めたことを知ったゼウスは怒ります。「自分の娘を閉じ込めるとは」親としての非情さに怒ったと言うより、神託から逃げられるものか、という思いがあったのでしょう。もちろん、美少女ダナエに惹かれたことが最大の理由だったでしょうが。
ダナエがいる高い塔の小部屋には小さな窓がありました。ある時、窓を開け外を眺める彼女はキラキラとした雨が降っているのに気がつきます。思わず手を伸ばす美少女に降り注ぐ雨。それはゼウスでした。
妊娠と追放
黄金の雨に打たれてから数ヶ月後、ダナエは身ごもったことに気がつきます。異性に会うことすらないというのに、なぜ?悩んだかも知れませんが、そこはゼウスです。しっかりと「おまえが身ごもったのは私の子どもだ」と伝えたことでしょう。
当時の人々は神のなさる御技には逆らえないという諦観のようなものを抱いていたようです。ダナエもそういうことなら…と諦めたと言うより開き直ったのかも知れません。
やがて彼女は健やかな男子を産みます。それがギリシャ神話や星座の話で人気のペルセウスです。
さて娘を閉じ込めて安心していた父王は、塔から赤ん坊の泣き声がするのを不審に思い、訪ねてきました。そして自分にとって恐ろしい光景=娘の子ども(つまり孫)の姿を発見したのです。激怒した父王は、取りなそうとする侍女や従者の言葉には耳を貸さず、即刻娘と赤ん坊を小舟に乗せ、海へ追放してしまったのでした。
孝行息子ペルセウス
ゼウスが守ってくれたのか、母子の乗った小舟は転覆することもなく、セリポス島へ到着し、二人は島の領主ポリュデクテスに庇護されました。
幼子を抱える若く美しい母ダナエに、ポリュデクテスが恋情を抱くようになるにはさほど時間はかかりませんでした。しかし、ダナエは彼の求愛を拒み続けました。
ゼウスを裏切れない…というわけではなかったでしょう。いくら神とは言え、一般的に夫婦のように毎日顔を合わせているわけではないのですから。
私見ですが、ダナエはアルゴス王家の跡取り娘という矜恃を持っていたように思えます。そして島の領主でしかないポリュデクテスを“上から目線”で見ていたのではないでしょうか。「アルゴス王家の王女である私、ゼウスの子どもを産んだ私に妻になれとは!たかがセリポス島の領主が何を言ってるの?」ぐらいの気持ちだったのではないかと思われるのです。
やがて成長し、青年となった息子ペルセウスはポリュデクテスの求婚を拒絶する母を救うため、その難題を受け入れ、怪物ゴルゴンの首を取りに行く羽目になりました。
ゴルゴンを倒し、帰国の途中エチオピアでアンドロメダに一目惚れし、救い出した彼の冒険譚は何度も紹介しているので割愛します。
そして無事に母の元に帰ってきたペルセウスはポリュデクテスやその部下に向けて、ゴルゴン3三姉妹の一人メデューサの首を見せつけます。すると彼らは一瞬で石になってしまいました。
故国への帰還
さて邪魔なポリュデクテス達は母親思いのペルセウスのおかげで消えました。彼女はやっと胸を撫で下ろしたことでしょう。
さて、異国の嫁=アンドロメダとは初めて会うダナエです。彼女をどう思ったのでしょう?
「私の知らないうちに、ペルセウスが結婚なんて!」とおもしろくない思いも感じたかも知れませんね。
あるいは元々後継ぎの王女として生まれたという境遇も同じですし、神の気まぐれで運命が変えられたという点でも同じ二人。性格的にも苦労人のダナエとおっとり型(に思えます)のアンドロメダではプラスマイナスで嫁姑問題はなかったのかも知れません。
ペルセウス夫婦と共にダナエは故国アルゴスへと帰ります。ところが娘や孫の帰還を聞いたアクリシオスは震え上がり、宮殿から逃亡してしまったのです。
祖父に会えないことを残念がるペルセウス。彼は気晴らしに参加した円盤投げ競技会で、つい手元が狂い見物していた老人に円盤が当たってしまうという事故をおこしてしまいます。その老人こそ、祖父アクリシオスでした。予言は的中してしまったのです。
ペルセウスはアルゴス王家の後継者ではありましたが、事故とは言え先王を手にかけてしまったという自責の念からこの国を継ぐのを遠慮し、自分とは従兄弟に当たるミュケーナイの王と領土を交換したと言います。
このことにより、ペルセウスとアンドロメダはヘレネーやクリュタイムネストラ達の先祖となったのでした。
ダナエですが、アルゴスに戻ってからの彼女に関する伝説はほとんどありません。おそらく激動の前半生と全く反対の平穏な日々を過ごしたのだろうと思われます。そのギャップが、人間にはよくあることとは思うのですが、イマイチ物足りないような感じも受けてしまいます。
だからと言って、子孫のクリュタイムネストラのような激しすぎる人生も辛いですよね。
ダナエ|ゼウスに愛されペルセウスを生んだアルゴス王家の姫 まとめ
ゼウスに愛されたダナエ。
黄金の雨と美女というのは絵になるようで、クリムトを始めティツィアーノ、レンブランドなど多くの画家の作品があります。
雨に打たれるダナエの表情が何とも色っぽいのが“これは単なる雨ではなく、ゼウスの愛だ”という神話を描写しているかのようですね。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。