世界各地の神話には大地、海、太陽、月、雨、風など自然に関した神が必ず存在しています。
インド神話の自然の神については、雷神インドラなどの有名どころから太陽神スーリヤなどを紹介してきました。
今回の主役は、風の神であるヴァーユです。
風の神であり、空気の神
聖典『リグ・ヴェーダ』によると、ヴァーユは世界の最初に存在したと言われる原人(巨人とも)プルシャの呼気から誕生したと言われています。
ヴァーユは風を神格化した神であり、同時に空気の神ともされています。
人間に必要不可欠な空気の神ですから、当然“生物の命を司る”役目も担っています。
また、香りや音、空、幽霊のエネルギーを支配するとも言われています。
意外な職掌も司っているようですね。
戦車
2頭の馬にひかせた戦車に乗り、白い旗を右手に持ち、左手には棒を持っているとされています。
衣装は風で膨らんでいて、かぶっているスカーフの端をつまんでいます。
ちなみにこの戦車にはインドラも乗ることがあるそうです。
プラーナ文献によると、ヴァーユは優雅にカモシカに乗っているとされますが、ライオンに乗っていると言われることもあり、統一された姿はないようですね。
その固定されたイメージがないところが形のない風の神である所以なのかも知れません。
ヴァーユの別名
アニラ(風の意)ガンダヴァハ(香りを運ぶ者の意)、マールト(風の意)など、やはり【風】を意味する名前が多いようです。
ヒンドゥー教では八大世界守護神の一人として北西の守護神とされました。
またバラモン教では、火の神アグニ、太陽神スーリヤと並ぶ三大神の一人として数えられています。
仏教名
ヴァーユが仏教に取り入れられると十二天の一人風天と呼ばれるようになりました。
白髪に赤褐色の体、右手に旗の付いた槍を携えています。
名誉、福徳などを授けてくれる神として信仰されています。
ヴァーユの子どもたち
ハヌマーン
有名な叙事詩『ラーマーヤナ』に登場する猿の勇士です。
ヴァーユが猿族の女性との間にもうけた子とされ、怪力の持ち主で友情にも厚い男とされています。
『ラーマーヤナ』の主人公ラーマ王子とは友人であり、ラーマの愛妻シータが誘拐されたとき、その捜索にも協力したそうです。
ちなみに中国の『西遊記』の主役悟空のモデルにもなったという説もあります。
ピーマ(ビーマ)
別名ビーマセーナとも言い、有名な叙事詩『マハーバーラタ』に登場する英雄の一人です。
クル族の王妃クンティーがヴァーユの加護を受けて生んだ子どもとされていますが、小さい頃から“超”のつく怪力の持ち主で、戦闘には非常に優れた力を発揮していたそうです。
彼にちなんでか、現在のインドでは怪力の持ち主を【ビーマ】と呼ぶそうです。
ハヌマーンにしてもビーマにしても、怪力の持ち主と言われています。
と言うことは、父とされるヴァーユもかなりの怪力の持ち主だったのではないでしょうか?
インドラとの関係
ヴァーユはアグニ、スーリヤとともにバラモン教三大神として広く信仰されていた重要な神でしたが、雷神インドラの登場によって、その地位が低下するようになりました。
と言っても、敵対していたわけではありません。
神々の職掌が天界、空界、地界の3つに分けられるようになったヴェーダ時代(バラモン教)には、風神ヴァーユと雷神インドラの両神は空界に属するとされ、お互いに協力しながらその役目を果たしたと言われています。
前述のようにヴァーユは2頭立ての赤い馬にひかせた車に乗っていますが、たまにはインドラを乗せ、自らは御者をすることもあるそうですよ。
その場合はなんと千頭もの馬に引かせた黄金の馬車で世界を駆けめぐると言われています。
スリランカとヴァーユ
ある神話によれば、神鳥ガルーダが護っていたメール山(須弥山)をガルーダ不在の隙にヴァーユが攻撃したと言われています。
何の目的でそんなことをしたかは謎ですが、風の神はメール山の頂きを海の彼方に吹き飛ばしてしまったのです。
海に落ちたメール山の頂きはランカーという島になりましたが、その島が現在のスリランカになったと言われています。
ランカー、スリランカ、確かに似ていますね。
エンタメ世界でのヴァーユ
エレメンタルストーリー
エレストに登場するヴァーユは出典どおり、カモシカにのった姿で描かれています。
ヴァーユは風の神ということもあり、爽やかなグリーン系の彩色で描かれていますが、エレストには風属性というものはありませんので、近い感覚の木属性となっています。
女神転生シリーズ
ヴァーユは女神転生シリーズにも登場しています。
メガテンシリーズの派生作品として知られる『DIGITAL DEVIL SAGA アバタール・チューナー』では、悪魔と仲間となったり、ペルソナのように使役するのではなく、自らが悪魔となるというシステムが取り入れられました。
ここでも風の神らしく、竜巻を操るという悪魔として神話に沿って描かれています。
ヴァーユ|スリランカの由来となったバラモン教三大神のひとり まとめ
風神雷神というタイトルの金色の屏風絵を教科書などで見た人はたくさんいらっしゃると思います。
俵屋宗達が描いたとされる大変有名なものですが、どこからモチーフを得たのかと考えると、【雷神インドラと風神ヴァーユ】ではないかと感じます。
確証はありませんが、一緒の馬車に乗ったりしていたと言われるヴァーユとインドラが一つの絵に収まっていると考えるのも、楽しいと思うのですが、いかがでしょうか?
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。