世界に伝わる多くの神話では“世界は神が作った”とされています。
中国神話しかり、ギリシャ神話しかり。
北欧神話でもそうでした。
しかし、世界(大地、海、空)を作った材料というのは、何と巨人の死体だったのです。
巨人の死体から作り出された天地
前述のように、天地創造と言えばギリシャ神話におけるガイアとウラヌスの結婚のように、大地と天の結婚スタートするのが大半なのですが、北欧神話は、なぜか巨人の殺害からスタートとするのです。
なんとも血生臭い幕開けなのですが、説明しましょう。
天地が生み出される以前の世界はカオス状態で、ギンヌンガガプという底知らぬ深い穴、灼熱の国ムスペルヘイム、極寒の国ニヴルヘイムの3しか存在していなかったとされています。
ムスペルヘイムから吹つきける風がニヴルヘイムの氷を溶かし、やがて霧が発生しました。
その霧から雫がしたたり落ち、原初の巨人ユミルと牝牛のアウズフムラが誕生したのです。
不思議なことですが、神話にはよくあることなので、スルーしてくださいね。
霧から生まれたユミルは兄妹でもあるアウズフムラの乳で育ち、やがて自分の寝汗から一人の女巨人が生まれると、その女巨人ベストラとの間に子をもうけ、子孫は【霜の巨人】と呼ばれる一族へと繁栄しました。
一方、牝牛アウズフムラは食料として塩味の氷岩を舐めていたのですが、彼女が舐めたところから人の形をした塊が出現します。
その塊は始まりの神プーリとなり、霜の巨人一族の女巨人との間にボルという息子をもうけました。
やがてボルはユミルがベストラとの間に作った娘を娶り、3人の息子を授かりました。その3兄弟の長男が北欧神話の最高神オーディンです。
成長したオーディン兄弟は、自分たちに反抗的な霜の巨人一族を忌み嫌っていました。
その憎悪が高じたのでしょうか、霜の巨人一族の長とも言えるユミルを殺したのです。
自分たちにとっても先祖にあたるわけですから、世界初の尊属殺人ということになるのかも知れません。
斃れた巨人ユミルからは大量の血が流れだし、洪水を引き起こしました。
その洪水によって霜の巨人達の大半が溺死したのです。
オーディン達にとっては願ったり叶ったりの状況だったでしょう。
さて邪魔者を排除したオーディン兄弟は早速天地創造に取りかかりました。
そこで材料として目を付けたのがユミルの死体だったのです。
巨人とは言え、自分が立っていた世界を作り出す大きさというのは一体どれぐらい巨大だったのだろう?と考えると混乱してしまいますね。
オーディン達は最初に底知れぬ深い大穴ギンヌンガガプをユミルの血液で満たしました。
そしてその上に死体を浮かべて大地をこしらえると、骨や歯、毛髪を使って山や岩、木々を作ったのでした。ユミルの頭蓋骨は4人の小人に支えさせて天として空を覆わせたのです。
また、ムスペルヘイムの火花から太陽、月、星を作り出して暗闇だった世界を照らしました。
海辺で拾った流木を使って人間を作り出しました。
ちなみにここの海というのはユミルの血が海水というわけですから、人間もユミルの一部から生み出されたということになるのでしょうか?
最後に、アース神族やヴァン神族、人間達や巨人族など各種族の住む場所を定めることによって、やっと世界が完成したのでした。
神々の誕生と天地創造~残酷な北欧神話の世界の幕開け~ まとめ
自分の先祖でもある巨人の死体から天地を創造するというのは、神話とは言え前代未聞ですよね。
北欧という厳しい自然に囲まれた地域ならではの陰惨なプロローグと思われますが、こういった悲劇的な始まりこそが【終わりが定められている】北欧神話の本質を物語っているのではないでしょうか?
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。