愛と美の女神アフロディーテ。
とは言うものの、どちらかというと《肉体的愛》のイメージが強いのは、ボッティチェリの名作『ヴィーナスの誕生』の上と下を隠しながらも、こちらに向ける色っぽい視線のせいではないかと思います。
有名な絵ですから、本物でなくても、教科書などで誰もが一度は目にしたことがありますよね。
多くの芸術家のインスピレーションを刺激した女神
愛という人間にとってなくてはならないものを司る女神ですから、古くから数多くの芸術家が彼女を題材に美術品を作りあげてきました。
上記のボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』はもちろん、ルーヴル美術館にある彫刻『ミロのヴィーナス』などが特に有名ですね。
ケストス
アフロディーテの持ち物の一つ。
これを締めると相手は自分に欲望を抱き、いてもたってもいられなくなるという強力な魔法の帯です。
トロイ戦争の時、自分が応援している方が不利になったので、何とか挽回したいヘラはゼウスを引き留めるためにこの帯を借りたそうです。
愛欲で一杯になったゼウスがヘラと愛し合っている間に戦況は逆転、トロイ側に不利になってしまったそうです。
金星(ビーナス)
太陽系の恒星で、日本では《明けの明星》《宵の明星》の二つ名を持つ明るい星です。
明星という輝かしい名前は美の女神であるアフロディーテになぞらえるには、ぴったりですね。
一昔前には《明星》というスターやアイドルなどのタレント情報誌がありましたが、ご存じでしょうか?
天秤座
星占いはいろいろありますが、一部では天秤座は金星を守護に持つとされているそうです。
なのでアフロディーテは天秤座の守護神と言われることもあるようですね。
泡から誕生した美しい女神
さてアフロディーテの誕生について紹介しましょう。
ウラヌスやクロノス、原初の神と深い関わりがあるのです。
大母神ガイアの教唆により、クロノスは父ウラヌスの男根を切り取り、倒しました。
そして海に投げ捨てた男根の回りに乳白色の泡が浮き立ちはじめると、世にも美しいアフロディーテが誕生したのです。
ぷかぷかと波間に漂いながら成長した美しい乙女は大きな帆立貝の殻に乗って、西風に運ばれキプロス島へ流れ着いたと言われています。
キプロスへ上陸した彼女の足下から花や若草が萌え出でて来ると、そこに美と愛も生まれたのだということです。
ボッティチェリの名作はこの場面を題材にしたものですね。
それにしても誕生の方法が方法だけに、アフロディーテの愛が《肉体>心》となるのも当然と言えば当然なのかも知れませんね。
恋に奔放な女神が招いた悲劇
アフロディーテは英語ではヴィーナスの名で知られています。
愛の女神故か、恋愛は自由奔放、勝手気ままでギリシア神話きってのプレイガールでもありました。
彼女はヘラの命令で、その息子鍛冶の神ヘパイストスと結婚させられます。
しかし、冴えないヘパイストスに不満を抱くアフロディーテは軍神アレスとの情事に燃え上がります。
アフロディーテはもちろん、アレスにも調和の女神ハルモニアという妻がいました。
ちなみにハーモニーという言葉はハルモニアに由来しています。
アフロディーテとアレスの大胆な関係は知らぬ者がいないほどであり、やがてヘパイストスの知るところになりました。
静かに怒りを溜めた彼は情事を楽しんでいる二人を一緒に縄で縛り上げてしまったのです。
器用なヘパイストスが作ったものですから、本人でなければほどけません。
裸同然でジタバタする二人は神々の笑いものにされたそうです。
アレスとアフロディーテの関係はゼウスも「いい加減にしろ」と嫌悪を覚えさせたらしく、彼女はゼウスによって牧人アンキセスと恋に落ちるように仕向けられてしまうのです。
ゼウスもアフロディーテとアバンチュールを楽しんでいたことは言うまでもありません。
人間であるアンキセウスとアフロディーテの間に生まれたのがアイネイアスで、彼は後にトロイア戦争で英雄として名を馳せることになります。
余談ですが、アイネイアスの武器を作ってあげたのは何とヘパイストスです。
彼は妻の頼みで、妻が愛人の間に産んだ子の武器を作ったのですが、果たしてどんな気持ちだったのでしょうか。
案外美貌の妻に惚れ込んでいて、よしよしと受け入れたのかもとも考えてしまいます。
そんなアフロディーテが人間の美少年アドニスに恋をしました。
アドニスはよほど魅力的だったのか、冥界の女王ペルセポネも彼に恋をしてしまったのです。
美少年をめぐる奪い合いが始まり、お互いの意地の張り合いを見かねたゼウスは、アフロディーテといる期間、ペルセポネといる期間、アドニスが自由に過ごせる期間の三つに1年を分けたら良いのではないかを提案したのです。
でもアドニスは自由になる期間もアフロディーテと過ごすことを希望しました。
それに嫉妬したペルセポネはアレスをそそのかし、猪に化けたアレスの襲撃によってアドニスは死んでしまったと言われます。
あるいはペルセポネは無関係で、アレスが独走して殺したという説もあります。
アレスに殺された美少年アドニスの血が大地に流れ、そこから咲いた花が後にアネモネと呼ばれるようになったと言います。
一応確認しておきますが、アフロディーテもペルセポネも人妻です。そして二人の夫は愛妻家とされています。
アフロディーテが多くの恋物語のヒロインになったのは、非常な美貌の持ち主であったこと、金の矢で人の恋心を自在に操る神エロス(キューピッド)を従えていたこと、人を魅了する不思議な力を持つ魔法の帯(ケストス)を身につけていたことなどが理由とされています。
現在も人々を魅了する美貌
自分の美貌に絶対的な自信を持っていたアフロディーテは、自分が一番美しいと認めなければ絶対満足しなかったそうです。
人間なのにたぐいまれな美人というプシュケの話を聞いた時には、わざと醜い男と恋に落ちるようにエロスを仕向けたり(失敗しましたが)有名なパリスの審判では、ヘラやアテナと美を競いました。
アフロディーテは勝利を収めましたが、彼女を選んだパリスと人妻ヘレネとの駆け落ちに協力したことで、トロイア戦争の遠因を作ることになってしまったのです。
《美しさは罪》という言葉がありますが、美しいアフロディーテの言動は数々の悲劇を生み出しました。
美女というのは漫画やゲーム作品の題材にはちょうど良いらしく、美の化身キャラとして登場することがとても多いようです。
アフロディーテ~芸術家をも魅了したケストスを持つ愛の女神~ まとめ
人間の欲望に忠実な神と言うのでしょうか、アフロディーテには肉体的愛の印象が強いと思います。
忠実すぎるあまり、多くの摩擦を生んだことも確かです。
しかし、人間は彼女へのあこがれを失うことはないでしょう。他の人を愛しく思うのは人間の本能ですからね。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。