名前だけではお菓子か何かと間違えそうな神チュール。
実は、かわいらしい名前とは裏腹に、神話上の彼は剛毅で凛々しい体育会系の神なんです。
今回はチュールを紹介します。
チュールとは?
種族: アース神族
地域: アースガルズ
別名: テュール、軍事の神、勝利の神、法律の神など
北欧神話の最高神オーディンの息子であるとも言われますが、巨人ヒュミルの息子とも言われている隻腕の神がチュールです。
オーディンを頂点とするアース親族の一人で、アースガルドに住んでいます。
館については特に出て来ませんし、妻の名前も出て来ませんから独身だったのではないかと思われます。
北欧神話では結婚していれば、館の名前が記載されているようです。
隻腕になったのは【魔狼フェンリル】を魔法の紐グレイプニルで捕らえるときに平然して右腕を差し出しからと言われています。
腕一本失っても冷静だったチュール。
大胆で勇敢な性格から、軍神とされ、勝利を司る神とされています。
勝利を意味するルーン文字は【(チュール)】は、彼自身も指すのです。
勇敢であり、冷静な軍神でもあり、知的な法律の神でもありました。
文武両道の神だったのですね。
前述したようにまたの名は【軍事の神】【勝利の神】【法律の神】です。
なかなか優秀な神という感じがしますね。
そんなチュールのアイテムについて紹介します。
チュールの剣
軍神には剣が必須アイテムですね。
チュールは勝利のルーン文字【】が刻まれた魔剣を携えています。
「チュールの名前を2回唱えると良い」と言われているので、剣にはルーン文字が二重に刻んであるそうです。
レージングル
ロキと魔女の間に生まれた魔狼フェンリル。
「災いになる」という予言と、余りに巨大化し、凶暴化したため、恐怖したアース親族の神々はなんとか閉じ込めようと考え、まずは縛ろうとしました。
そのときに使われた鉄の鎖がレージングルです。
しかし、あっさりとフェンリルに引きちぎられてしまいました。
ドローミ
再びフェンリルを縛ろうと用意した前回よりも丈夫な鉄の鎖がドローミです。
レージングルの倍の強度を持っていましたが、これまた簡単に引きちぎられてしまったのでした。
グレイプニル
世界にとっていずれは災いとなる魔狼フェンリル。
何とかして閉じ込めなければならないと小人族(黒妖精の国の妖精とも)に作らせたのが魔法の紐グレイプニルでした。
その材料は【猫の足音、女の髭、岩の根、クマの腱、魚の息、鳥の唾液】という何とも不可思議なものでしたが、神々がこれらを使ってしまったので、この世界に存在しなくなってしまったと言われています。
そう言えば、猫の足音はしませんよね。
チュールが右腕を差し出し、フェンリルががぶり付いている隙にグレイプニルで拘束することができたのでした。
このせいでチュールは隻腕になったのです。
ガルム
死の国ヘルヘイムの番犬です。
死の国の入口にある洞窟の門番で、生きた者は入らせず、死者を出さないように見張っています。
ギリシャ神話のケルベロスのような存在でしょうか。
神々の黄昏=ラグナロクにおいてチュールと戦い、相討ちとなったと言われています。
ちなみにガルムというのは栗本薫『グイン・サーガ』シリーズにも地獄の神として名前が登場していますね。
ヴァイキングの信仰を集める
チュールはオーディンの息子と言われていますが、『古エッダ』中の《ヒュミルの歌》によると、巨人ヒュミルの息子です。
チュールは元々北欧神話神の中でも古い起源があり、ゲルマン祖語では「天空神」と表記されることから、かつてはオーディンのような主たる神だったのではないかという一説があります。
フェンリルとの戦いに見られるように、大胆不敵で勇猛果敢なチュールは、明日の保証がないヴァイキングから絶大な支持と敬意を集めていました。
『古エッダ』中の《シグルドリーヴァの歌》の記載によると「勝利を望むなら剣の柄、血溝、剣の峰に勝利のルーンを彫り、2回チュールの名を唱えよ」という文章があります。
ヴァイキングは出航前にこの呪術を実践していたと言われています。
荒海に漕ぎ出し、敵と戦えば命の保証のないヴァィキング。
勝利の神であり、勇猛果敢なチュールにあやかりたいと願ったのは当然の心境だったと思います。
軍神チュールは冷静沈着で知的な性格持っていたので、法廷の神としても信仰されていました。
『新エッダ』中の《ギュルヴィたぶらかし》によるとチュールは戦いの勝敗を決する神でもあり、訴訟の勝敗を決める神でもあったと言われています。
古代の人々は勇敢で聡明なチュールを尊敬し、何者も恐れず進む者を【チュールのように強い】と誉め、思慮深く賢いものを【チュールのように賢い】とこれまた褒め称えました。
隻腕の軍神
チュールの特徴は何かと言ったら【隻腕】ということでしょう。
前述のように北欧神話上、最悪の邪神ロキの息子、魔狼フェンリルに右腕を噛み切られてしまったのです。
このエピソードについては《ギュルヴィたぶらかし》に詳細に記載されています。
【ロキの息子フェンリルは将来の災いになる】という予言に神々は自分たちがフェンリルを管理してなんとか危機から免れようと考えたのですが、誰一人として凶暴なフェンリルの世話ができませんでした。
勇敢なチュールだけがこの重責を引き受けたのです。
フェンリルは恐ろしいほど巨大な魔獣に育ち、その姿に「これはいよいよ災いの種」と考えた神々は魔獣を拘束してしまおうと対策を練りました。
そして、レージングとドローミという丈夫な鎖を作って縛りあげたのですが、フェンリルはどちらの鎖もいとも簡単に引きちぎってしまったのです。
ますますフェンリルが恐ろしくなった神々は、小人族に魔狼拘束用の道具を作るよう依頼しました。
小人族は【猫の足音、女の髭、岩の根、クマの腱、魚の息、鳥の唾液】の6つの素材を使い、しなやかで柔らかな魔法の紐グレイプニルを完成させました。
その紐を見たフェンリルは直感的にグレイプニルの強さを感じたのでしょう「神々の誰かが自分の口の中に腕を入れなければ、その紐はかけさせぬ」と言って口を開いたのです。
負ける試合はしないが、ただでは済ませない-と思ったのでしょうか。
魔狼の口に腕を入れたら食いちぎられるのはわかっていますから、名乗り出る者はなかなかいませんでした。
しかし、そこへ平然と腕を差し入れたのがチュールだったのです。
チュールの腕に気を取られている隙にフェンリルはグレイプニルをかけられました。
縛られて黙っているフェンリルではありません。
引きちぎろうと大暴れしましたが、グレイプニルは切れません。
激怒したフェンリルは口に入っていたチュールの右腕を噛み切ってしまったのでした。
チュールの右腕の犠牲のおかげで、フェンリルはやっと拘束することが出来たのです。
大きな犠牲で拘束できたフェンリル。
しかし、その後の天変地異によりグレイプニルが切られ、解放されたフェンリルはラグナロクでなんとオーディンを飲みこんでしまったのでした。
チュールは冥界の番犬ガルムと戦って、相討ちで斃れました。
エンタメワールドのチュール
チュールは軍神らしい堂々とした力強さと、毅然とした態度が魅力的なキャラクターですね。
こういうキャラは当然ながらエンタメでも人気があります。
家庭用ゲーム『斬撃のレギンレイヴ』
この中では、主人公フレイ(北欧神話の神です)の剣術の師匠という設定で、あらゆる武芸に精通していますが、普段は物静かで、いざという時には動くといった原典に通じる設定のキャラとなっています。
口元しか見えない兜で、表情が窺い知れないデザインも、より冷静さを引き立てているようです。
カードゲーム『カードファイト!!ヴァンガード』
このゲームのチュールには【滅獣軍神】という二つ名が与えられています。
機動力を補充してくれる能力を持ち、戦略の中核に据えられる重要なカードです。
【減獣】という言葉に原典のフェンリルとの戦いが結びつけられていますね。
『サモンズボード』『神獄のヴァルハラゲート』
上記のゲームの他にも、『サモンズボード』『神獄のヴァルハラゲート』などでは、カウンターや号令など、指揮官、軍神らしい技術的な能力が使用できるキャラクターになっています。
『進撃の巨人』
アニメ、実写映画でも話題となった大ヒットマンガ『進撃の巨人』。
エルヴィン・スミスが仲間を救い出す戦いの最中、右腕を失ってしまう話があります。
これはチュールがフェンリルに右腕を噛み切られたエピソードが参考になっているのではないかと推理するファンも多いと聞きます。
チュール~ヴァイキングに信仰された隻腕の軍神~ まとめ
フェンリルとの1件だけでも、キャラ立ちがよくわかるチュール。
将来の予言に怯えながらも何も出来ないオーディン達と比べても、魅力がありますね。
北欧神話のアニメ化なんてことになったら、人気はダントツではないかと思います。
また、妻の名前が出てこない=独身?
というところも人気の一因かも知れません。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。