なんとも、おもしろい名前の巨人族の二人ですが、オーディンの敵ではなく、むしろ最高神に騙された被害者と言った方がふさわしい存在です。
最高神なら望むモノは苦労せずに手に入るのが当然のような気がしますが、北欧神話では最高神も様々な手を尽くして欲しいモノをゲットしなければならないのです。
スットゥングとバウギ
種族: 霜の巨人
地域: ヨトゥンヘイム
スットゥングとバウギについては、原初の巨人ユミルと同じく、霜の巨人族です。
住んでいる場所も、巨人族の国ヨトゥンヘイムということしかデータがありません。
小人への復讐
スットゥングとバウギ兄弟の父ギリングはお人好しで他人を信じやすい巨人でした。
それを知った小人フィアラルとガラルの二人はギリングを海に誘い、わざと船を壊し、彼を海に落としてしまったのです。
フィアラルとガラルは船の破片にしがみついて岸に辿り着きましたが、泳げないギリングは溺れ死んでしまったのです。
二人の小人が故意にギリングを死なせたのでした。
それだけではありません。
フィアラルとガラルは「ギリングは死んだ」と妻に伝え、驚いて泣きながら外へ飛び出した彼女の頭に石が落ちるように仕掛けていたのです。
妻も石の一撃で死んでしまいました。
非道を行った二人は反省の色もなく、逆に「我々はギリングと妻を殺してやった」と自慢気に言いふらしたのです。
それを聞いたスットゥングとバウギが黙っているはずはありません。
フィアラルとガラルを含めた小人達を捕まえ、波の打ち寄せる岩に立たせ、潮が満ちてもそのままに立たせておいたのです。
さすがの小人達も根を上げ「何でも差し上げますから、助けてください」と泣きつきました。
そこで兄弟が手に入れたのが、【魔法の酒=賢者の酒】だったのです。
賢者の酒
飲んだものに知恵と素晴らしい詩を生み出す才能を与えると言われる酒ですが、実はその作り方も血生臭いものでした。
神々が才能を愛したクヴァシルという詩人がいたのですが、小人達は彼を殺し、その血で酒を作ったのです。
クヴァシルの血のさけだから、飲んだ者はその才能を受け継ぐことができるとされていたようです。
この酒を手に入れたスットゥングとバウギは、他人に取られることを不安に思う余り、フニトヴョルグという洞窟の奥に隠し、妹のグレンズに見張りをさせたのです。
一説では美しいグレンズを老婆の姿に変えて、見張りをさせたとも言われています。
グレンズにとってはとんだ迷惑ですよね。
オーディンの画策
豊かな才能が手に入る賢者の酒。
これを見逃す最高神オーディンではありません。
得意の変装で旅人姿になるとバウギの家を訪ねたのです。
バウギは奴隷を9人使って仕事をさせていたのですが、オーディンはあっさりとこの9人を殺害してしまいました。
そして人手が足りなくなって困っていたバウギに「9人以上の仕事をしますから雇ってください」と申し出たのです。
オーディンは9人分の仕事を一人でこなし、見返りとして賢者の酒を飲ませて欲しいと頼みました。
このあたり、オーディンのやることはあくどいですね。
最高神の仕事ぶりに感心したバウギは兄に事情を話して酒を分けるように頼んだのですが、スットゥングはきっぱりと断ったのです。
そこでオーディンは、仕事分の報酬を払えとバウギを脅し、洞窟フニトヴョルグに錐で穴を開けさせました。
バウギは開けたフリをしていたのですが、オーディンは穴が開いていないと見抜き、もっともっととバウギを急かし、錐を動かすよう強制したのです。
やがてぴったりと隙間のない洞窟の入口にほんの小さな穴が空きました。
オーディンはすかさず蛇に姿を変身すると、その穴の中からフニトヴョルグに侵入してしまいます。
洞窟で酒を守っていた妹のグレンズをオーディンは誘惑し、彼女の心を自分に向けさせます。
暗い洞窟の中に閉じ込められて、他人と会う機会のなかったグレンズがオーディンの甘言に乗せられてしまったのは当然のことかも知れません。
「ほんの少し、お酒を3口だけ飲ませて欲しい」というオーディンの願いに負けたグレンズ。
オーディンはその3口で酒全てを飲み干し、即鷹に姿を変えて飛び立たったのでした。
思いもかけない事態に呆然とするグレンズ。
アースガルドに戻ったオーディンは酒を桶の中に吐きだしました。
ほかの神もおかげで賢者の酒を飲むことができたのです。
エンタメ世界のスットゥングとバウギ
兄弟の名前がゲーム作品などに登場することは滅多にありませんが、アイテムとしての【スットゥングの蜜酒】は使用頻度が多いようです。
戦闘に詩の才能が役立つのか、という疑問はありますが、北欧神話では詩の才能は知恵と魔力の象徴とも言われ、人々が憧れる才能でもありました。
スットゥングとバウギ~賢者の酒と呼ばれる蜜酒を手に入れた兄弟~ まとめ
女性の中にはスットゥングとバウギ兄弟より、妹グレンズにシンパシィを感じる人もいらっしゃるのではないかと思います。
兄たちから洞窟に閉じ込められ、過酷な役目を押しつけられたグレンズ。
そんな彼女の前に現れたオーディンはここから自分を救い出してくれる王子様(!)と思ったかも知れません。
なのに酒を飲むためだけに自分は利用された…
同じようにオーディンに煮え湯を飲まされた兄たちと共に、ラグナログではアースの敵として戦ったのではないか…などと想像してしまうのです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。