エジプト神話にも多くの女神がいます。豊穣の女神であるイシス、猫の顔を持つバステト、殺戮の女神セクメトなど個性豊かな女神達です。今回紹介するセルケトは名前が似ているのでセクメトと間違えられるようですが、性格は全然違いました。
セルケトとは?
地中海に面したエジプトは国土の大半が砂漠に覆われた国でもあります。その砂漠に住む人々が恐れる生物が猛毒を持ったサソリです。その恐ろしいサソリを模した女神こそ、セルケトでした。セルケトの一般的な姿は、頭部にサソリを乗せています。
ケベフセヌエフ(死者の臓器を入れるカノプス壷を護るホルスの4人の息子の一人)と一緒に、死者の棺を守っていますが、その際はあたかも抱擁しているように両腕を広げた姿で表現されています。
別名として【セルキス】【セレケト】などの名前がありますが、発音される国によっての違いと思われます。フルネームは【セルケトヘティト】と言い“喉に呼吸させるもの”という意味があるそうです。
呪術と医療の女神
セルケトは元々限られた一部地域で信仰されていた古い女神と言われています。セルケトヘティトの意味が持っているように“危険なサソリの毒を解毒”できる能力を持っていたことを示唆しています。
そのため彼女は医療や呪いの女神と見なされ、呪術を専門とする医療神官たちに深く信仰されていました。
また、セルケトは蛇の女神であるウラエウスと同一視されるようになったため、太陽神【ラーの娘】となり、巨大な毒蛇アポピスからラーを守る役目を担っていたそうです。
時代が下りっていくと、セルケト女神は他地域の神話と混じりあり、変容していくようになります。
エジプト神話で一番有名なオシリス神話と混じり合うと、セルケトが産んだサソリが豊穣の女神イシス(オシリスの妻)と彼女のお腹の子ども(ホルス)を守っているという神話が誕生しました。
セルケトは他の女神たち並んでファラオの墓に描かれることでもわかるように、死んだ王の内臓を収めた【カノプスの壷】と体を入れた棺の守護という役割も与えられました。
王を護るという立ち位置のせいでしょうか、セルケトには【王の乳母】という別名も持っています。彼女の姿はあの有名なファラオ“トゥトアンクアメン(ツタンカーメン)”のピラミッドの中に収められているカノポス箱の黄金の厨子にも描かれているそうです。この事実でもセルケトがファラオの乳母役だったと言うことがよくわかりますね。
セルケトが頭に載せていた物
女神セルケトがサソリの女神となったのは実は後年の話です。その昔は頭には【タイコウチ】という生き物を載せていたそうです。
このタイコウチという生物はサソリによく似ているのですが、無毒です。水生動物ですが、写真を見るとカメムシのようにも見えます。
似ているのでサソリと勘違いされるようになったため、逆にセルケト神話に広がりが産まれたとも言えましょう。人間を脅かすサソリの女神ということで、信仰されていくようになったのです。勘違いによって、信仰が広まっていったという珍しい女神がセルケトと言うわけですね。
エンタメ世界のセルケト
ゲーム 『パズル&ドラゴンズ』
有名なゲームに登場しています。サソリという武器(?)があるためか、ゲームでは使い勝手の良いキャラなのでしょう。
ゲーム『遊戯王デュエルリンクス』
聖獣として登場します。上級モンスターの中でもトップクラスの攻撃力を持っているとか。
セルケト|サソリの毒を解毒できる女神セルケトヘティト まとめ
ファラオの乳母という母親的役割を与えられた女神セルケト。具体的なエピソードに乏しいのが残念ですが、表に出ない立場の乳母なら目立たないのが当然。サソリという恐ろしい物を頭に頂きながら、静かにファラオに仕えていた優しいけど、いざとなったら冷酷に行動する女性を想像していまいます。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
マイベスト漫画は何と言っても山岸凉子の『日出処の天子』連載初回に心臓わしづかみにされました。
「なんでなんで聖徳太子が、1万円札が、こんな妖しい美少年に!?」などと興奮しつつ毎月雑誌を購入して読みふけりました。
(当時の万札は聖徳太子だったのですよ、念のため)
もともと歴史が好きだったので、興味は日本史からシルクロード、三国志、ヨーロッパ、世界史へと展開。 その流れでギリシャ神話にもドはまりして、本やら漫画を集めたり…それが今に役立ってるのかな?と思ってます。
現在、欠かさず読んでいるのが『龍帥の翼』。 司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は有名ですが、劉邦の軍師となった張良が主役の漫画です。 頭が切れるのに、病弱で美形という少女漫画のようなキャラですが、史実ですからね。
マニアックな人間ですが、これからもよろしくお願いします。